旅行会社の若者離れとパスポート
2月26日に開催されたJATA経営フォーラムの分科会で、20歳代の若者の海外旅行について議論された。モデレーターの森下昌美東洋大学国際学部教授は、1996年から2016年の20年間で、20歳代の出国率が24.7%から22.5%、パスポート取得率が8.6%から5.9%に落ち、若者の海外旅行が「行く、行かない」に二極化しているが、「行きたいが、行っていない(行けない)」人が67.7%もおり、この層に「選ばれる価値の提供、行けない(行かない)要因を払拭する」ことが必要と説明した。
JTBワールドバケーションズの縄手伸弘執行役員マーケット戦略部長は、若者の77%はこの3年間に海外旅行未経験で、そのうちの56%は海外旅行へ行く意向を示していると指摘。若者の海外旅行で最も不安なことは、テロ発生などの「治安」で、海外旅行経験のある若者の最も必要とする者は「Wi-Fi」と指摘した。
クロス・マーケティンググループで、リサーチ・アンド・ディベロプメントビジネスプロデューサーを務める堀好伸氏は、若者の旅行に対するポテンシャルは高く、過去3年間で海外旅行経験者は23%に対して経験なしは77%で、このうち51%が海外旅行に「行こうと思う・機会があれば行きたい」と答えており、この層の取り込むことが重要と指摘した。
3氏が語るように、若者に海外旅行の意向があるなら、「若者の旅行離れ」は違うということになる。堀氏は「若者の旅行離れ」ではなく、「旅行会社の若者離れ」と指摘した。
若者の海外旅行経験者はFIT化し、こうした「若者の旅行会社離れ」は浸透した感がある。OTAやサプライヤーからの直接購入が常態化した状況では、これらのコア層の若者を旅行会社に引き戻すのは難しい。
若者の7割を占める海外旅行未経験者に対して、旅行会社は魅力ある商品を提供する。「若者の旅行会社離れ」を理由に、旅行会社が若者の取り込みをあきらめてはいけない。
縄手氏は、卒業旅行として成功したJTBガクタビは1−3月期の販売が中心ではあるものの、ここ最近は9月発が増えていることを指摘、オフ期の大量送客モデルは終焉を迎え、若者旅行に新たなビジネスモデルが必要な時期に来ていることを強調した。
JTBは海外旅行未経験者に対して、「安心」と「Wi-Fi」の「添乗員付きだがフリーツアー」を提供する。そして、海外旅行経験のある若者、FIT志向の若者には、今年から発売の「ダイナミックJTB」を提供する。
JTBのダイナミックパッケージが、今後どのような展開をしていくのかは、若者の海外旅行の動向を見る上でも興味深い。OTA、航空会社などのダイナミックパッケージに伍していけるか。「エアホ」の実績もあり、どの動向如何では、他社が追随する可能性もある。
この分科会は、経営フォーラムの一環なので、旅行会社の経営に資することが目的なのだが、やはり気になるのは、冒頭の若者のパスポート取得率の低下だ。この部分を上向かせることが、商品開発の前にやるべきことではないか。これこそが、若者の海外旅行促進で行政ができることだ。
ハワイ州観光局(HTJ)は、18歳から34歳の若者を対象に、パスポート取得キャンペーンを展開する。これからパスポートを取得する人に対して、パスポート取得後に抽選で200名に5000円をキャッシュバックする。10年間の年次パスポートの手数料が1万6000円だから5000円のキャッシュバックで1万1000円になる。
若者の海外旅行促進へ一観光局がキャンペーンを展開することに頭が下がるが、本来、これは行政がやるべきことではないか。若者のパスポート取得手数料を無料化することが難しいなら、下げる取り組みをすべきだ。国際観光旅客税を充当すればいい。2018年度概算要求で、若者のパスポート取得助成を検討してほしい。旅行業界が若者の心をつかむのは、それからだ。(石原)