2017年の旅行業界「残念無念」
2017年がもうすぐ暮れようとしている。今年の旅行業界の重大ニュースを問われたら、てるみくらぶの倒産と国際観光旅客税(仮称)の導入を挙げる。前者は旅行業界の信頼性が問われ、後者は旅行業界の無力さを実感させた。
てるみくらぶの倒産は、旅行業界の経営の甘さと自浄作用の無さをさらけ出した。経営者は二度目の倒産であり、これを許す業界の身内に甘い体質を自戒しなくてはならない。これまでも倒産を引き起こしたり、問題を起こした経営者が幾度も「復活」しており、そうしたことに対して行政と世論から厳しく処断されたと認識すべきだ。
てるみくらぶの倒産に対して、石井国土交通大臣は、弁済保証金の弁済限度額の引き上げなど「弁済制度のあり方の見直し」と「企業ガバナンスの強化」による再発防止策をまとめた。それらが来年4月から施行される前に、今度はアバンティリゾートクラブが突如事業停止して経営者が雲隠れするなど悪質な事件が発生して、信頼悪化に拍車を掛けた。
「旅行業界は夢を売る」とよく言われるが、これでは「夢を奪う」ことになる。てるみくらぶは倒産によって、沢山の人の夢を奪ったことを旅行業界全体で自覚と反省をしなくてはならない。
てるみくらぶ経営者らは会社の決算をごまかし、銀行から融資を引き出したとして、詐欺罪に問われた。一般被害者や取引先ではなく、金融機関の告発によって検察が動いたことが事件の大きさを物語る。営業利益ベースどころか、売上総利益(粗利益)の段階で赤字なのに黒字に見せかけて融資を引き出すなど、粉飾決算は極めて悪質だが、金融機関が告発することは珍しく、行政も旅行業界に対して厳しい目を向けていると見るべきだ。
今後、旅行会社が金融機関から融資を受ける場合、厳しくガバナンスを求められる。てるみくらぶの倒産は、とくに中小の旅行会社の資金繰りに影響を及ぼす可能性もあり、決して他人事ではないことを肝に銘じるべきだ。
年の瀬を控えて、急激に動き出したのが「出国税」の導入だった。出国税から観光促進税、そして国際観光旅客税と名称を変え、今も仮称だが、新たな観光財源の導入として、地価税以来、27ぶりに新税の導入が決定した。
自民党税務調査会でいろいろな意見が聞かれたが、決まれば早い。2019年4月の導入を1月7日に前倒しし、一挙に導入が決まったが、「拙速」「もっと議論すべき」と批判されながらも、一挙に導入へと進んだ背景には「官邸主導」があったと言われても仕方がないほどのスピード決定だった。
訪日外国人旅行者を拡大し、観光立国と地方創生を図ることが目的の新税導入に対して、日本人出国者の裨益はどこにあるのか。有識者検討会による中間とりまとめ、与党の2018年度税制大綱を読む限り、結局は、空港CIQ整備の革新による待ち時間短縮などが日本人の受益者負担に対する裨益となっている。
残念だったのは、日本旅行業協会(JATA)が観光新税に対して、出国税(当時)導入を認めた上でのいわば「条件闘争」に入っていたことだ。国内旅行主体の全国旅行業協会(ANTA)は国内航空税、日本旅館協会は宿泊税の導入にそれぞれ強硬に反対した。この結果、出国税に一本化された。航空業界は出国税導入に異を唱えつつも、乗務員の非課税を引き出した。
「最初からストーリーは決まっていた」という声もあるだろうが、結果的に貧乏くじを引いたのは海外旅行業界だったということだ。航空業界もアウトバウンドが課税対象になることは避けたかったはずで、新税導入に当たり、航空業界と共闘し、社会や政界に日本人適用反対を訴えても良かったのはないか。
観光産業は基幹産業、メインストリームの道を歩み始めているにもかかわらず、旅行業界はそこから弾かれようとしている。これは来年の課題でもある。ブランドUSAがトランプ政権の圧力に屈せず、堂々と政治と渡り合っているように、日本の旅行業界、とりわけJATAは圧力団体として、観光議連の設立などを含めて、政治力を高めるべきだ。(石原)