旅行業界の信頼回復
2018年の旅行業界は、課題の第一に「旅行業界の信頼回復」を掲げていたが、新年早々に晴れ着販売の「はれのひ」による成人式直前の夜逃げ事件が起き、図らずも昨年の「てるみくらぶ倒産」が引き合いに出されることになった。
てるみくらぶの代表者は逃げなかったが、多くの一般消費者に大きな物理的、精神的な損害を与えたことでは、同列に言われたも仕方がないかもしれない。
あるテレビタレントが、「てるみくらぶで旅行代金、はれのひで晴れ着のお金を両方取られた人がいるかもしれない」と語っていたが、世間から見ると、共に悪質な業者ということなのだろう。
報道によると、はれのひに関する警察、消費生活センターへの相談は約1700件、被害金額は3億円を超えるという。代表者は雲隠れしたままだ。
てるみくらぶの代表者らは、銀行への融資詐欺容疑で1月に入って再逮捕された。社長の自宅から現金が押収され、破産法違反の疑いも出てきおり、この事件もまだまだ続く。
はれのひの事件では、当事者が雲隠れしたこともあって、着物業界や関連業界、行政、弁護士会、業界メディアなど、多くの団体・個人が救済に名乗りを挙げている。今後、どのような形になるのかは分からないが、被害者支援の輪がさらに拡大していくようだ。
はれのひ事件のように、業界全体で被害にあった一般消費者を救済するようなことは稀だ。はれのひ事件が異例と言える。てるみくらぶの時は、旅行業界で同社の社員や内定した学生への就職支援があった。これも珍しいことだった。
旅行業界には弁済補償制度があり、こうした事案に対して適用する。東京商工リサーチによると、2017年の旅行業の倒産は前年比1件増の28件だが、負債総額は465.0%増の215億7300万円で、てるみくらぶの大型倒産が負債総額を押し上げた。
てるみくらぶの負債額は、過去20年間の旅行業の倒産で、歴代最大の1998年のジェットツアー破産の負債252億3500万円に次ぐ史上2番目の高い水準となった。
てるみくらぶの倒産による社会的影響が大きかったことを鑑みて、弁済保証金の弁済限度額の引き上げなどの「弁済制度のあり方の見直し」と「企業ガバナンスの強化」による再発防止策が来年4月から施行される。
JATA田川会長は年頭の挨拶で、「事後処理より事前防止に重点を置き、業界の信頼回復を図りたい」と述べている。
はれのひ事件を見ると、旅行会社の倒産に対して「弁済限度額を引き上げ、ボンド保証制度の活用、企業ガバナンスの強化」とともに、被害者に対する信頼回復への取組みも必要ではないかと思う。てるみくらぶの影に隠れた形だが、その後にアバンティリゾートクラブが突如事業停止して経営者が雲隠れするなど、はれのひと似た悪質な事件も起きている。
旅行業界の信頼回復で思い出されるのが、1998年のサッカーW杯フランス大会で起きたチケット未入手によるツアー中止事件だ。初めてのW杯本大会進出で日本中が熱に浮かされた状態だった。旅行業界も初めてで、だまされた方だが、一般消費者から見れば、当然、旅行会社を糾弾する。翌年の1999年も課題は、「旅行業界の信頼回復」だったと記憶する。
今年は平昌冬季オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯ロシア大会がある。フランスW杯の苦い記憶から旅行業界はスポーツイベントのツアーには万全を期しているが、こうした事案は必ず旅行業界全体の信頼問題に関わってくる。
旅行会社は全国に約1万社。旅行業界の信頼回復に努めながら、旅行会社の経営破綻にどう対応するか。
業界の特殊事情はあるにせよ、「風評被害に弱い」という点では、着物業界も旅行業界も同じだ。業界の川上から川下に至る企業、メディアが業界一丸となって被害者の会を立ち上げて支援に乗り出すことは素直に評価したい。消費者目線に立つことが信頼回復に何より重要だ。(石原)