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2018.05.11

WING

宇宙基盤強化、宇宙ビジネス人材プラットフォーム創設へ

経産省、宇宙分野の専門人材不足に対応

 経済産業省が設置した、「宇宙産業分野における人的基盤強化のための検討会」(座長:中須賀真一教授〔東京大学大学院工学系研究科〕)はこのほど、日本の宇宙産業分野における人材施策として、宇宙ビジネス専門人材プラットフォーム「S-Expert」(仮称)の創設することなどを提案した。
 急速に拡大している世界の宇宙産業において、日本は宇宙分野の専門人材が不足していることが問題となっており、宇宙人材プラットフォームを通じた、宇宙産業内の人材流動性の向上及び他産業からの宇宙産業への人材流入の促進を図ることが狙いだ。
 また、検討会は他に、「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」の活用の可能性を通じた衛星データに関するデータサイエンス認定講座の新規創設の検討や、ビッグデータ解析等の講座を現在開設している事業者等を対象とした衛星データ基礎講習機会の拡大などにデータサイエンティスト等の専門人材の育成を図っていくことについても提案している。
 欧米や日本にかぎらず、新興国や途上国に至るまで宇宙というフロンティアを活用しようと続々と進出しているなか、宇宙産業は今や世界全体で30兆円以上(2015年)の規模にまで膨れ上がり、日本の宇宙産業規模も1.2兆円となっている。
 国内では近年、準天頂衛星が打ち上げられ、高精度測位サービスを開始しているほか、地球観測衛星の取得画像が高解像度化、さらには小型コンステレーションによる高頻度化により、データの量・質ともに大きく向上した。そうしたなか、昨年5月に発表された「宇宙産業ビジョン2030」において、宇宙利用産業を含めた宇宙産業全体市場規模を、2030年代早期に倍増することを目指す方針が示された。ただ、一方で宇宙分野の専門人材不足が課題として浮上するなど、早急な対応が求められているところ。

 

 狭き門の宇宙産業、人材供給量とは?
 航空宇宙課程新卒の10%未満のみ

 日本の宇宙産業分野に従事する人材は、利用産業、機器産業、ベンチャーをあわせて1万1600名ほど。地球観測、衛星放送・通信、測位分野などといった利用産業では、少なく見積もって1900名ほどが従事している。一方、機器産業については9000名ほどの人材が従事しており、研究開発が5割、約3割が製造、残りは事務・管理系に従事しているとみられている。さらに、いわゆる宇宙ベンチャーには、主要12社において260名ほどが従事している様相だ。
 そうしたなか、宇宙産業に対する人材供給はどうなっているのか−−−。検討会の調べによれば、大学・大学院の航空宇宙課程における新卒者は年間2400名程度が労働市場に供給されているものの、宇宙産業に就職する学生は、わずかに10%に満たないレベルにあるという。
 一方、既卒の転職者については、宇宙産業に関連する大企業間、大企業・ベンチャー間ともに他産業に比べると少ないという。さらに、他産業からの人材流入についても、技術系、営業系ともに宇宙産業の大企業、ベンチャー企業に転職する事例は、わずかなレベルに留まるという。
 ちなみに、出向については人材育成や事業開発を目的とした、JAXA・大企業間の人材交流及び大企業におけるグループ会社内出向について一定の実績が存在するほか、副業や兼業は秘匿性の高い性質上、原則禁止とされているとのこと。定年後の再雇用については、社内で再雇用を進める動きが生じているという。

 欧米ら宇宙先進国の人材確保策は

 日本国内では宇宙専門人材の不足が指摘されているが、欧米など先進国はどうなっているのか。
 米国では既に民間主導のイノベーション創出を含め巨大な市場を形成。英国やドイツでは、日本と同様、宇宙利用の拡大を通じた産業発展を志向しているという。そうしたなか「人材の呼び込み・育成」施策として例えば、米国や英国では、外国人やインターン(学生)の活用、宇宙の広報活動(宇宙産業の魅力付け)による人材の呼び込みを行っており、ドイツでは、Dual Study Programという大学等での座学教育と企業等で実務経験を学ぶ職業教育システムを構築しており、産業人材育成政策を講じている。
 また、「人材交流促進」施策として宇宙産業クラスターを形成し、他産業を含む交流会の開催等実施することで人材の流動性を高め、イノベーション創出を促進。英国では、Harwellクラスターを中心に、様々な宇宙関連機関・団体・企業が集まるエコシステムが形成されており、政府機関主導で産学官交流が促進されているところ。

 

 利用産業、データサイエンティストなど重要に
 機器産業、マーケティングやプロマネ人材必要

 検討会によると、宇宙産業分野における人材として、宇宙利用産業ではデータサイエンティストなどが必要との見方を示す。衛星データを含むビッグデータ処理・解析し、アプリケーションビジネスを創出する人材やゼロから新たなアイデアを生み出すことことができる人材が必要としている。
 一方、宇宙機器産業では、マーケティングや海外営業、生産管理、プロジェクトマネジメントなどを行うことができる人材が必要になるとの見方を示している。海外市場におけるニーズの発掘や現地でのリレーション構築を通じて ビジネス機会を創出・推進することのできる人材のほか、自動車産業等において活用されている製造ラインの自動化技術等、先進的な生産管理の知見を有する人材、さらにはプロジェクトマネジメントに係る専門性を持つ人材が求められるとしている。
 また、日本国内では人材流動性が低いことが問題となっていて、ベンチャー企業においては、衛星・ロケット開発のエンジニア不足等の課題が存在し、解決策の一つとして、大企業からベンチャー企業への人材流動性向上が重要と指摘。さらに人材流動性向上にあたっては、「人生100年時代」や「リカレント教育」が謳われているなか、従来の正規雇用の形態にとらわれない柔軟な働き方の実現も重要なほか、定年を迎えたOB人材の活用、出向や副業・兼業等を通じた現役人材の活用も重要としている。

 

※写真=日本では宇宙専門人材の確保が喫緊の課題に。多様な人材が現在も活躍しているが、競争が激しい宇宙産業で日本が勝ち残ることができるのか、専門人材の更なる確保が鍵を握る