航空会社のV字回復を
新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、世界経済全体に大きな影響を与えているが、その際たる打撃を受けているのは観光関連業界だろう。中でも、航空業界はかつてない試練に立たされている。
過去に湾岸戦争、SAAS(重症急性呼吸器症候群)、米国同時多発テロ、リーマンショックなど様々な外的リスクがあったが、今回のように世界中の人的交流が止まるということは、第二次大戦後はなかったのではないか。
例えば、2003年のSARSの時は、まだ訪日旅行の規模が小さく、航空事業は観光とビジネス分野の日本人の海外渡航と国内旅行が主力分野だった。海外渡航は大きな影響を受けたが、その分、国内旅行に需要がシフトし、それなりにリカバリーされた。
テロや戦争、災害の時も、航空需要は半年から1年は需要は落ち込むが、それでも「ゼロ」ということはなく、時が経てば需要を戻ることを経験値として知っている。
ところが今回は「行き場」も「逃げ場」もない。国際線は出入国禁止、国境封鎖、航空機運航停止で90%以上の減便・運休で、ほぼ事業が壊滅状態となった。国内線は4割から5割は運航されているものの、政府による7都道府県の緊急事態宣言を受けて、外出自粛により減便・運休が加速するという厳しい局面にさらされており、ANAホールディングスの片野坂社長が語る「深刻な事態」を物語る。
航空業界は「装置産業」であり、航空機を空港に置いておくだけで、莫大な費用が掛かる。このため、航空業界は空港使用料や航空機燃料税など諸税の減免措置拡大、雇用調整助成金制度の要件緩和、U/Lルール適用除外期間の延長を求めている。
4月5日に定期航空協会が発表した試算では、2〜5カ月間で国内航空会社は約5000億円の減収が見込まれ、当初1年間で1兆円と予想した損失はさらに膨らむ見通しだ。同協会は政府に対して2兆円の無担保融資を求める方針とされるが、長引けば、さらに追加融資が必要になることも予想される。
IATA(国際航空運送協会)は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、2020年の航空会社全体の旅客収入は前年比約33兆円減少すると試算した。IATAでは終息への道が開けたとしても、「もはやV字回復は望めず、U字回復になる」と立て直しに時間が掛かることを示唆している。
その数字を裏付けるように、3月の訪日外国人旅行者数は前年同月比93.0%減の19万3700人、出国日本人数は85.9%減の27万2000人という「目を覆いたくなる」数字となった。新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界の人的交流は壊滅的な危機に陥っている。
現状は正しく「経済よりも命が大切」で、終息の道が開けるまでは、経済再開を我慢するほかはないかもしれない。ただ、欧米での感染が減速傾向にあり、経済再開が政府関係者の口から出始めてきた。
ただ、日本国内の感染拡大は未だ先行き不透明であり、休業補償の問題はあるにせよ、リカバリーキャンペーンに道を開くためにも、今は外出自粛を徹底したい。
今後、さらに感染症の終息が長引くと、大手航空会社は政府系金融機関などからの資金調達が必須となるだろうし、大手航空会社系列のLCCの再編などもあるかもしれない。既に、海外では事業基盤の脆弱なLCCの経営悪化が伝えられている。日本でも今回の感染症危機による政府融資を契機に、日本の航空会社に対して再編を求めてくる可能性もある。
新型コロナウイルス終息の道が開けた時に、官民一体で反転攻勢のリカバリーキャンペーンを仕掛けるための装置は航空機、鉄道、バスなどの輸送産業であり、航空業界がV字回復の先頭に立たなくてはならない。リカバリーキャンペーンを成功させるには、航空会社への支援が絶対条件になるだろう。(石原)