【潮流】国内旅行事業、継続と廃止の間
6月末は社団法人の定時総会、通常総会シーズンだった。旅行業界も多くの観光関連団体が通常総会、定期総会を開催した。多くの団体がコロナ禍で年会費を減額し、会員の維持に努めているが、それでも会員が減少傾向にあり、収支決算も赤字を余儀なくされている。
日本旅行業協会(JATA)はの2022年度収支計算は一般会計が1200万円、合計も2100万円の赤字で、次期繰越額は一般会計で4億9800万円、合計で25億3500万円に減少した。2023年度の収支予算も一般会計は211万円、合計で1億8900万円の赤字を計画している。23年度の次期繰越額は一般会計で4億9500万円、合計で22億5200万円に減額する。
全国旅行業協会(ANTA)も2022年度収支決算は2億200万円の赤字で、2023年度の収支計画も2億900万円の赤字で立てている。次期繰越差額も2022年度の11億8300万円から2023年度は9億3000万円に減額する予算案を立てた。
ANTAはコロナ禍が始まった2020年度以降、2023年度まで4年連続で収支が赤字になる。2018年度は事業活動収入が多く、会費収入は全体の35%程度だったが、コロナ禍で2021年度は会費収入が全体の48%と約半分を占め、会員減収支により大きな影響を与える。
ANTAは会員数が多く、とくに中小・零細企業が中心なだけに、コロナ禍の影響は深刻化を増す。。会員数はコロナ前の2019年の5643社から2022年は5370社まで減少した。
旅行業界はコロナ禍で事業がほぼ消滅し、雇用調整助成金の特例措置、持続化給付金、事業再構築などの補助金、無利子・無担保、コロナ融資などでしのいできたが、3年を経て返済が迫りつつある。
ANTAの通常総会で二階俊博会長は、「会員の事業継続に向けた環境の整備、安心・安全の旅行の2つを軸として。今後も積極的に事業に取り組んでいく」とした上で、「事業を継続したいと願う会員が事業廃止に追い込まれることがないように、環境を整えることが最重要課題。更新登録要件の弾力的運用、資金調達、過重債務の返済、国内旅行需要喚起の支援を政府や関係省庁、自由民主党に強く要請していきたい」と語った。
通常総会では、地方支部から喫緊の課題として更新登録要件の弾力的運用を求める声が多く上がった。2022年度もコロナ禍の影響で会員の経営状況が苦しいことから、観光庁に2020年度、21年度に続いて、旅行業更新登録の申請に係る決算書類(基準資産額)等の弾力的な取り扱いを要望し、2024年3月の更新登録申請期限分まで緩和措置を延長する通達が出された。
それでも厳しい状況に変わりなく、会員の中には基準資産額の減額、弁済業務保証金をキ純資産額に反映させるなどの求める声を出た。旅行業の先行きを考えると、更新は難しく、廃業を検討する会社が出てきているという。
新型コロナウイルスの影響が深刻化した2020年4月から2023年5月までの3年2カ月間の累計で、廃業を官報公示した旅行会社数は1786社に及ぶ。その内訳はJATAが239社、ANTAは897社、協会非加盟の旅行会社は650社となっている。
ANTAは2020年から22年の3年間で、832社が退会したが、一方で、新たに595社が入会している。したがって、3年間で会員数は237社減少したことになる。
ANTA会員が主力業務の国内旅行は、コロナから回復してきている。ただ、ANTA会員が得意とするところの国内団体バス旅行の需要回復の戻りは遅く、経営環境はまだまだ厳しい状況にある。
JATAは2023年度も更新登録要件の弾力的運用、資金調達、過重債務救済措置、国内旅行需要喚起策の実施などを政府に要望する。国内宿泊旅行がオンライン化した中で、地方に拠点を置く国内旅行業者の将来像を検討する時期に来ているようだ。(石原)