観光で復興支援
観光による復興支援が恒常化しつつある。昨年は関西を中心に西日本を襲った台風21号、北海道胆振東部地震などの自然災害により関西空港と新千歳空港が閉鎖、関西、北海道への訪日・国内旅行にキャンセルの影響が出た。
観光庁は関西では「Welcome!KANSAI,Japan」キャンペーン、北海道では「北海道ふっこう割」の施策も含めた「元気です北海道/Welcome!HOKKAIDO,Japan」キャンペーンを展開し、早期の回復を後押しした。
今年も観光庁は9月から10月にかけて発生した台風15号と台風19号で被災した地域の観光需要喚起を目的として、新たに「観光支援事業費補助金」を創設した。今回の台風被害が発生した14都県を対象に被災地域に対する1泊以上の旅行・宿泊商品を対象に1人泊あたり最大5000円を支援する。
また、代替交通手段の活用による旅行促進を図るため、公共交通機関が代替輸送手段を用意し、かつ低廉な料金を設定した場合に正規料金との差額を最大40%支給する。
補助金は今年度予算の予備費の中から約24億4600万円を上限として用意。対象となる都道府県は岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県の14都県。
事業スキームは、観光庁から対象都県に補助金を交付。交付額は各都県の域内に所在する災害救助法の適用市町村における宿泊キャンセル数を基に設定した。
旅行・宿泊料金の割引支援は、宿泊事業者や宿泊予約サイトを運営するOTAが設定した割引価格に対して差額を支援する形で、補助金を活用する。割引支援額は1人泊あたり最大5000円。補助金の運用は各都県の域内各地域の被災・復興状況などを踏まえ柔軟に執行する。
また、観光地そのものの被害は少ないものの、観光地に至る幹線交通機関などが被害を受けて、キャンセルが生じている地域もある。こうした地域では、公共交通事業者などが発着する代替輸送手段を用意するとともに、安い料金を設定した時には、公共交通機関事業者に正規料金との差額を最大40%支援する。
この補助金を使った復興事業の取組が期待されるが、既に、旅行会社やOTAでは、台風で被害を受けた地域に対して、観光復興の取組を開始している。
KNT-CTホールディングスは台風15号・19号の影響を受けた東日本エリアの観光需要の回復を支援するため、グループ各社が連携して特別キャンペーンを展開する。旅行商品の一部を値下げするほか、特典を用意し、旅を通じて東日本エリアの復興を応援する。
キャンペーンは「『旅で復興支援キャンペーン』〜とどけよう元気 東日本」というタイトルで展開。対象エリアは千葉・伊豆・箱根・埼玉・長野・茨城・群馬・岩手・宮城の9エリア。近畿日本ツーリスト、クラブツーリズムのグループ各社は、対象エリアの募集型企画旅行や宿泊商品で手頃な旅行代金を設定、ツアー参加者に抽選で東日本の名産品をプレゼントする。
日本旅行は台風15号で大きな被害を受けた千葉県での観光需要喚起を目的に、いすみ鉄道の貸切列車を使用したツアーを造成した。いすみ鉄道の観光列車を使用し、車内で沿線の地元産品を使用した行楽弁当を提供する。
楽天は「楽天トラベル」で台風15号と19号で大きな被害を受けた東日本14都県を対象とした宿泊割引クーポンを発行した。旅行客の受け入れが可能な地域への送客を促進し、早期に観光業を以前の水準に戻るために支援する。
台風の被害だけではない。10月31日の火災により世界遺産の首里城が正殿など9施設を焼失した。火災後、沖縄の観光関係者は衛藤沖縄担当大臣と田端観光庁長官に対して、沖縄観光の健全な発展の協力要請を行った。
沖縄ツーリストの東良和会長は、「要請の内容は復元そのものというより、復元までのプロセス、つまり正殿がない期間も、いかにこれまで通り訪問者の満足度を維持できるかという課題に対してのもの。たとえ正殿がなくても貴重な遺構や周辺施設は残っている。琉球王国の素晴らしい伝統文化や歴史は不滅。産官学が力を合わせて沖縄観光の健全な発展をさらに加速していこうと協力要請した」と語る。
現在は台風災害、首里城火災は募金支援が中心だが、旅行業界ができる最大の支援は観光復興であり、復興のための旅行商品、宿泊商品の造成を業界全体で取り組みたい。(石原)