大地震と訪日旅行者
6月18日朝に発生した大阪北部地震は、朝の通勤時を直撃したこともあり、東日本大震災時の東京を思わせる多くの帰宅困難者が出た。
地震発生時からの報道や政府発表を聞いていると、訪日外国人旅行に対する言及がなく、政府もメディアも緊急時における訪日外国人の対応にもう少し配慮があってもいいのではないかと気になった。
国土交通省は、災害発生時の訪日外国人旅行の初動対応マニュアルや安全確保のための手引きを策定している。それに沿って行われるのだろうが、放送メディアも含めて、大きな地震に対する報道で、地震の経験がほとんどない訪日外国人旅行者に対して、テレビやインターネットを通じてもっと発信した方が良いのではないか。
政府は、観光庁が監修した災害に関する緊急情報を提供する無料アプリ「Safety tips」をiPhoneとAndroid向けに開発しているが、ダウンロード回数を見ると、普及しているとは言い難い。アプリの提供自体は高く評価できるが、迅速で正確な情報の精度を高める必要がある。
FIT旅行者が主流の中で、とくに関西・大阪は今や1100万人の訪日旅行者が集まる東京と並ぶ人気旅行目的地だ。また、関西は今や日本のLCCハブ空港となりつつあり、個人旅行者がアジアを中心に大幅に増加している。
地震が発生した時に、交通ネットワークはどうなっているか、鉄道はいつ運行を再開するのか、空港からの航空機に間に合うのか。航空機はスケジュール通りに運航しているのか、など不安に駆られることだろう。
これらの心配事にワンストップで応えるものが必要だ。「Safety tips」に情報を集約して、リアルタイムに情報を発信したい。
地震発生時に大阪府のウェブサイトを見たが、各鉄道会社の情報も掲載際している会社としていない会社があり、それでは精度に欠ける。日本人よりも外国人旅行者の方がはるかに不安であり、その不安を取り除く努力をしなくてはならない。
日本人は海外でのテロ事件、政治情勢、自然災害に非常に敏感だが、訪日外国人旅行者に対しては敏感とは言い難い。「日本は安全」という「神話」が未だにあるのかもしれない。
東日本大震災発生時の福島第一原発事故で、多くの在住外国人が東京を逃れて、西日本に避難したことを忘れてはならない。災害だけではない、新幹線内の殺傷事件、相次ぐ凶悪な事件を見ても、本当に日本が安全と言い切れるか。
緊急時には、頼りになる正確な情報が必要だ。SNSの情報は早いが、デマゴギーも多い。訪日外国人旅行者の不安を煽るようなデマは厳に慎むべきだ。
観光庁の「訪日外国人旅行者の安全確保のための手引き」を読むと、初動対応の重要性は指摘されているが、いささか総花的なきらいがある。訪日外国人旅行者が求める情報の提供主体が違うことは分かるが、あまりに複雑で、これでは、訪日外国人も支援する側も災害発生時に困惑するかもしれない。
とくに、訪日旅行者にとって何より重要なことは、「ワンストップ」で情報を得ることだ。「Safety tips」は日本語・英語・簡体字・繁体字・韓国語の対応。多言語化も重要だが、翻訳アプリ、通訳アプリの高度化による迅速、正確な情報発信の方が求められる。
訪日外国人旅行者が個人旅行化、リピーター化していく中で、日本滞在中に大地震などの自然災害に巻き込まれることは十分想定される。ほとんどの外国人が地震に初めて遭遇し、それがトラウマになることは十分にあり得る。
それを経験しても日本を再訪するのは、日本の魅力もさることながら、そうした災害に対応する日本の正確な情報発信と旅行者に対する日本人の対応だろう。日本人全体が緊急時に訪日旅行者を気遣うことが重要だろう。(石原)