【潮流】Go Toトラベル再開に想う
衆議院で国会論戦が始まった。2020年度の第3次補正追加予算を巡って与野党の激しい攻防が続く。だが、聞いていて虚しさを覚える。論戦が噛み合っていないからだ。
政府の新型コロナウイルス感染拡大防止対策が後手に回ったとして、野党は政府を攻撃する。とくに、世論、マスコミの批判を追い風として、野党はGo To キャンペーンの追加予算1兆円をコロナ医療対策費に回すことを要求。Go To トラベル事業の再開のための予算を「不謹慎」と言い出す議員までいる。
背景には、昨年7月以降に始まったGo Toキャンペーン事業が新型コロナウイルス感染症の再拡大を引き起こした要因と見ているからだ。感染拡大の最大の要因が、多人数の会食による会話にあるとして、飲食店の午後8時以降の営業時間の短縮要請となり、特措法の改正により、今後さらに徹底化が図られる。
しかし、野党の最大のターゲットはGo Toトラベル事業で、昨年7月22日から始まったGo Toトラベル事業が感染拡大の「元凶」として攻撃を強めている。
政府の新型コロナウイルス分科会がGo Toトラベルによって感染拡大が起きたエビデンスはないと言っているにも関わらず、Go Toトラベルが要因と決めつける。マスコミもこれを裏付けるものがあれば飛びつく。
Go Toトラベル事業による旅行者の移動ところな感染拡大の因果関係を指摘するレポートがいくつか出ている。だが、いずれも「Go Toトラベルが感染拡大につながったとは断言できない」としている。それでも、まるで感染拡大の要因のようにマスコミが報道し、Go Toトラベルが感染拡大の「元凶」のように世論形成されていく。
何でも対立構造にしないと気がすまないのだろうか。分断して対立構造をつくるところは米国と同じではないか。新型コロナウイルス感染防止対策と経済社会活動は対立するものではない。与党と野党、保守とリベラル、右派と左派に関係なく、冷静に見極めていくことが必要だ。
世界中の先進国の新型コロナウイルス感染防止対策と経済社会活動の再開を見てほしい。各国ともに感染防止対策をしながら経済社会活動を行っている。感染が拡大したから再びロックダウンして経済社会活動を制限している。現在は、感染が拡大し、医療体制が逼迫したことにより、緊急事態宣言が発出されて、経済社会活動を制限している状況だ。
Go Toキャンペーンの中止によって、旅行・宿泊・飲食・エンターテイメント産業などは経営や生活が危機的状況にあり、他の産業と比べてコロナ危機に対する温度差が広がっている。収入面では格差がさらに拡大している。
2020年の旅行業者の倒産件数は20件程度だが、旅行業者の廃業は昨年4月から今年1月までの10カ月間の累計で530社に上っており、自ら廃業・解散・清算する企業が続出している。3月期決算を迎えて、中堅企業の廃業も相次いでおり、旅行業の経営者の中にはこの機会にリタイアする人も目立ってきた。
Go Toを停止して、事業者の補償を厚くしろという意見があるが、国の財政面は別として、コロナ禍から1年を過ぎ、さらにまた1年、会社が補償で存続することは企業経営者としては辛い。先を見通すことができれば、それを目標に休業できるかもしれないが、先が見えないと精神的、肉体的に非常に厳しいものがある。
また、Go Toトラベル事業がコロナで疲弊している地域経済に貢献していることを忘れてはならない。政府・観光庁は「地域経済を下支えしている」と主張する。たしかにその通りだが、訪日インバウンドが1年近くもゼロの状態の中で、地域経済が頼りにしているのは、現状では観光しかないことをもっとアピールすべきだ。
残念なことに、分断は旅行業界にもあって、Go Toトラベルの恩恵が大手偏重という声が聞こえる。中小事業者でもGo Toで利益を上げている企業はあり、宿泊業、観光施設業など地域がGo Toでどれだけ助かったことか。
観光庁はGo Toトラベル再開の折には、中小事業者を救済できるように制度設計を検討している。Go Toトラベル事業の再開が成功するには、観光事業者は一枚岩にならなければならない。(石原)