「鎖国」から「開国」へ
日本旅行業協会(JATA)の新体制の記者会見で、菊間潤吾副会長は、「まずはビジネス渡航のトラフィックの回復へ海外旅行の観点だけでなく、国際交流の再開に向けて一日も早いPCR検査の拡充を求めたい。このためには、ビジネス渡航の制約が足枷となる経済界と歩調を合わせ、航空会社、空港など国際交流の早期回復が必要な関連産業とともに声を上げていきたい」と危機感を持って語った。
EU各国や英国が日本などを対象に入国制限の緩和に踏み切っているのに対して、日本政府の動きがなかなか進まない。どうにも入国制限の緩和に二の足を踏んでいるような印象を受ける。
各国の入国条件はそれぞれに異なるが、入国に際してPCR検査の陰性証明書が必要な国が多い。これを提示することによって、入国後の14日間隔離が免除される。
つまり、海外渡航にはPCR検査による陰性証明書が不可欠であり、そのためには大前提に日本国内のPCR検査の拡充が絶対条件になる。なぜ政府はPCR検査を拡充しないのか。
政府が新設した有識者会議「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の初会合で、尾身茂分科会会長は、PCR検査対象を拡大することに対して「国民のコンセンサスが必要」と政府に提言したと語った。「PCR検査の拡充には様々な意見がある」と述べ、いわゆる感染症の「常識」とされる偽陽性、偽陰性まで出して「最終的な結論を出してほしい」と政府と国民に判断を委ねた。
PCR検査を拡充すれば、陽性者の数が増える。これに対して、日本中が騒ぎになることを恐れているのだろうか。既に、舵は「感染症対策と経済社会活動の両立」に切られており、さらなる経済社会活動の回復には、PCR検査の拡充しかないのでないか。
PCR検査の拡充の次は、互恵主義、相互主義にもとづく入国制限の緩和である。欧州が日本よりも毎日の感染者が多いにもかかわらず、入国制限を緩和するのは、観光が基幹産業であり、このままでは観光産業が壊滅することに危機感を持っているからだ。
欧州などは日本からの入国に対して、陰性証明書などがあれば、14日間の隔離が免除される。それに対して、日本は世界中に渡航制限、入国制限措置を取っている。現状では、海外からの入国者は14日間の検疫隔離、日本人旅行者も海外から帰国した場合には14日間の検疫隔離が課される。これでは旅行できない。
分科会は今後の入国制限について、入国前、入国時の空港での検疫、入国後の国内で発症した際の対応を内閣官房、法務省、外務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省など省庁横断により、各国の感染状況のデータをもとに、渡航者に対して柔軟な対応をできるような一元的な意思決定体制が必要」と指摘した。
もっと欧州のように、迅速な動きができないものだろうか。アプリを使うなどの手段はいいとして、入国制限を緩和してビジネス、レジャーの国際往来を活性化させて、経済活動を回復するという強い意思が感じられない。
欧州は「鎖国」から「開国」へ踏み出した。日本がいつまでも「鎖国」を続けていては、明治維新ではないが、また取り残されてしまう。「観光先進国」をめざすなら、欧州以上に早く、入国制限を緩和して、訪日インバウンドを呼び込むことだ。それには、まずは日本人のアウトバウンドの扉を開けなくてはならない。
分科会がPCR検査の拡充に、国民のコンセンサスが必要と指摘したが、西村大臣がPCR検査に対して「考え方を急ぎ整理する」、出入国対策については「外務省、安全保障局と連携して、検討を深めていきたい」と語っているようでは、本当にいつになるかわからない。
これから実施すべきことは、日本に対して入国制限を緩和している国々に対して、相互主義に基づき、入国制限、出国制限の緩和、入国時の14日間隔離などの制限措置を解除することだ。同時に、日本人旅行者の海外旅行再開に向けて、PCR検査を拡充し、ビジネス、レジャーの旅行自由化に向けて体制を整備することではないか。政府の決断を望みたい。(石原)