助走と反転攻勢
政府は3月10日、新型コロナウイルス感染症の緊急対応策第2弾を発表し、企業に対する強力な資金繰り対策として、事態の終息の後、再度事業を成長の軌道に乗せていくため、中小・小規模事業者を中心に、日本政策金融公庫等による総額1兆6000億円規模の金融措置を講じる。
既に旅行会社の中には、中堅どころを中心に社員の一時休業、早期退職勧奨が始まっている。また、第2種、第3種など地方の旅行会社が事業停止に追い込まれたところも出ており、一刻も早い資金繰り支援と雇用調整助成を充当しなければならない。大手も決算見通しを赤字予想に下方修正している。
緊急対応策の第1弾は2月13日に発表され、予備費103億円を講じることにより、総額153億円の対応策を実行。合わせて日本政策金融公庫等に緊急貸付・保証枠として5000億円を確保した。
この時には「観光業等の中小企業・小規模事業者対策等」が盛り込まれ、新型コロナウイルス感染症の国際的な広がりの影響を受けている中小企業、小規模事業者に対して、日本政策金融公庫等による貸付や信用保証協会によるセーフティネット保証により、資金繰り支援を実施するとした。
それから約1カ月余り、ツーリズム産業は海外・国内・訪日の3部門全ての観光・ビジネス・教育・MICE全てにわたり、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、最早「逃げ場」のない状況に置かれている。さらに、今回の感染症は全業種が経営に打撃を受けており、5000億円規模の資金繰り支援ではとても足りない状況だ。
そこで、第2弾の緊急対応策が発表されたわけだが、中身は「新型コロナウイルス感染症特別貸付制度」を5000億円規模で創設し、金利引下げ、さらに中小・小規模事業者等に実質的に無利子・無担保の資金繰り支援、信用保証協会によるセーフティネット4号(100%)・5号(80%)、危機関連保証(100%)の実施、日本政策投資銀行、商工中金による危機対応業務により資金繰りや国内サプライチェーン再編支援を2040億円規模で行うほか、民間金融機関における新規融資を積極的に実施し、既往債務の条件変更等を要請するとした。
また、雇用調整助成金の特例措置の拡大については、新型コロナウイルス感染症の影響により、人や物の動きが停滞し、事業活動を縮小せざるを得ない事業者が生じているとして、その場合でも雇用が維持され、国民生活の安定が保たれるよう、雇用調整助成金の特例措置を大幅に拡大する。
具体的には、特例措置の対象を全事業主に拡大、一斉休業等の対象を明確化し、1月に遡って適用する。また、特別な地域における助成率を中小企業は3分の2から5分の4に、大企業は2分の1から3分の2に上乗せする。
旅行・航空・宿泊・観光施設などのツーリズム産業は、肌感覚ではリーマンショック、SARS、東日本大震災を超える経営環境の悪化が懸念されており、今回の緊急対応策第2弾の出動は評価できる。
今回の第2弾でも政府は観光業への対応として、観光需要の回復は感染拡大の防止が前提となることを踏まえ、観光業については当面、雇用調整助成金や資金繰り対策により強力に下支えするとした。また、同時に感染防止に取り組む期間を、積極的な「助走期間」と位置づけ、将来の反転攻勢のための基盤を整備することを強調した。
そのための具体策として、魅力的な観光コンテンツの造成、多言語表示等、観光地の誘客先の多角化等を支援する。また、事態終息後の官民一体となったキャンペーン等を検討することを明記した。
全国旅行業協会(ANTA)会長でもある二階俊博自民党幹事長の観光業に対するバックアップが大きいと推察する。この危機を助走として乗り越え、感染症の終息後に、官民一体の海外・国内・訪日旅行の大キャンペーン展開で、反転攻勢を仕掛けたい。(石原)