【潮流】公平な世界でモラルを守る
東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に発出されていた緊急事態宣言は延長され、5月12日からは愛知、福岡の両県が加わり、6都府県に拡大した。さらに、まん延防止等重点措置は5月9日から北海道、岐阜、三重が加わり、8道府県に拡大した。緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の期限は5月31日までだが、感染が高止まりしている状況ではどうなるか、現段階では分からない。
緊急事態宣言の解除、延長理由の「科学的エビデンス」が曖昧で、首相の発言も抽象的で、「人流抑制」は効果を発揮していない。外出自粛や移動制限も多くの人は守っているが、出かける人は一定数いて、この一年間のコロナ対策に対する政治不信もあり、バラバラ感が否めない。
国民にお願いするのであれば、大事なことは「公平」「公明正大」だと思うが、これをおざなりにすると、政治不信が増長する。
緊急事態宣言の延長に際して、対策を緩和したのは一体どういうわけなのか。とくに、飲食店の休業要請をそのまま継続したのに関わらず、大型商業施設は休業要請から営業時間短縮要請に緩和したことに対して、納得できる説明がない。
また、東京都は、劇場・屋外スポーツ施設の再開へ対策を緩和するものの、一方で、映画館などは引き続き休業要請を継続する。素人目にも大声を発する劇場よりも映画館のほうが安全で、普通なら逆と思うが、区分した理由が全く分からない。
コロナ禍で儲かっている企業とどん底に喘ぐ企業、コロナウイルスに対する認識、政府・自治体の感染防止対策に対する行動などが二極化している。コロナ赤字で苦しむ企業、外出・移動を我慢する人々の不公平感は募る一方だ。
これにワクチン接種の混乱が輪をかける。岐阜県で起きた地域の有力者に対するワクチン接種の便宜供与に、地元の人々は憤りを隠せないだろう。いくら地域に貢献した人であっても、ワクチン接種で高齢者が行列しているのに、車で乗りつてワクチンを接種していくというのは、またしても「上級国民」という言葉が浮かんでくる。内部告発で発覚し、実際には行われなかったものの、ワクチンの重要性を鑑みると、不公平感が極まる事象と言える。
緊急事態宣言の延長を前に、スポーツ、音楽、エンタテイメントなどの各団体が無観客開催の緩和を求める要望書を提出した。経済社会活動と感染防止対策の両立の中で、コロナ禍で苦しむ業界が規制緩和を求めることは十分に理解できる。
だが、緊急事態宣言が延長される地域に対して、感染対策を緩和することは理解に苦しむ。加えて、そこに差を付けることは不公平感を助長し、到底理解できない。絶対にしてはならないことだ。
旅行業界はGo Toトラベルキャンペーンで批判された。Go Toトラベルが感染を拡大したエビデンスはないが、「感染拡大防止が人流抑制」にあるというなら業界挙げて遵守する。
それなのに、団体の要請を受けたら緊急事態宣言下でも感染対策を緩和するというのはどういうことか。団体の力と思われても仕方がないだろう。緊急事態宣言下ではイベントは「無観客」で実施すべきだ。緩和したら、さらに守らなくなる人が出てくる。
旅行業界の人々は緊急事態宣言下で、外出自粛、移動制限の要請を守っていると思っていた。しかるに、SNS上で喜々として外出している投稿を見ると悲しくなる。事情があって東京から都外に出る人もいるだろうが、少なくともSNSに上げる神経を疑う。政府に対する批判はあるだろうが、旅行業界こそ、率先して感染防止対策を徹底化し、旅行を催行してかなくてはならない。個人として一人ひとりがモラルを守ることは前提条件だ。
ワクチンパスポートが現実を帯び始め、海外では国際旅行の再開が動き出している。国内旅行の本格化、海外・訪日旅行の再開に向けて、旅行業界が信頼性を問われないようにしたい。(石原)