【潮流】カナダから学ぶ持続可能と高付加価値化
2年ぶりに実施されたツアーグランプリは、新しい旅の時代の幕開けになるかもしれない。国土交通大臣賞を受賞したJTBのカナダツアー、クラブツーリズムのサウジアラビア、JR東日本びゅうツーリズム&セールスのマタギ文化の旅をはじめ、受賞作品を含めて応募作品の多くがSDGs、持続可能な観光、地域活性化などの観光産業の課題を反映していた。
とくに、JTBの「こころで旅するカナダTsunagari tabi〜コロナ後の新しい旅の提案〜」は、再生型観光(リジェネラティブ・ツーリズム)の旅行商品として、これから旅行会社が造成するための「プロトタイプ」としての役割が期待される。
JTB、JTBカナダ、カナダ観光局の3者は、新しいカナダの旅・サステナブルなツーリズムの推進、カナダにおける新しいツーリズムの創成と定着に向けたパートナーシップを2021年4月に3か年計画で締結した。そして、今回受賞したツアーを昨年5月に発売した。
ツアー内容には、サステナブルな体験が盛り込まれる。書き出すと、(1)環境に配慮した漁獲・養殖されたシーフードを使用するレストランを利用し、持続可能な漁業を支援する(2)地産地消を推奨するレストランを利用し、持続可能な農業を支援する(3)先住民族ガイドによる案内で伝統文化を学習する(4)「グリーン・キー・プログラム」認証ホテルを利用する(5)生態系に配慮したツアーや寄付を通して野生動物保護を支援する(6)環境負荷低減をめざすエア・カナダを利用する─ことなどが盛り込まれる。
旅行会社だけでなく、観光局、航空会社、ホテル、訪問先の地域社会、そして旅行者のツアーに関係するすべての人々がSDGs、持続可能な観光の推進に取り組むことが、こうしたツアーを継続していくことになろう。
カナダ観光局はポストコロナを見据えた施策として、2022年に日本マーケット向けに新たな切り口による体験「カナダ・レジェンダリー・エクスペリエンス」を訴求していく方針を示した。これにより、カナダで本物の自然や文化体験をする「再生型観光」のツアーが実現した。
そして、2023年にはカナダ観光局は、「カナダの、その奥へ―。」をキャッチフレーズに、「高付加価値商品」の拡充に取り組むことを発表し、JTBをはじめ複数の旅行会社がこれに協力し、商品化を進めている。
「持続可能な観光の推進と高付加価値商品の拡充」。これこそがポストコロナのテーマであり、カナダはその先駆的な立場にある。カナダを世界の国・地域に置き換える。そして、日本に置き換えれば、目指す方向性が見えてくる。観光立国推進基本計画にある持続可能な観光地づくり、観光産業の高付加価値化などはカナダや世界の観光先進諸国の事例が参考になる。
これから海外旅行、訪日旅行、国内旅行の全ての分野で「持続可能な観光を推進する高付加価値商品」が企画・造成・販売されていくだろう。
人手不足、DXなどの問題はさておいて、最大の課題はツアーグランプリ表彰式で本保審査委員長が総評で指摘した「現在、旅行業のビジネスのベースとなっているコモディティなもの」とこれらの商品とのギャップを埋めることにある。
ツアーグランプリの審査項目には「事業性」があり、その商品の販売実績も重視されている。今回の受賞作品は事業性でも高く評価された。その意味で、「持続可能な観光の推進と高付加価値商品」が、旅行会社の主力商品となることに期待を込めての受賞でもある。
コモディティな商品からツーリズム産業、旅行者が脱することができるとするなら、ツアーグランプリを受賞した商品群が主役に躍り出たときだろう。
ツアーグランプリ、ジャパン・ツーリズム・アワード、JATA「SDGsアワード」、観光庁「持続可能な観光にかかる旅行商品のアワード」など、今やSDGs、持続可能な観光に対する顕彰制度が目白押しだが、本当に「持続可能な観光の推進と高付加価値商品」が時代の潮流となるのは、ここからだろう。(石原)