旅行業者の罪と罰
今年3月に経営破綻したてるみくらぶ。11月7日の債権者説明会で粉飾決算、逆粉飾決算が明るみに出た。その手口は悪質で、集会では山田千賀子社長以下、経営陣に対して詐欺罪を問う声が多かった。結果的に、翌8日に山田社長と元経理担当社の2名が銀行に対する詐欺容疑で逮捕された。
8日の段階では、メインバンクの三井住友銀行に対して、虚偽の財務情報を元に融資をだまし取った容疑だが、債権者の多くが詐欺罪を訴えており、被害者の会などによる集団訴訟の可能性も出ている。
山田社長は騙したのは銀行だけではない。虚偽の決算書による優良会社を装い、取引業者を欺いた。新聞、インターネットによる現金一括キャンペーンなどで旅行希望者から前払いで金をかき集め、その挙句に頓挫した。一般の債権者が詐欺の声を上げるのも無理もない。
山田社長は「詐欺を働くつもりは毛頭なく、顧客に旅行に出かけてもらえるように最後まで努力した」と言いながら、3000万円台の役員報酬を受けていた。一度ならず二度目の倒産。さしたる資金がなくても、前払いで金を集めることができる業界の体質だからなのか。こうしたことがまかり通る業界体質を変えなくてはならない。
てるみくらぶの粉飾決算の中身は悪質を極める。2011年、12年は利益を過少申告して脱税、13年から赤字続きなのに、黒字を装って銀行から融資を引き出した。
特に驚くのは、15年、16年は売上総利益(粗利益)がマイナスという原価割れの状態で、もはや販管費も払えない状況に陥っていた。それでも、経営を続けられたのは、一般消費者から前金を集めていたからで、旅行業界の特殊性と言えるかもしれない。
てるみくらぶ倒産のターニングポイントは2013年ではないか。12年9月期は黒字だったが、12年10月から始まる13年9月期は、売上高が58億円と前年の半分に急減した。何があったのか。
2013年は第2次安倍政権がスタート。国内旅行は富士山の世界遺産認定、伊勢神宮の式年遷宮などで好況、訪日旅行は1000万人を達成して上げ潮に乗った。
一方で、海外旅行は円安で減収を余儀なくされ、さらに前年から続く日中、日韓の政治問題が好転せず、ビジネス需要は回復したものの、観光レジャー需要は低迷した。海外旅行を主体とする中堅旅行会社は為替変動により減益または赤字決算の厳しい年だった。
そこで身の丈の経営に徹すれば良かったが、売上至上主義に走り、無理な販売を重ねて、16年の売上はピーク時の11年を上回るほどに回復したが、原価はそれを上回り、16年9月期は単年度で50億円の巨額赤字だったが、5億円の黒字に偽った。
観光庁は、てるみくらぶの経営破綻を受けて、旅行業の「企業ガバナンスの強化」と「弁済制度のあり方の見直し」の再発防止策をまとめた。海外募集型企画旅行を行う第1種旅行業者は毎事業年度に決算書を提出、5年に一度の更新登録は公認会計士等のチェックを受けた書類を提出、純資産に対して取引額が過大な会社は経営状況の調査をJATA、ANTAが実施する。
広告募集は「現金一括入金キャンペーン」のような不適切な広告を禁止、前受金は旅行出発の60日より前に20%以上受け取る場合、その使途を具体的に広告等に記載することをガイドラインに明記する。
これらは来年4月から施行される。てるみくらぶの倒産以降、アバンティリゾートクラブのように、突如事業停止して雲隠れした事例もある。
観光庁による経営ガバナンス強化は非常に重要だが、その網を抜けようとする業者も出てくる。
全ての旅行業者は、こうした事案を引き起こした経営者は罪を逃れることはできず、厳しく罰せられることを肝に銘じるべきだ。旅行業界、旅行業者のモラルが問われており、順法精神を業界全体で徹底化し、旅行業界の信頼回復に努めなくてはならない。(石原)