【潮流】持続可能な観光とオーバーツーリズム
訪日インバウンドの拡大に伴い、オーバーツーリズムへの懸念が高まっている。岸田文雄首相は今秋にもオーバーツーリズム対策を取りまとめ、需要課題として取り組みを強化することを表明した。
訪日外国人旅行者数は6、7月と単月で訪問客数が200万人を突破し、8月も200万人を突破することは確実視されている。単月ベースでコロナ前の約8割水準まで回復、中国以外の訪日旅行者に限定すれば、コロナ前の水準を上回っている。8月10日には中国政府が日本への団体旅行の実施を解禁した。
今後、中国からの訪日旅行が本格化することで回復が加速すれば、オーバーツーリズムの懸念はさらに高まる。原発処理水の海洋放出を巡る中国側の反発などにより先行きは不透明だが、中国からの訪日客は7月で30%回復しており、オーバーツーリズムへの対応は喫緊の課題となる。
岸田首相は、「インバウンド客がさらに回復していくことが見込まれる中にあって、観光客が集中することによって生じる混乱やマナー違反などについて、政府としても重要課題だと受け止めている」と見解を表明。これを踏まえて、今秋にオーバーツーリズムの防止に向けた具体的な対策を講じていく考えを示した。
オーバーツーリズムはコロナ前から国内外の多くの地域や観光地で問題となっており、既にいくつかの対策が示されている。
最も効果的な対策は、観光客を分散化することだ。国内観光客は年間ではゴールデンウィーク、夏休み、年末年始、週間では週末や3連休に集中する。また、訪日旅行者は特定の人気観光地に集中する。
既に、観光の時間と場所の分散化による平準化は観光庁を中心に取り組んでおり、オフ期の割引による分散・平準化を加速して取り組むことが期待される。
また、国内ではまだ少ないが、海外では多くの観光地で実践されている一定数以上の人々が特定の観光地に集中しないように、観光客数を制限することが必要になる。
これは、訪日・国内・海外旅行を問わず、旅行する上で最も重要な課題と考える。コロナ禍で国内ではキャンプや日帰りの河川のバーベキューなどのアウトドアが盛んになったが、観光客のマナーの悪さは地域で大きな問題となっている。人数や車の制限を検討する状況に迫られており、これは最も身近なオーバーツーリズムと言える。
国内・訪日旅行で言えば、ピークシーズンを迎えた富士山への登山も既にオーバーツーリズム問題の典型と言われる。
既に、ハワイではダイヤモンドヘッドや多くの人気観光地で採用されている観光地への予約制の導入、持続的な観光地とするための対価の徴収などの入場制限は必至と思われる。
オーバーツーリズム対策は、持続的な観光を推進するための一環として取り組むべきもので、地域住民と観光客の双方が連携して満足できるものとすることが前提となる。
既に海外で実施され、国内でも導入が議論されているようなオーバーツーリズムを防ぎ、持続的な観光地とするために観光税の導入なども検討する時期に来ているのではないか。
オーバーツーリズム対策では、熊本県小国町のように、実証実験を経て事前予約制の本格的な運用を開始している先行的な事例もある。前述のハワイや小国町などの内外の事例を参考にして取り組むことが重要だ。
観光地への事前予約、入場制限などによるオーバーツーリズム対策には、観光DXの導入が必要になる。持続可能な観光の推進には、観光の課題がすべて絡んでいる。
斉藤国土交通大臣は、「需要の平準化対策や混雑状況が前もってわかるような仕組みなどをやってきたが、オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する対策会議を設置し、関係省庁も交えて政府横断的に議論する会議体を開く」こと言明している。持続的な観光を推進するために、先行事例を参考に地域社会と観光客の双方の満足度を高めることを前提に議論を重ねてもらいたい。(石原)