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2020.11.02

ANAの変革は成功するか

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響による全世界「鎖国状態」は、世界をネットワークで繋ぐ航空会社にとっては致命的な出来事だった。航空会社だけでなく、旅行会社、オペレーター、ホテル、クルーズなど、ツーリズム産業に携わる企業にとって、これほどの危機的状況はかつてなかった。
 とにかく、一時は外出自粛により国内・海外・訪日渡航の全てが閉ざされ、売上ほぼゼロの時期が続いた。Go To トラベル事業が行われている今でも、国内旅行は完全回復していないし、海外・訪日に至っては今もゼロに近く、なおかつ来年以降の見通しも立っていない状況だ。産業が消滅している状態では、動けば動くほど赤字が膨らんでいく。
 多くの企業が危殆に瀕しているが、中でも最も経営環境が厳しいのは航空会社だろう。航空会社は「装置産業」である。巨大企業ほど経営は厳しくなる。航空機は飛ぶ時は最大の武器だが、飛べない時は最大のお荷物になる。駐機しているだけで、どんどんコストが発生していく。
 ANAホールディングスは、今年度5100億円の赤字見通しを発表した。売上1兆円規模の企業の単年度赤字が5000億円とは、いかにコロナの影響が大きいか分かる。
 同社の片野坂社長はコロナ危機から脱するため、ビジネスモデルを劇的に変革すると明言した。航空事業は第3ブランドとなる中距離国際線LCCを設立し、ANA、新会社、ピーチ・アビエーションの3ブランド体制を構築する。また、航空事業とともに、グルール事業を再編して成長させることで、2つの事業を両輪とする体制に生まれ変わらせる。それによって、今年度の5100億円の赤字化から来年度は一挙に黒字体制に戻すという。
 1年で巨額の赤字から黒字に転換するのは、素人目にも厳しいと思うが、機材の売却前倒しと従業員の出向などによるコスト削減と国内線の本格稼働、国際線の回復などによる黒字化を狙う。だが、国際線の運航は来年もまだ見通しが立たない。
 フルサービスキャリアがLCCに進出して、成功して事例は少ない。カンタス航空、シンガポール航空にしてもジェットスター、スクートと干渉しておらず、経営には関与しない。それが成功の秘訣と思う。
 ANAグループがエアアジア・ジャパン、バニラでLCC事業が成功せず、資本参加はしていたものの経営にタッチしていなかったピーチが成功していることが、それを物語っている。
 したがって、第3ブランドの中距離国際線LCCの新会社設立が、成功するかは未知数だ。ただ、ピーチを成功させた井上ANA専務が新会社の経営を担当すれば可能性はあるかもしれない。新会社はスクート、JALのZIP AIR当たりと競合するが、今度こそ失敗は許されないだろう。
 また、グループ事業を成長させるため、ANAセールスが分割される。ANAマイレージクラブなどのプラットフォームビジネスのANAXと新たに地域創生事業会社の2つに分かれるという。
 ダイナミック・プライシングの導入で、航空会社系のホールセラーとしてのANAセールスの役割は、コロナ禍を契機に終止符が打たれるのだろうか。「ANAワンダーアース」のような野心的なパッケージツアーはもう見れないかもしれない。
 ANAセールスは、全日空ワールド/ANAハローツアー、全日空商事/ANAスカイホリデーの2つのブランドを持ち、統合してからも全日空のホールセラーとして海外・国内旅行商品を企画・造成してきた。同社が、もしデジタル事業化されて、ツアーの企画・造成から撤退していくのなら残念な気もする。
 かつて、ANAもJALもホテル事業に進出して失敗した。ホテル事業の売却時には、航空会社の「本業回帰」を強調していた。しかし、コロナ禍で「本業全滅」を経験した時、リスク分散には事業の多角化は必須とも思う。それは、旅行会社にも言えることだろう。
 ANAセールスの分割、行く末を含めて、片野坂社長が語る「感染症の再来にも耐えられるよう強靭なANAグループに生まれ変わり、ビジネスモデルを劇的に変革する」姿を見てみよう。(石原)