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2023.06.19

【潮流】粛々と持続可能な観光地づくり

 政府は2023年版の観光白書を閣議決定した。白書では、新型コロナウイルスの影響から回復する観光産業では「稼ぐ力」の強化が不可欠であると指摘した。また、世界中で国際観光客数が回復し、日本国内でも観光需要が回復に向かう中で、観光産業の生産性の低さや人材不足問題が顕在化しており、観光地の稼ぐ力をデータで見える化することが求められるとした。
 では、どうすればデータを見える化できるのか。白書では観光庁の支援施策を活用してヒアリングを実施した群馬県伊香保温泉、兵庫県城崎温泉、宮城県気仙沼市による宿泊客の早期回復、単価増、従業員の賃金上昇などの見える化の事例を紹介した、自らの観光地で稼ぐ力をデータで見える化して地域関係者で分析・共有するプロセスの重要性を指摘した。
 今後の観光回復に向けては観光地の稼ぐ力を地域に還元し、すそ野が広い他の産業への生産波及効果や住民の家計消費など地域活性化の好循環につなげ、地域と観光旅行者の双方がメリットを実感できる「持続可能な観光地域づくり」を期待した。
 白書では、国内外の旅行者の関心や行動の多様化などを踏まえた「持続可能な観光」とともに、「消費額拡大」「地方誘客促進」などの「質」を重視した「稼ぐ力」を実現し、地域社会・経済の持続可能性を将来にわたる役割の重要性を強調した。
 観光地の「稼ぐ力」の「質」を高めるにはどうすべきか。地域に根付いたコンテンツで自然環境・風景・景観、文化・伝統・歴史、人々の生活・郷土料理、農林水産業・伝統工芸など、地域の住民の身近な日常の「暮らし」を観光の「コンテンツ」とすることを訴えている。
 とくに、コロナ禍を経て、日本国内の観光地が見直されている。白書では、日本人の生活や地方の暮らしの体験も魅力で、個人化する日本人の国内旅行は、地域の暮らしに触れる知的好奇心の旅の関心が高まると予想している。
 実際、コロナ禍を割り引いてもキャンピングや車中泊など、日本人の国内旅行は個人化が加速化しており、これは訪日外国人旅行の個人化と連動していると思われる。
 欧米を中心とする訪日外国人旅行者は基本的に個人旅行であり、とくにリピーターはSNS等を通じて、日本人の生活や地方の暮らしの体験することが訪日の大きな動機となっており、そのコンテンツの磨き上げが「稼ぐ力」を生み出していくのだろう。
 高齢化や過疎に直面する地方では、地域住民の持つ多様な知恵が、新たな滞在の価値を生み出している。地元住民が「語り部」となる旅行者の暮らし体験、移住者による起業、伝統工芸の匠の技、地産地消の上質な食材を供給する農林水産生産者、自然体験ガイドなどが、地域観光の中心的役割を担う。
 確かに持続可能な観光を推進するには、観光地の稼ぐ力が非常に重要と考える。なぜに観光を推進するかと言えば、観光業は地域経済に大きな影響を与えるだけでなく、雇用を創出し、地域の発展に貢献することができるからだ。地域社会・地域経済が衰退する日本にあって、地域活性化の切り札を観光に求めている。
 国内旅行者、訪日外国人旅行者は観光地での宿泊、飲食、土産購入など地域で多くの消費を行う。また、観光地には様々なイベントやアクティビティがあり、それらを通じて地域経済に貢献することができる。
 しかし、過度の観光客の増加や、観光地の過剰開発は、環境破壊や地域住民の生活環境の悪化などの問題などオーバーツーリズムを引き起こす。そのために、観光地の持続可能性を考え、適切な観光政策を策定することが重要だろう。
 白書によると、コロナ禍の2021年の各国・地域における国際観光収入で日本は29 位、アジアで6位と2020の15位、アジアで4位から順位を下げた。水際対策の遅れが最大の要因だが、それが昨年10月の水際対策の撤廃、今年5月の新型コロナ感染症の5類移行で訪日回復に拍車が掛かった。
 急激な訪日外国人旅行の回復は、観光立国推進施策に歪みを生じかねない。2030年訪日6000万人にこだわることなく、「稼ぐ力」は大切だが、「持続可能な観光地域づくり」を粛々と進めていくことが最も重要だろう。(石原)