旅行会社の新規事業
ツーリズムEXPOジャパン大阪・関西で開催された海外旅行セミナーで、古木康太郎JATAアウトバウンド促進協議会(JOTC)中東・アフリカ部会長(グローバルユースビューロー会長)は、OTAのシェアが約6割と大幅に伸びている一方で、旅行会社のシェアは4割まで落ち込んでいると述べ、旅行業界の厳しい現実を指摘した。
旅行のメインプレイヤーはOTAに変わり、旅行会社は旅行業界の本流から傍流に押し出されるかのようだ。業界シェアの過半数を失ったということは、与党から野党に転落したようなものである。業界の重鎮、古木氏の発言だけに、これから先の旅行業界を展望するに未来はあるのかと憂いざるを得ない。
とくに、パッケージツアーからOTAへの個人旅行の流れはとどまることを知らず、個人旅行で行けるところがパッケージツアーに戻ることは難しいように思われる。
古木氏はそれでも「パッケージツアーは消滅しない」と断言し、旅行会社のツアーでなければ、安心・安全、効率性の面から行くことが難しい中東・アフリカなどのツアー造成を推奨した。
中東・アフリカに限らず、中南米、アジア、ロシア、東欧、さらには都市はともかく、世界中の地方を旅するとなると、効率性から考えてパッケージツアーのアドバンテージはあると思うのだが、大きな流れには歯止めは効かないのかもしれない。
中小の旅行会社なら、全体に占めるパッケージツアーのシェアは小さくなっても、特定のデスティネーションでは、企画力で勝負できる商品造成ができる。
実際、中東・アフリカのセミナーは、関西空港からの路線が再開されることもあり、多くの旅行会社の関心を集めていた。
しかし、前述のOTA6割、旅行会社4割のシェア逆転は、大手旅行会社が最も影響を受けており、旅行業界を牽引する大手旅行会社が今後、どのように収益を伸ばしていくかが気になる。
そうした中で、大手旅行会社の中には新たな道を探る動きが出てきている。それが、脱旅行業なのか、旅行業を生かした新事業の創造なのかは、今後の推移を見ていくしかないが、個人旅行事業が小さくなっていく中で、新たな事業を大きな柱に育てることを目指している点は一致している。
JTBは様々な事業を手掛けているが、最近でも、教育旅行でシャープ、法人旅行ではソフトバンク系のSB C&Sと提携するなどサービス強化に努めている。教育旅行や法人旅行などの団体部門は、システムだけでは成り立たない分野だが、デジタルテクノロジーを活用して、ICT(情報通信技術)やAI技術を導入して、競争が激しくなるであろうこれらの分野のシェア拡大をめざす。
JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行などは地域交流事業を拡大しており、地域創生と連動して、地域のビジネス創出に貢献するとともに、新たな事業開発に乗り出している。
HISは澤田秀雄氏が社長に復帰してから「脱旅行業」を図り、旅行業に加えて、ロボット、ホテル、エネルギー、植物工場の4本を新たな柱に据える計画を打ち出した。ホテルは関西空港の開業で15軒を数えるが、100軒の目標はまだ先だ。
また、三重県のお茶をアゼルバイジャンの工場で加工し、抹茶チョコレートなどに製品化してロシア、CIS、欧州市場で販売する商社事業にも乗り出す。
こうしたことを背景に、HISは来年8月に持株会社に移行し、グループ経営体制を明確にする。現段階では、ホテル事業は拡大しているものの、旅行業主体の事業内容を変わらず、M&Aなどを行わない限り、多角的なグループ経営にはまだ時間が掛かるだろう。
OTAはこれからも流動的だ。システムの進化もさることながら、中国のTrip.com(旧Ctrip.com)グループの成長と躍進が目立つ。OTAの動きを横目に見つつ、旅行業の強みを最大限に生かす事業展開が得策に思える。(石原)