ウイングトラベル
JATA経営フォーラム、中堅旅行会社の経営
旅行業強みに多様化、周辺・新事業展開」
今年のJATA経営フォーラムの分科会では、中堅旅行会社のトップによる「これからの旅行業経営」のディスカッションが実現した。沖縄ツーリスト会長の東良和氏をモデレーターに、T-LIFEホールディングス社長の石川邦大氏、WBFホールディングス代表取締役の近藤康生氏、ミキ・ツーリスト執行役員、ミキ・トラベル社長の今野淳子氏がパネリストとして参加した。
WBF-HD近藤氏「旅行業だけではだめ」
まず最初にWBFホールディングス近藤社長が口火を切り、旅行業から始めてホテルに進出した経緯を語った。近藤氏は「2010年に経産省から中小企業IT経営力大賞を受賞した。20年間旅行業に携わって儲からなかったが、ウェブ・ITを駆使して少し儲かるようになった」と述べ、結論は「旅行業だけをやっていてはだめだ」と断言した。
同社は、沖縄の瀬長島にアマルフィをイメージした「琉球温泉瀬長島ホテル」などホテル運営を積極的に展開している。当初は札幌、沖縄などにパッケージツアーを扱うホテル経営に進出したが、訪日需要を睨んでホテル経営を本格化し、これをプロフィットセンターとして成長を果たした。この1年で客室数は2000室から4000室に倍増した。
「訪日という外需を取り込むには現地で会社・支店をつくるか、コンテンツを持たないと難しい。日本人の海外旅行が伸びない一方で、かつての海外旅行よりもインパクトの大きい訪日旅行を取り込むためにホテルの積極的進出を決めた」と述べた。
近藤氏は、ホテル業がこれだけ伸びた背景として、旅行業を運営していることで、ホテルオーナーからオペレーターの依頼が多く来たことを指摘。「旅行業を運営していることで、集客、観光のノウハウを持っていると見られる」と述べ、旅行業を強みとして、周辺事業、新規事業に進出するメリット、優位性を強調した。
T-LIFE石川氏「セグメント絞りNo.1になる」
次に、T-LIFEホールディングスは湯旅、東日観光、タビックスジャパン、トラベルイン、IAJグループなどの従来型旅行事業会社を傘下に持ち、経営企画、将来の方向性、優秀な人材育成・登用などを目的に設立された。
石川氏は、旅行マーケットのセグメントとして、個人と法人をそれぞれ内容重視型、価格重視型に4分割した。その上で、T-LIFE-HDのセグメントを個人・法人ともに内容重視型の市場に絞り込んだ。個人旅行は商品知識を強みに、特定ニーズに対応したテーマ性の高い商品を造成する。法人旅行は営業力、ノウハウを駆使して、品質、信頼性の高いコンサル型商品を提案する。
石川氏は「将来的に重要なことは、特定旅行会社としてナンバーワンになることで、会社の規模が小さければ、全てのセグメントをやるべきはない」と述べ、セグメントを決めて、商品を造成していくことを強調した。
ミキ今野氏「新しいことをスピード早く挑戦」
ミキ・ツーリストは日本をドメインとしない旅行業を展開している。今野氏は「インターネットが普及し、ランドオペレーターの価値が以前と違う形になっており、新たな商材、新たなデスティネーションを旅行会社と生み出すことが我々の使命と考えている」と述べた。
日本のアウトバウンド市場が伸び悩み、OTA、直販に旅行者が流れている中で、今後の旅行業界について、世界の海外旅行者数は14億円人を突破しており、2030年には18億人と予想されている。とくに、アジアが全体の3割に拡大しており、オーバーツーリズムの問題も聞かれるが、人は行ったことのないところに行きたいという欲求はなくならない。旅は絶対になくならないので、そこにビジネスチャンスはある」と指摘した。
ミキ・グループではグローバル化の中で、成長するアジアの取り扱いを拡大。アジアから欧州への取扱高は3倍に急増している。2013年は日本ビジネスが全体の6割だったが、5年後の2018年は日本ビジネス37.8%、アジアビジネスが33%で、月によってはアジアが多いときも出ている。
また、クルーズビジネスは20年目を迎え、ロイヤルカリビアンとセレブリティクルーズの総代理店を請け負っている。訪日旅行事業も積極的に展開しており、欧州などからの送客のほかに、神田明神にワールド航空サービス、東武トップツアーズとともにスタジオを運営を開始した。
さらに、日本、アジアの旅行者に対して、欧州でシートインコーチ事業を本格化、「JOIBUS(ジョイバス)」の運行をスタートさせ、現行の10ルート32路線を3年後には欧州全域15ルートに拡大する計画を示した。
今野氏は「ミキのDNAは常に新しいことをスピードを持ってチャレンジしていくこと。思いもよらないことをスピーディーに対応することが中堅な会社の強み」と述べた。
東氏「時流に乗り、新事業に取組む」
東氏はパネリストの話を聞いて、「三者三様の事業を展開しているが、共通していることは時流に乗り、新事業に取り組んでいる。また、経営として意識して、レッドオーシャンからブルーオーシャンを目指して組織を導いている」と述べた。
今野氏は「外−外のビジネス」のポイントについて、「当社の基幹ビジネスは日本から欧州のアウトバウンドで、この定量のビジネスがあることが基盤として大きい。新しいビジネスはハワイは6年目で黒字化を達成した。最初から黒字で儲かる仕事はつくれない」と先行投資が必要なことを強調した。
また、中堅企業だからできる優位性について石川氏は、「次の時代に生き残るには、何をやるにしてもお客様に選ばれなければならない。見極めて、絞りこんでいくことが重要」と述べた。
東氏も「交通整理が必要で、今はスケールデメリットが言われ、大型団体が嫌われる時代。スケールを絞ることによって質を高めることが重要」と指摘した。
東氏「ローカルOTAの可能性を示唆」
夢やワクワク感を持って旅行業に邁進
※写真=JATA経営フォーラム分科会「中堅旅行会社のこれからの旅行業経営」に出席した左から、モデレーターの東良和沖縄ツーリスト会長、パネリストの今野淳子ミキ・ツーリスト執行役員・ミキ・トラベル社長、近藤康生WBFホールディングス代表取締役、石川邦大T-LIFEホールディングス社長