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2021.05.31

【潮流】雇調金の特例延長が「命綱」

 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進む欧米では、海外旅行の再開が動き出しているが、ワクチン接種が進まず、感染者が高止まりしている日本では、旅行業者の経営がさらに悪化の一途を辿っている。頼みの綱は雇用調整助成金の特例措置の延長だが、ここに来てようやく延長に向けて動き出した。
 5月26日現在、政府は雇用調整助成金の特例措置の期限としていた6月末以降も延長する方向で検討に入った。緊急事態宣言の再延長決定に伴い、経営状況が厳しい業種に対して「業況特例」、緊急事態宣言対象地域等で営業時間の短縮等に協力する事業主を対象に「地域に係る特例」を適用し、7月以降も特例が延長される方向にある。
 これまで、自民党の雇用問題調査会から政府に対して、雇用調整助成金の特例延長に関する要望が出されていた。厚労省は雇用調整助成金の特例措置は当初4月30日を期限に、1人1日当たり1万5000円(助成率10/10)の上限額を1万3500円(助成率9/10)に縮減したが、「業況特例」、l「地域に係る特例」は6月30日まで1人1日当たり1万5000円(助成率10/10)の特例措置を延長した。
 自民党雇用問題調査会や国土交通部会による産業界からのヒアリングでも、新型コロナウイルスの感染拡大と三度にわたる緊急事態宣言などにより、観光関連産業は大打撃を受けており、このままでは経営を維持し雇用を守ることは極めて困難として、雇用調整助成金の特例措置については7月以降の延長を求める声が相次いでいた。旅行、航空、宿泊業界をはじめ、バス、タクシー、船舶、鉄道などの関連産業界からも雇調金の特例措置の延長を求める声が多数挙がっていた。
 日本旅行業協会(JATA)と全国旅行業協会(ANTA)は、大手旅行会社の2月の国内旅行予約人員は一昨年比で約81%減少、さらに海外旅行と訪日旅行は100%近い減少となっており、中小旅行会社も同様に極めて厳しい経営状況が続いていると説明。これまで営業所の閉鎖や縮小、従業員の休業日取得などでなんとか雇用を維持してきたが、命綱となっている雇用調整助成金が6月末で支給終了となれば、「我が国の観光関連産業の中核を担う数多くの旅行会社の廃業と大量解雇を生み出すことを意味する」として、6月末で期限を迎える雇用調整助成金の受給期間の延長と、特例措置の延長を要望した。
 定期航空協会は新型コロナウイルスの影響で大手2社の売上高は約2兆円以上の減収、約1兆円近い営業赤字と非常に厳しい経営環境にあると説明した上で、需要が回復するまでの間、雇用調整助成金の特例措置を延長するよう要望した。また、国内でのワクチンの航空従事者への早期接種や、ワクチン接種記録に関するデジタル証明書の早期導入などを要望した。
 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会は、緊急事態宣言の発出やGo Toトラベルの全国一時停止措置などにより、繁忙期を含めて旅行自体が自粛され、宿泊業界は全国的に未曾有の経営環境に置かれているとして、雇用調整助成金の特例措置はコロナが収束し、訪日客や国内旅行が安心して旅行できるまでの間延長するよう要望した。
 訪日インバウンド事業者もほぼ1年間の訪日旅行の消滅で、経営が成り立たないのが現状だ。日本インバウンド・メディア・コンソーシアム(JIMC)の調査によると、400社の国内ランドオペレーターのうち、連絡が取れないところも多く、既に廃業に追い込まれた企業が相当数出ているという。
 調査のうち全体の75%が雇用調整助成金を活用しており、新規事業も取り組んでいるものの、ほぼ全ての企業が雇用調整助成金、一時給付金による支援を期待している。
 中小の旅行事業者は、海外・訪日・国内を問わず、経営を維持するためには、雇用調整助成金の特例措置延長が「命綱」になっている。関連事業や新規事業に取り組むにしても、雇調金の特例措置なくしては、もはや維持できないところまで追い込まれている。(石原)