【潮流】海外旅行に明るい兆し
2020年度の大手旅行会社の決算がほぼ出揃った。期末は違うが、3月期ではJTBが最終赤字1052億円、KNT-CTホールディングスが最終赤字285億円、阪急交通社は営業赤字74億円。12月期では日本旅行が最終赤字128億円だった。中堅では3月期で旅工房が最終赤字15億円を計上した。
HISは10月期決算だが、20年10月期は最終赤字250億円を計上した。コロナ禍が影響しなかった2019年11月から20年2月の4カ月が含まれており、仮に3月期だったら、さらに厳しい決算だっただろう。
国内旅行はGo Toトラベルキャンペーンもあり、前年と比べれば大幅減だが、業績を下支えした。これ以上の赤字を防いだのは、Go Toトラベルがあったからだろう。人流の動きで、Go Toが感染拡大のやり玉に上がったが、Go Toトラベルに関しては今も感染拡大のエビデンスとはなっていない。
旅行会社にとっての最大の痛手は、やはり海外旅行事業が消失したことだろう。同時に訪日旅行事業も消滅状態になったが、もともと訪日旅行は大手旅行会社の事業規模の中では大きくない。
中小の旅行会社でも海外旅行専業の旅行会社は事業の消失で、休業状態に入った会社もあれば、コスト削減に努めた会社もある。一方で、新たな事業分野に挑戦した会社もある。
大手も人件費の抑制で、夏・冬の賞与見送り、役員報酬のカット、早期退職募集などに踏み切った。自治体や他企業への出向など、様々なコスト削減策を実施した。雇用調整金や持続化給付金など、政府の支援金は企業経営継続に最も重要な役割を果たしている。
このように、旅行業界は2020年度にかつてないほどの巨額な赤字を計上した。コロナ禍は2021年度も続き、この状況では21年度の業績見通しはとても立てられないが、JTBは敢えて21年度の黒字化を実現することを表明した。
山北栄二郎社長はオンライン決算会見で、「何としても黒字化を実現する」と述べ、業界のマーケットリーダーとして、ツーリズム産業を牽引する強い決意を語った。
単年度黒字に戻すには、2021年度の売上総利益を前年の3割増、コロナ前比5割減ぐらいまで持っていかなければならないという。とくに、旅行事業は前年の5割増、コロナ前の6割減を計画している。これはなかなかハードルが高い数字だ。内訳を見ると、国内旅行は前年6割増、コロナ前2割減、海外旅行はコロナ前9割減を見込んでいる。
これを見ると、21年度は国内旅行の回復が鍵になる。コロナ前8割の実績まで持っていくということは、ゴールデンウィークは緊急事態宣言で旅行が厳しかったが、夏から回復することを予測した上でのことだろう。緊急事態宣言が6月20日に終わり、7月から夏休みにかけて国内旅行が回復すると見ているのではないか。
一方で、海外旅行はハワイ、アジア、欧州の一部の国・地域を対象に、9月ころから段階的に始まると見ている。したがって、今年は下半期から再開はするが、収益ベースに乗せるのは来年度以降と予測し、多くてもコロナ前の1割程度の収益と予想しているのだろう。
ただ、ワクチン接種の普及で、ワクチンパスポート取得による海外旅行の再開が現実性を帯び始めている。変異株の動きもあり、予測は難しいが、経団連もワクチン接種の加速、ワクチンパスポートの活用による経済活性化を政府に要望している。旅行や航空などの観光産業だけでなく、経済界全体でワクチンパスポートの普及が動き出した。
各国政府観光局も活動が活発化している。日本市場に向けて観光客誘致のプロモーションが熱を帯びてきた。高齢者のワクチン接種が行き渡れば、シニア向けの海外旅行プロモーション、さらにワクチン接種が加速すれば、旅行を牽引する女性層などへの誘客プロモーションが始まるだろう。海外旅行に明るい兆しがようやく見えてきた。(石原)