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2017.10.30

「出国税」日本人の使徒はあるのか

 次世代の観光立国実現に向けた新たな観光財源が大詰めを迎える。10月31日の第6回検討会を経て、11月に中間報告を取りまとめる。6回にわたる会合で、訪日外国人、日本人出国者に対して「出国税」を徴収することが決まる。
 これまで、本コラムで数回、新たな観光財源について論を重ねてきた。基本的には、観光立国実現へ政府・観光庁が実施する施策はピークを過ぎたと考え、本当に新たな観光財源が必要なのかについて疑問を呈してきた。
 今年度も訪日外国人旅行者の受入環境整備の緊急対策事業費補助金を85億円計上しているが、募集期間の締切を10月末から12月末に2カ月延長した。この補助金は、地方の消費拡大に向けたインバウンド対応支援事業で、地方公共団体、民間事業者、協議会等が設置する外国人観光案内所、観光拠点情報・交流施設、公衆トイレの洋式化等の経費を補助するものだが、募集が集まらないのは、既に一服感、行き渡り感が来ているからではないか。
 観光庁が毎年度200億円以上の観光予算を計上し、さらに各省庁の観光関連予算が広がる中で、新たな観光財源がなぜ必要で、誰から徴収し、何に対して使うかが、未だに見えてこない。
 それでも、訪日外国人旅行者数・旅行消費額を2020年4000万人・8兆円、2030年6000万人・15兆円を達成するためには、新たな観光財源が必要ということなら受益者負担と使途を明確にしなくてはならない。
 「明日の日本を支える観光ビジョン」では、「インバウンド拡大等増加する観光需要に対して高次元で観光施策を実行するため、国の追加的な??財源の確保策について検討。他の??観光先進国??の取組も参考にしつつ、観光立国??の受益者??の負担による方法により、観光施策に充てる追加的財源を確保することを目指す」とある。
 これをどう読んでみても、受益者は訪日外国人旅行者であり、使途はインバウンド促進のためのプロモーションや受入環境整備など、観光ビジョンに明記されている既存の観光施策と、これから手を付ける新規の施策を実行することではないか。
 どこに日本人海外旅行者が受益する使途があるのか。委員から「中長期的に見れば、航空ネットワークの拡大などで日本人も裨益する」「政府が名目GDP600兆円達成の柱に観光立国の実現を掲げているなら、それによって日本人も裨益する形になるというメッセージを強く打ち出したらどうか」などが出たという。
 ものは言いようだ。訪日外国人旅行者の増加で、国際線ネットワークは広がったが、外国人旅行者が鈍化すれば、それに伴い、路線は減便、撤退し、日本人海外旅行者のメリットはほとんどない。また、観光立国実現で日本経済が良くなるから、日本人に負担を求めてもいいとなると、何でもありの世界になる。
 検討会では、新たな観光財源が出国税になるとして、受益者負担の使途を絞り込むことは適当ではないという判断が山内弘隆座長から示された。観光庁は、「受益者負担で仮に出入国者に負担を求める場合、具体的な話をするほど使途を絞り込むことになる。それが受益と負担との関係で果たして適切なのか。あくまで具体的な使い途は実際の予算に基づいて要求する事業内容になる」と座長の判断を補足している。
 どうにもよく分からない。これによって、内外無差別の原則を盾に、使途が明確でないままに、日本人海外旅行者からも「出国税」を徴収するのだろうか。
 Yahoo!ニュースが7月に実施した日本人出国者への過課税に対する意識調査によると、18万908票のうち63%の11万4059票が反対、31%の5万5966票が賛成の結果が出た。7月時点で6割以上の人が反対している。
 海運・陸運など他の運輸業界なら役所に減税を要望して日参する。逆に、増税や新税導入に対しては、業界全体で反対の声を上げるだろう。出国税の導入はインバウンドはもとより、アウトバウンドにも影響を与えかねない。徴収ためのシステム費用の投資も懸念される。なぜ事業者のため、旅行者のために反対を表明しないのか。旅行業界の姿勢も問われる。(石原)