旅行業界に「緊急事態宣言」
政府・新型コロナウイルス感染症対策本部が2月26日に、イベント等に対して、今後2週間の中止、延期、規模縮小等の対応を要請し、さらに翌27日には全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校に対して、3月2日からの春休みまでの一律休校を求めたことで、旅行どころから外出自粛が一斉に始まった。
旅行業、宿泊業などのツーリズム産業はもとより、新型コロナウイルス感染症は全業種の経営を悪化させ、とどのつまり、日本経済、ひいては世界経済に大きな影響を与えることが懸念されている。
既に、中国は新たな感染者が減少傾向にあり、峠を越したとの見方がある一方で、感染が世界中に広まりつつあり、新型コロナウイルスの封じ込め策が世界各国の課題となっている。
日本は3月3日時点のダイヤモンド・プリンセスの感染者706名を除けば、チャーター便帰国者を含む感染者は284名で、感染者は増えているとはいえ、爆発的に増加しているわけではないが、中国本土に次ぐ感染確認国という扱いを受けている。
外務省によると、3月3日時点で日本からの渡航者・日本人に対して22カ国・地域が入国制限を課しており、さらに増加傾向にある。ネパールやインドも渡航制限を課した。また、入国後に行動制限措置が実施されている国・地域は40以上に増えている。
とくに、気になるのは日本の主要デスティネーションである中国、台湾、香港、タイ、ベトナムなどのアジア各国や、日本人旅行者が好きなカナダ各州、トルコ、クロアチア、ケニア、マルタなども含まれていることだ。
入国制限、渡航制限の国・地域が増えれば、自粛ムードが広がる中で、日本の感染症対策が功を奏したとしても、旅行の回復には時間がかかることが懸念される。
とくに、海外各国の中には、日本を渡航制限、行動制限から除外している国々も多数存在する。これらの国々は、日本と双方向交流の良好な関係を構築しており、これまでの友好協力の賜物といっても過言ではない。
但し、新型コロナウイルス感染症は世界中に広がっており、北米、欧州などの各国の感染者も増加傾向にある。そうなると、自国への感染を防ぐ水際対策として渡航制限措置を取らざるを得ない状況も出てくる。
こうした日本に対する渡航制限を増やさず、逆に解除させるためには、何としても感染者数の拡大を抑制することだ。その意味で3月中旬までが「日本の正念場」になる。
その一方で、ツーリズム産業にとって、新型コロナウイルス感染症は今や死活問題になりつつある。訪日旅行・海外旅行・国内旅行の個人旅行・教育旅行・団体旅行・ビジネス渡航の全てが「自粛」の中で、どうやって収益を確保するのか。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、海外・国内・訪日旅行の大きな影響を与えているだけでなく、外出の手控え、消費の冷え込みから、日本経済に大きな影響を与えている。とくに、旅行業、宿泊業、観光施設、輸送業などのツーリズム産業の経営に重大な影響を与えている。
とくに、中小企業は深刻で、今後、現預金が減っていくに連れて、経営環境はさらに悪化することが予想される。
自民党観光立国調査会はツーリズム産業の経営支援として、運転資金の融資、キャンセル費用の補填などを提言するという。一日も早い支援策の実行が望まれる。
厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置を受ける対象事業主の範囲について、旅行業者などの観光関連産業を含む全業種の事業主に幅広く拡大することを決定した。
とくに、北海道を対象に「緊急事態宣言」を発出して活動自粛を要請している地域に所在する事業主は、生活指標要件は「満たすものとして扱う」こととし、売上高、販売量減少の数値を外し、対象も被保険者だけでなく「非正規を含めた雇用者」に広げた。助成率も中小企業は5分の4、大企業3分の2に拡大した。
新型コロナウイルス感染症の影響をまともに受けているツーリズム・観光産業は「緊急事態宣言」に等しい状況だ。特定地域だけでなく、業種にも「緊急事態」を適用すべきではないか。(石原)