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2019.09.12

ウイングトラベル

南アフリカでサファリ体験、 原点回帰の旅

Destination Report ── South Africa
 南アフリカで開催されるトラベル・トレードショー「インダバ」の取材を機に、初めてのアフリカ大陸、初めての南アフリカ共和国を旅した。アフリカには様々なイメージがある。その中でも、野生動物を間近に見られるサファリは、アフリカ旅行の最大の魅力の一つだ。サファリを体験することにより、人は様々なことを感じ、様々なことを考える。とくに、サファリの最中では、日常と非日常、観光と環境などの対立軸に自分の身を置いた。サファリを中心に、今回の南アフリカの旅をレポートする。(本紙編集長:石原義郎)

 

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多様性に溢れた南アフリカを旅する
発展する海洋リゾート都市ダーバン

 成田空港からキャセイパシフィック航空(CPA)に乗り、香港経由で南アフリカ・ヨハネスブルグ空港に到着する。南アフリカへの入国審査はとてもシン􏰂ルで、入国カードも税関申告書も必要ない。入国審査窓口でパスポートを提出するだけだ。米国、中国に入国するよりも遥かに手続きは簡素化されている。
 また、アフリカへ行くとなると、長旅を想像するが、香港経由便のために時間はかかるものの、航空機に乗ってしまえば、入国への緊張感もなく、リラックスすることができる。
 ヨハネスブルグからダーバンへは南アフリカ航空(SAS)の国内線で行く。今回の旅は、アフリカ最大のトラベル・トレードショー「インダバ」の取材を兼ねており、南アフリカ第3の都市、ダーバンに4泊滞在した。
 南アフリカは今年日本で開催されたG20サミットの参加国であり、先進国に次いで発展する新興国の一つに数えられている。既に、サッカー・ワールドカッ􏰂も開催し、アフリカの政治・経済・文化を牽引する国でもある。いずれは、オリンピック・パラリンピックの開催国として名乗りを上げる時が来るだろう。
 南アフリカの都市の中でも、ダーバンはインド洋に面したリゾート都市として知られる。ヨットハーバーや若者がサーフィンに興じるビーチは、カリフォルニアや地中海のリゾートを思わせる。一方で、ダーバンの港には、インド洋から豊富な海産物が水揚げされ、日本では遠洋ものとして解凍して食すミナミマグロを新鮮な地魚として􏰅わえるのは贅沢の極みだ。
 アフリカは、南アフリカであっても治安のことを言われるが、これは誤解と偏見に基づくものだ。ヨハネスブルグは大都市であり、東京やニューヨークと変わらない。空港、ショッピングモールなど、観光客が行く施設は安全であり、全く問題はない。ダーバンもヨーロッパから多くの観光客が訪れており、カリフォルニアやフロリダへ行くのと同じ感覚で過ごすことができる。
 安全や安心面については、世界各国の都市事情はそれほど変わらない。旅先では「たびレジ」で現地情報を収集し、危険が想定される場所には近づかないことを心掛けることが肝要だ。

 

※インド洋に面したリゾート都市ダーバン

ダーバンの夜明け。インド洋から朝日が昇る

 

サビサンド私営動物保護区で野生動物を見る
中心に点在するサビサビ プライベートゲームリザーブ

 「インダバ」の終了後、南アフリカのクルーガー国立公園に隣接したサビサンド私営動物保護区へ向かう。ダーバン国際空港からヨハネスブルグ国際空港へ一旦戻り、そこから南アフリカ航空が提携する地域航空会社のエアリンクのエンブラエルに乗り、スククーザ空港に降り立つ。空港がブッシュ地帯にあり、ここから宿泊先のサビサビ・ブッシュ・ロッジにトヨタ・ランドクルーザーに乗って向かう。

 空港からロッジの間だけでも、インパラなどと遭遇し、ここがアフリカであることを実感する。これから始まる早朝、夜間のサファリを想像すると、胸の鼓動を抑えきれない。一面の草原とブッシュと遠くの山並み。大都市のヨハネスブルグ、リゾート都市のダーバン、大自然のサビサンド私営動物保護区。南アフリカは多様性のある魅力に溢れたデスティネーションだ。
 アフリカ大陸の南端に位置する南アフリカ。東はインド洋に面し、西は大西洋に面する。海岸線は2500kmに達する。ダーバンでインド洋から昇る朝日を眺め、内陸のサビサンドでアフリカ大陸に沈む夕日を見る。
 サビサビは1979年に開業した南アフリカを代􏰃する動物保護区内の高級ロッジ。広大なスペースにブッシュ・ロッジ、リトルブッシュ・キャン􏰂、セラティ・キャン􏰂、アース・ロッジの4つのロッジが点在する。
 それらのロッジは、過去・現在・未来のテーマに別れ、アフリカの歴史・伝統・文化を継承しながら、アフリカの過去、現在、そして未来を象徴するモチーフで構成されている。今回滞在したサビサビ・ブッシュ・ロッジは、スイートから最高級のラグジュアリー・スイートを含む25室を擁する。
 客室内にはワインやシェリー酒を用意。広いバスタブとベッド。外にもシャワーがあり、一部にはジャグジーもある。高級スパや􏰂ールも完備。􏰂ールで泳ぎながら、木々には猿などの小動物が戯れる。ロッジでのディナーは、野外でのビュッフェ形式。通常の料理に加えて、インパラ、クロコダイルなどの野生動物のジビエ料理が味わえる。

 

アフリカの草原と映える月。静寂の世界。

アフリカの大草原に点在する最高級サビサビ・ブッシュ・ロッジ

サビサビ・ブッシュ・ロッジのプール

サビサビ・ブッシュ・ロッジのバー

 

圧巻のゲームドライブ、野生動物の生態を知る

 サビサビに宿泊してリゾートライフを楽しみながら、朝夕1日2回のゲームドライブ(サファリ)に出掛ける。
 ロッジからもインパラやバッファローの群れを眺めることができるが、初めてのゲームドライブはやはり圧巻。どこにでも行ける最強の四輪駆動車、オープントップ􏰂のトヨタ・ランドクルーザーに乗り、レンジャーの案内でブッシュを巡り、インパラ、シマウマから始まり、“ビッグファイブ”と言われるライオン、ヒョウ、象、バッファロー、サイ、さらにはキリン、カバ、鳥類、爬虫類など多くの野生動物の生態を見ることができる。
 メスを中心に群れを成すライオンは、日長寝ている。最初は雄々しいライオンの歩く姿を期待するが、多くの「ライオンは寝ている」。寝ているライオンが本来の姿かもしれない。夕方になると動き出すヒョウよりも、木の上で寝ているヒョウの方が印象に残る。
 象の群れは、ちょうど発情期に当たり、通常でも興奮しているが、車で近づいた我々を見て追いかけてきた。結果的に、自然の営みの邪魔をしてしまい、申し訳ない気持ちになる。

 

サファリーゲームドライブで見るビッグ5、象 ビッグ5、サイの親子 ビッグ5、こちらを見るバッファロー ビッグ5、眠っていたが気がつくライオン ビッグ5、木の上で悠然と過ごす豹

 

動物の存在に違和感なく、非日常が日常になる

 朝夕のゲームドライブを幾度か経験すると、野生動物の存在が気にならなくなってくる。それは、動物を見ることに飽きたということではなく、動物と自分が同じ場所にいることに違和感がなくなり、自然のことのような感覚になってくる。
 ただ、我々はこの地に来た闖入者であり、余所者にすぎない。動物にとっては迷惑な存在で、それは変わらないが、こちらの意識が変わってくる。
 南アフリカの野生動物保護区に来て、象やライオンを眺めるというのは、日本の雑踏の日常から、南アフリカの野生動物保護区という非日常の世界に飛び込んでいるのだが、いつの間にか、ここにいることが日常に思えてくるのは不思議な感覚だ。

 

草原でワイン、夜空に満天の星
漆黒の闇、羅針盤は南十字星

 草原地帯に車を止めて、朝焼けや沈む夕日、満点の星を眺めながら、コーヒー、シャンパン、南アフリカ産のシャルドネやピノタージュ・ワイン、南アフリカの地酒「アマルーラ」を飲む。南アフリカでしか味わえない体験だが、これさえも自然に感じてしまう。
 地球を俯瞰して、そこから一挙に下降し、アフリカ大陸、南アフリカ、サビサンド私営動物保護区に降り立つ。そして、自分がいま満天の星の下にいる。星空をじっと眺めれば、人工衛星の動きも、流れ星も見えてくる。だが、それよりも、夜空に輝く南十字星が、自分が南アフリカにいることを証明してくれる。
 南アフリカのブッシュで眺める満天の星。星空を見上げ、漆黒の闇の中を車のライトだけでサビサビ・ブッシュ・ロッジへ帰る。南十字星を見ながら、南半球を旅した人々のことを想う。南半球、南アフリカにおける南十字星は、北半球、日本における北極星と北斗七星と同じで、行くべき道を教えてくれる羅針盤だ。

 

南アフリカはSDG’s の最前線
大自然サビサビで知る原点回帰

 インダバの最終日に、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は語った。「自然環境への影響を最小限に抑えながら、経済の成長と変革を推進するため、世界各国では持続可能な発展に向けての道を追求する必要性に関して、幅広い国際的コンセンサスが形成されつつある。そして、アフリカ諸国は責任ある観光とエコツーリズムの分野で牽引役を演じている」。
 エコツーリズム、レスポンシビリティ・ツーリズム、サスティナブル・ツーリズムをどのように推進していくか。「SDG’s」で、持続可能な開発における観光産業の貢献と責任が問われている。環境を守るための持続可能な観光開発の最前線が、南アフリカにある。
 野生動物を見ることは、南アフリカを旅する魅力の一つだが、圧倒的な南アフリカの大自然の中に身を置くと、この環境を保護することの責任を実感する。
 南アフリカに行くことにより、サファリを体験することにより、人が自然と共生することの重要性を再認識する。自分がいかに小さな存在なのかを改めて知り、この世界で謙虚に生きることの大切さを教えてくれる。観光の発展は、環境の維持が前提にあるという当然のことを再認識する機会となる。
 アフリカを形容する上で、「人類発祥の地」「母なる大地」など様々な言葉がある。南アフリカ、とくにサビサビは人間を「原点回帰」させてくれる場所だ。

 

悠然と歩くキリン アフリカと言えばインパラ 車の前を通り過ぎるシマウマ 群れをなすワイルドビースト ゲームサファリの最後はシャンパン、ワイン、コーヒーを飲みながら静寂の時間を過ごす