厳しいが、がんばろう。
新年の会見や賀詞交歓会も終わり、正月気分もすっかりあけたが、今年の新年会見では気になることがあったので、ここで触れておきたい。
新春会見で日本旅行業協会(JATA)の田川博己会長は、インバウンド4000万人、アウトバウンド2000万人の「双方向交流6000万人時代」に向けて一丸となって取り組み、200以上の国と地域の人々が来日する東京オリンピック・パラリンピックで、「日本ならではなおもてなし」を展開し、東京を地方のショーケースとして、地方誘客に努めたいという話をした。
その後の質疑応答で、記者から4000万人は可能かどうかとの質問が出た。田川会長は自身がJTBということを前置きして、JTBが年末に公表した2020年の旅行動向見通しの訪日外国人旅行者数の見通し3430万人を紹介し、この数字を基に「4000万人は厳しいと思う」と述べた。
これは至極真っ当で、昨年末のJTBの見通しでは、訪日は2019年が3180万人、2020年は7.9%増の3430万人を予測した。2020年に4000万人を達成するには、その時点で年間25%以上伸びないと4000万人に届かない。10人中10人が「4000万人は厳しい」と言うだろう。
ただ、会見に同席していて、そこがニュースになるとは思った。JTBと前置きしているとはいえ、JATA会長が「4000万人は難しい」と言ったことは、一般紙にしてみれば格好のネタになる。
国土交通省、観光庁は2020年の訪日外客数4000万人、旅行消費額8兆円の目標をあきらめてはいない。結果はどうあれ、その目標に向かって取り組んでいく。旅行業界も同様で、「厳しいが、4000万人に向かって頑張る」ことでいいのではないか。
旅行業界はアウトバウンド中心に旅行事業を展開して、国から支援を受けたことがほとんどない。いわば、他の業界と違って「独立独歩」でここまできた。そこが航空・海運・陸運などの輸送業界などとは全く異なる。
双方向交流6000万人時代を迎えて、国際観光旅客税(出国税)のうち2000万人はアウトバウンドだが、国の観光予算のうち、アウトバウンド予算は旅行安全情報共有プラットフォーム「ツアーセーフティーネット」ぐらいだ。これは2020年度予算で1億2000万円計上された。これは、旅行者の安否確認の実施や海外安全情報の配信という意味で大変重要だが、アウトバウンド促進のための予算とは言い難い。
観光ビジョンに明記される「若者のアウトバウンド促進」の施策も予算化されなかった。JATAが2019年度から初めた「ハタチの一歩 20歳初めての海外体験プロジェクト」も観光局、航空会社、ホテルの協力で実現したのあって、観光庁からは「ビタ一文」も出ていない。
だが、時代は変わる。というよりも観光庁長官の存在が大きい。田端浩観光庁長官は日本ツアーオペレーター協会(OTOA)の新年会で、「日中間の修学旅行交流の拡大をはじめとして、若者や青少年のアウトバウンド促進にも引き続き力を入れる。産業界を挙げたハタチの一歩プロジェクトへの支援をはじめとして、来年度は予算面でも少しは貢献できるかと思う」と語った。
2020年度の観光庁予算として、教育旅行を通じた青少年交流の国際交流に1000万円の予算が計上された。1000万円と言うなかれ。初めてアウトバウンド促進に、国の予算が計上されたことは画期的なことだ。これは旅行業界として大いに評価すべきことと考える。
赤羽一嘉国土交通大臣も「ハタチの一歩 20歳初めての海外体験プロジェクト」を評価し、双方向交流の拡大を提唱している。国土交通省・観光庁と旅行業界の協力体制で、「双方向交流6000万人時代」の到来を期待したい。(石原)