【潮流】虚しい観光立国
日本旅行業協会(JATA)の高橋広行会長は3月23日の記者会見で、「遅くとも夏休み前までには一部の国・地域との国際往来が再開できるようにしたい」と展望を語った。そのための水際対策について「諸外国に比べても立ち後れ感は否めず、まだまだ解決しなくてはならない課題が残されている」と指摘した。その課題とは、1日の入国者数制限と隔離制限、感染症危険度レベルの引き下げを挙げた。
このことは経団連も提言書で政府に対して要望しているが、水際対策を段階的に緩和しているものの、国際往来の再開から観光を除外している現状に対して、旅行・観光業界を代表する団体として、JATAのトップがわが国の中途半端な水際対策を批判することは大いに意義がある。
高橋会長は4月3日から視察するハワイを例に挙げ、ハワイが厚生省から帰国時の隔離制限が緩和される感染拡大の「非指定国・地域」になっているにも関わらず、外務省から依然として「危険度レベル3」に指定されている矛盾点を指摘し、これを「ダブルスタンダード」と断じて、この是正を強く訴えた。
欧州、米国からアジア、オセアニアと国際往来の再開が世界的に動き出している中で、ゼロコロナ対策のような入国制限を続けていては、経済政策、観光政策が遅れていく一方だ。4月1日からは1日の入国者制限が7000人から1万人に緩和されるが、1日3000人増やして一体何の意味があるのか。誰が満足するのか。
オミクロン株に不安な国民感情をみての全面的な入国制限、ロシアのウクライナ侵攻を見てのロシア制裁措置などを見ると、支持率が上がるであろう措置は本当に素早い。一方で、国民の不安を説得して国益のために政策を遂行しなくてはならないことには動きが鈍くなる。
1日の入国者数の段階的拡大、いつ始まるかも分からないGo Toトラベル事業の先延ばしなどはその典型と言える。
和田観光庁長官は記者会見で、Go Toトラベルの再開について「適切な時期が来たならば、迅速に再開できるように必要な準備はしておく」と語った。「適切な時期」とはいつなのかが知りたいのだが、こうした表現がずっと続いている。
4月1日以降に実施される地域観光事業支援の県民割のブロック拡大、そして全国的なGo Toトラベル事業への段階を踏み、「注意深く検討していく」という。
Go Toトラベルに対して全国知事会は、ゴールデンウィークを対象期間に含めることを要望した。春休みに入る3月21日にまん延防止等重点措置が解除されたことで、週末は観光地が多くの人出で賑わった。感染が高止まりでもこのまま推移すれば、「まん防解除効果」と昨年の反動で、ゴールデンウィークまでは国内は多くの観光地で賑わうだろう。それを踏まえると、Go Toトラベルの再開時期はゴールデンウィーク明けがターゲットとなろう。
全国知事会は、国内旅行需要喚起策のGo Toトラベル事業の再開もさることながら、訪日インバウンド再開の条件やロードマップの提示を緊急提言で求めている。
国策であるはずの「観光立国政策」が全く前に進めない。世界中が自国のインバウンド促進に走り出している中で、日本は旅行再開へのロードマップが全くない状態だ。海外旅行はJATAが独自に作ったロードマップがあるだけだ。
したがって、高橋会長が語る夏休み前の国際往来の一部再開、全国知事会の言うゴールデンウィークからのGo Toトラベル再開について、行政が語ることはない。
2003年に当時の小泉首相は「観光立国」を宣言した。それから歴代政権が進めてきた観光立国政策がないがしろにされている。「観光立国・観光先進国」の実現はどこに行ったのか。世界各国の国際往来再開を見ると、コロナ禍を言い訳にはできない。観光政策に消極的な岸田政権に対して、もっと声を上げるべきだ。(石原)