ガストロノミーと観光促進
マカオがユネスコによる創造都市ネットワークの食文化(ガストロノミー)部門に認定され、「シティ・オブ・ガストロノミー」(City of Gastronomy」の称号を得た。シティ・オブ・ガストロノミーの認定を受けた都市は世界で26都市、中国は四川省成都、広東省順徳に次いでマカオが3都市目。日本では唯一、山形県鶴岡市がシティ・オブ・ガストロノミーに認定されている。
「ガストロノミー」が日本では「食文化」「美食」から「美味しい料理」「食べ歩き」にまで拡大解釈され、言葉が広まるとともに、安易に使われている傾向にある。
「Onsen・ガストロノミーツーリズム推進機構」も設立されて、日本独特の温泉と食文化を合体させたものまで登場した。こうした個性的なマッチングはありだと思うが、「シティ・オブ・ガストロノミー」の選定には、長い年月を経て、その地域で育まれた独自の食文化が絶対条件。大自然に培われた地産地消の料理が美味しい、酒が旨いからといって、「ガストロノミー」を使うのは、「シティ・オブ・ガストロノミー」の称号を得た都市に対して失礼なのかもしれない。
「シティ・オブ・ガストロノミー」の認定第1号は、2005年のポパヤン(コロンビア)。先住民の食文化にアフリカ、スペインが融合し、独自の食文化を築いたことが認定理由とされる。その後、2010年に成都、エステルス(スウェーデン)、2012年に全州(韓国)、2013年にザーレ(レバノン)、2014年に鶴岡、順徳、フロリアノポリス(ブラジル)が認定。
2015年には、ベレン(ブラジル)、ベルゲン(ノルウェー)、ブルゴス、デニア(スペイン)、ガジアンテプ(トルコ)、パルマ(イタリア)、ラシュット(イラン)、プーケット(タイ)、ツーソン(米国)、エンセナーダ(メキシコ)の10都市を一挙に認定した。
2017年には、ブエナベントゥーラ(コロンビア)、エステルスンド(スウェーデン)、ハタイ(トルコ)、パラチー(ブラジル)、コチャバンバ(ボリビア)、サンアントニオ(米国)、アルバ(ルーマニア)、そしてマカオが「シティ・オブ・ガストロノミー」の8都市に選ばれた。
旅行業界では、ツアーの企画、添乗で世界中の都市を訪れている人が多く、この都市の中で、一般に知られていなくても、訪問体験やツアーを造成した旅行会社もあるだろう。
2015年に10都市、2017年に8都市が登録されたことで、「シティ・オブ・ガストロノミー」も26都市に拡大した。マカオとともに、多くの都市がユネスコ食文化都市であることをもっとアピールしてもよいのではないか。これを機会に、食文化を中心にした旅行商品の企画・造成も検討するのもいいだろう。
テレビを見ていても、地上波はライトな切り口で世界の旅を紹介している。ディープな旅の体験も、バラエティを通して親しみやすく制作している。一方で、BS・CSは世界の自然・歴史・伝統・文化を街歩きスタイルで紹介する。それらに不可欠なものは食文化で、その重要性はますます高まっている。
和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことが話題となったが、地方活性化、地方創生のためにも、地方都市の秀でた部分にもっと光を当てるべきではないか。その意味で、マカオのように、「シティ・オブ・ガストロノミー」の認定を観光促進の重要な柱としてプロモーションする取り組みを見習いたい。
ガストロノミーだけではない。ユネスコの創造都市ネットワーク事業は、食文化(ガストロノミー)のほかに伝統工芸・民芸品、、デザイン、映画、文学、音楽、メディア・アートの7分野から加盟都市を認定している。日本の創造都市は、食文化の鶴岡、映画の山形、工芸・民芸の金沢、篠山、デザインの神戸、名古屋、音楽の浜松、メディアアートの札幌の7都市。世界の創造都市とのコラボレーションによる創造都市間の双方向交流促進など、様々な観光施策に利用することが期待される。(石原)