【潮流】受託事業の透明性確保を
観光庁の和田浩一長官は、大手旅行会社によるBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業で過大請求事案が相次いだことから、日本旅行業協会(JATA)に対して会員旅行会社に対する国や地方自治体からの受託事業の総点検とコンプライアンス遵守の徹底に必要な方策を検討するよう指示した。
旅行業界にとってBPO事業は、国内旅行が回復途上、海外旅行が低迷する中で、「救世主」とも言うべき事業で、今回、過大請求が発覚した近畿日本ツーリスト、日本旅行ともに、BPO事業の拡大によって、会社創立以来の最高利益を生み出しており、今回の事案は今後の事業展開に大きな影響をもたらすとみられる。
近畿日本ツーリストは前月に新型コロナウイルスワクチン接種の受託事業で複数の自治体で過大請求、日本旅行は今月に愛知県の全国旅行支援事業に関する事務局受託で人件費の水増し請求が発覚した。
思い起こせば、コロナ禍になって旅行事業の売上が激減する中で、旅行会社の不祥事は相次いだ。コロナ禍で雇用調整助成金の不正受給、Go Toトラベル事業の給付金不正受給など旅行業界全体の信頼が揺るがす事案が起きた。 コロナ禍における売上減の中で、国・観光庁の受託事業は和田長官が、「これらの受託業務の原資は国民の税金であり、過大請求は断じてあってはならない。旅行業界を代表する企業がこうした事案に関与することは業界全体の信用低下につながる。極めて遺憾」と言う指摘に返す言葉はない。
近畿日本ツーリストの高浦雅彦社長は「新型コロナウイルス対策受託事業の契約についての知識の乏しさやコロナ禍で旅行事業が厳しい中で、営業目標を達成したいとの思いが強く働いていたことが、今回の過大請求の原因につながった」と率直に認めている。その上で「二度とこのようなことが起きないように再発防止策を徹底したい」と強調した。
また、日本旅行は今後の対策として、再発防止に向けて、原因究明と再発防止策の構築、同社が関わる類似案件の調査を実施するとして、調査範囲、調査機関、調査手法等を今後検討する。
2021年に旅行業界の不祥事が相次いだときに、JATA髙橋広行会長は、「業界の信頼を失墜することが起こり、大変遺憾で重く受け止めている。一会員企業の問題として片付けるのではなく、今後二度と起こらないように業界全体、協会としてコンプライアンスの徹底に取り組む」と明言した。
実際にJATAとANTAで「旅行業界におけるコンプライアンスの手引き」書を作成し、会員各社の経営者、社員に対して研修などを通して、取り組みを周知徹底した。また、不正案件の早期発見と対応のため、国土交通省公益通報制度を会員各社に対して周知するよう要請した。
行動規範の法令遵守では、旅行業経営で問題となる主な法令を示すとともに、各種ガイドラインや政府のGo Toトラベル事業などの需要喚起策のルールなど、旅行業経営で遵守すべきルールや社内手続きなどの手順を記述した。
今回の旅行業界のBPO事業に関しては、これまでのノウハウやサービスについて、国や地方自治体から高い評価を得ていることも事実だ。今回の事案を教訓にして、BPO事業のコンプライアンスを高めて事業を進めてほしい。とくに、これを機に経営者はBPO事業の透明性に徹底化して取り組むことを期待したい。
今回の近畿日本ツーリストや日本旅行の過大請求は、国・観光庁からのBPO事業が急激に増加し、円滑なコミュニケーションが図られたのかは課題として残る。今後も地域創生事業が拡大する中で、BPO事業を主力事業に据えるなら、JATAとしては、全加盟会員に対して受託事業の内容の総点検を実施しなくてはならない。国・地方自治体の受託事業に対して、手引書やガイドラインのようなものの策定も必要になるかもしれない。(石原)