アウトバウンド振興に追い風
行政がアウトバウンドをどのように促進するか。これまで、いろいろ見てきたが、具体的な施策を打つかについては懐疑的だった。観光政策で「アウトバウンドは重要、双方向交流を進める」と言いながら、具体的な施策はほとんどなかったからだ。
逆に、国際観光旅客税(出国税)の日本人出国者からの一律徴収が決まったにも関わらず、日本人に対する裨益が「曖昧」で、海外に出かける日本人は「取られ損」になるのではないかと思っていた。
観光庁長官に田端浩氏が就任し、就任の記者会見で「旅行振興担当参事官」を新たに配置し、実質的に「旅行振興課」が復活したことを聞いて、正直驚いた。今の観光庁が、局の下の観光部時代に3課しかなかった頃、旅行振興課はアウトバウンドの担当課であり、旅行業界の窓口だった。
田端長官は旅行振興課長を務め、アウトバウンドに精通しているが、「はじめの一歩」に「旅行振興」を打ち出してくるとは予想しなかった。
旅行業界の人たちと話す時、「今の観光庁でアウトバウントの担当はどこなの?」とよく聞かれる。旅行業の所管は観光産業課だが、宿泊業も兼ねている。双方向交流施策は国際観光課が担当しているなど、所帯が大きくなり、インバウンドが観光の主流になっていることもあろうが、観光庁と旅行業者との距離が観光部時代と比べて、遠くなり、行政のアウトバウンドの顔が見えなくなったと感じていた。
田端長官は、「宿泊産業や民泊新法は大事だが、宿泊産業と旅行業では、旅行振興を進める施策はビジネスモデル的にも違うし、視点が違う。きちんと分けて、旅行振興担当参事官を置いてしっかりやっていくことにした」と語る。
これによって、官民連携していく上で、行政側の旅行産業のパートナーが明確になった。参事官とともに、観光産業・旅行振興担当の審議官も決まり、長官−次長−審議官−参事官の指示系統のもとで、観光庁全体で旅行振興に取り組む。
とくに、参事官はJATA、ANTAなどの旅行業界団体、アウトバウンド促進協議会を担当し、若者の旅行振興、休暇改革、二国間双方向交流などを担当する。つまり、官民連携によるアウトバウンド振興の形がはっきりと見えてきた。
田端長官は常々、「観光先進国を実現するためには、相互交流が極めて重要。外交面でも日本人のアウトバウンド拡大を進めることが外交戦略として重要」と指摘しており、長官就任と同時の体制・担務変更は、それを具体的に打ち出すための態勢を整えたといえる。
田端長官は、2017年の海外旅行者数1789万人について、「日本人がもっと海外のデスティネーションを訪問し、関心を持つことが、世界的にグローバル社会になっている中で重要」と指摘する。これは、長官が現状の日本人海外旅行者数の少ないと認識しており、2000万人に向けて意欲的に取り組むと受け止める。
長官はアウトバウンド施策に取り組むために、旅行産業はもとより、各国・地域、大使館、政府観光局などと連携していくことを打ち出している。また、若者のアウトバウンド活性化も産業界と一緒になって取り組む方向性を示している。
折しも、観光庁の2019年度概算要求が公表されたが、その中で、新設する「国際観光旅客税」による税収財源の480億円ではなく、一般会計として、「相互交流の拡大に向けた若者の海外体験促進事業」として、新規に5000万円が要求された。
双方向交流の促進に向けて、若者のアウトバウンド振興による国際感覚の涵養、人材育成が必要とし、自己研鑽目的での海外旅行を「海外体験」と位置付け、その促進を図るモデル事業を実施する。2019年度は調査段階だが、早期のモデル事業の実施を期待したい。
アウトバウンド振興に、真の意味で、初めて国家予算が付く。アウトバウンドに追い風が吹き始めた。旅行業界は行政のアウトバウンド施策に応えなくてはならない。(石原)