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航空局幹部年頭の辞、オリ・パラ控え航空サービス強化
羽田・成田の機能強化、国際線受入れ着実に実施
国土交通省航空局は、和田浩一局長をはじめ幹部一同が2020年を迎え、年頭の辞を述べた。和田局長は、東京オリンピック・パラリンピック大会を機とした様々な変革に対応するべく、航空サービス強化の必要性を強調。交流人口拡大へ向けた増便への対応、確実な安全対策、関係者連携の3点に力を入れる考えを示した。また、航空ネットワークについては、羽田の増枠の対応を着実に行うとともに、成田の3本目滑走路整備を推進して、首都圏の機能強化に貢献する。さらには地方など各空港でも国際線の乗入強化に向けた取り組みを推進していく姿勢だ。
和田浩一局長、安全で利便性高いサービス提供へ
増便対応、安全対策、関係者連携を重視
新年明けましておめでとうございます。令和の時代となって初めての新年となりますが、職員や関係者の方々が穏やかな新年を迎えられたことをお慶び申し上げます。また、年末年始も休むことなく空港などの現場において、安全で利便性の高い航空サービスの提供にご尽力を頂いた職員や関係業界の皆様に深く感謝申し上げます。
さて、今年2020年は、いよいよ東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。そして、これを節目として、社会、経済の様々な面で大きな変革が起きようとしています。航空もこれに乗り遅れることなく、安全で利便性の高いサービスが提供されるよう、関係者と共に努力していきたいと思います。その中で、私から総括的に3点、触れておきたいと思います。
1つ目は、インバウンドなど伸びゆく需要の取り込みです。政府として2020年に訪日外国人4000万人という目標を掲げていますが、これを実現するためにも航空局としてしっかりと需要を取り込む努力が必要です。今年の夏ダイヤからは、首都圏空港を始め、新千歳、福岡、那覇で処理能力の拡大を実現します。グランドハンドリングや給油など、増便を実現するための環境を整えていくことも必要です。これらの対策を総合的に実施するとともに、官民で連携して国内・外との交流人口を拡大していくための取り組みを進めて参ります。
2つ目は、安全・安心の確保です。日々のオペレーションで安全を確保することは、交通に携わる者が共通して背負う最重要課題です。このほかにも、一昨年に続き、昨年も大型の台風が日本を襲い、空港で多数の滞留者が発生するなど、航空行政に課題が残りました。パイロット等の飲酒問題も後を絶たず、官民を挙げて意識改革を図り信頼回復に努めていかなくてはなりません。施設の安全対策として、耐震化・老朽化対策を含め、着実に進めていく必要があります。そして、ドローンへの期待が高まる中、その安全対策も取り組まなければなりません。
3つ目は、少し視点が変わりますが、関係者の連携という点です。1つ目、2つ目の様々な課題を解決し、より高い次元の付加価値を付けていくためには、官民間の連携、他職種間の連携、他業種間の連携など、航空サービスに関係する者が緊密に連携することが必要不可欠です。決してタコ壺に陥ることなく、高い視座に立って物事にチャレンジすることを忘れずに、各プレーヤーが努力していくことに期待したいと思います。
航空ネットワーク部 平岡成哲部長
羽田・成田機能強化で地元関係者の理解促進へ
我が国の国際競争力の強化、訪日外国人旅行者の更なる受入れ、そしていよいよ本年開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会の成功のためには首都圏空港の機能強化が必要不可欠です。
羽田空港は3月29日より新飛行経路の運用を開始して、国際線を更に50便増便し、首都圏と世界、羽田を経由して地方と世界の結びつきを一層強化して参ります。住民の方々からの騒音や落下物などに対する不安の声を受け止め、騒音対策、落下物防止対策等を着実に推進するとともに、引き続き運用開始に向けて丁寧な情報提供を行い、できるだけ多くの方々のご理解を得られるよう取り組んで参ります。また、成田空港については、訪日外国人旅行者を6000万人受け入れるためにも、一昨年3月の4者協議会での最終合意を踏まえ、引き続き成田空港会社及び千葉県とともに関係市町のご協力を頂きながら、第3滑走路の整備など同空港の機能強化を進めて参ります。
訪日旅行者の更なる受入れのためには、首都圏空港以外の拠点となる空港の機能強化も重要です。関西空港については防災機能の強化を進めるとともに第1ターミナルのリノベーションを進め、旅客利便の一層の向上を図って参ります。また中部空港については、航空需要の更なる拡大と現施設のフル活用を図るための検討を実施します。地方の拠点空港については、滑走路や誘導路の整備、ターミナルの再編などの機能強化を進めて参りましたが、那覇空港では新滑走路が本年3月26日より供用を開始し、これにより滑走路の処理容量が1.8倍に拡大するほか、新千歳空港及び福岡空港において本年夏ダイヤより発着枠の拡大を予定しています。引き続き福岡空港の滑走路増設事業などの機能強化に取り組んで参ります。
首都圏空港やこれら国際拠点空港における発着枠の増大を新たな運航便の実現に結びつけるためには、航空機の運航に不可欠なグランドハンドリングの確保が重要です。グランドハンドリング事業者による横断的な応需の実現、新規採用の大幅拡大、特定技能制度の活用による外国人材の確保、先進的な資機材の導入による省力化・自動化の推進など官民連携して総合的な対策に取り組み、1便でも多くの就航便を成立させて参ります。特に空港制限区域内の自動走行については今年中にレベル3の自動走行車両の導入を実現して参ります。併せて先端技術の活用等により旅客の搭乗関連手続きの「One ID化」などFAST TRAVELの取組を推進し、ストレスフリーな旅行環境の実現を進めて参ります。
このような受入れ環境の整備に加えて航空旅客やエアライン等の空港利用者の満足度を引き上げる観点から空港経営改革を進めることも重要です。今年は新たに北海道7空港及び熊本空港の運営委託が順次開始され、広島空港について優先交渉権者を決定する予定となっています。空港は、「整備」から「運営」、更には「経営」の時代に向けて進んでいます。航空行政のあり方もそのような変化に的確に対応していきたいと考えています。
さらに交流人口の拡大による地方創生のためには地域における国内外の航空ネットワークの維持・充実が重要となります。地方空港における国際線ネットワークの充実のため、「訪日誘客支援空港」制度を活用して自治体等による誘客・国際線就航促進の取組を支援いたします。国内線ネットワークについては、羽田空港の発着枠の回収・再配分により拡大された政策コンテスト枠を有効に活用し、地方路線の充実を図るとともに、昨年10月に設立された九州地域における事業組合(LLP)を通じて系列を超えた協業化を推進して参りたいと考えています。
堀内丈太郎大臣官房審議官
需要に応じ中国路線拡大、進むインフラ海外展開
国際航空、特に海外の航空当局との交渉、調整の関係で見ると、まず羽田空港の発着枠の配分については、訪日需要への対応や国際競争力強化の観点から配分対象候補国の選定を行った上で各国との航空交渉を実施し、羽田未就航の多くの大都市を抱える米国、中国と、羽田昼間未就航のロシア、オーストラリア、インド、イタリア、トルコ、フィンランド、スカンジナビアの合計9ヵ国・地域に対して配分を行いました。今般の羽田の国際航空ネットワークの拡充を通じて、これらの国からの訪日需要を我が国の成長力として取り込むとともに豊富なビジネス需要に対応できるよう、また、配分した全ての枠における早期就航が実現されるよう、関係当事者に促して参ります。
また、成田空港等に関する交渉の関係では、特に、中国当局と行った航空交渉の結果、成田・北京・上海についての輸送力制限を、2019年冬ダイヤ以降、段階的かつ大幅に緩和することで合意できました。具体的には、中国企業の成田への乗り入れ便数が、週99便から週410便に段階的に拡大されるとともに、日本企業による北京・上海への乗り入れ便数(北京は、昨年9月に開港した新空港を含む)も週194便から週410便に段階的に拡大されます。
また、日本企業については、成田から北京・上海以外の空港への乗り入れ制限は撤廃しました。さらには、中国企業については、北京・上海から日本の地方空港への乗り入れ制限を撤廃しました。以上のような交渉の合意を契機に訪日外国人旅行者の更なる誘客が図られるよう、早期の増便・新規就航に向け、必要な調整を進めて参ります。
航空インフラの海外展開も重要な課題です。近年、我が国における海外へのインフラ展開は重要な政策分野となってきており、内閣総理大臣や国土交通大臣等による外国政府へのトップセールスが頻繁に行われているほか、2018年には海外インフラ展開法が制定され、成田空港会社や中部空港会社等も本来業務として海外インフラ展開を行うことが位置づけられました。
こうした背景の下、航空インフラ輸出についても、運営参画に関しては、昨年は4月にパラオ国際空港で、日本企業連合が過半の株式を持つ空港会社が運営を開始したほか、7月にはモンゴルの新ウランバートル空港で、成田空港会社を含む日本企業連合が過半の株式を持つ会社がモンゴル政府との間で運営に関する事業権契約を締結しました。更に、10月にはロシアのハバロフスク空港で、日本の空港運営会社等で構成される日本企業連合が現地空港会社に出資することにより運営に参加しました。
また、空港の整備に関しては、昨年は、日本企業が、バングラデシュ、カタール、エジプト、パプアニューギニアにおいて4つの大型空港プロジェクト計2800億円分を受注しました。特に、バングラデシュのダッカの新空港では、日本企業の施工・環境技術を用いた新旅客ターミナルや誘導路の整備が行われることになったほか、カタールのドーハの新空港では、2022年のサッカーW杯に向けた新旅客ターミナルの整備を日本企業が受け持つこととなりました。こうした空港での整備、運営での参加に加え、GBAS等の航空関連機器や航空サービスの海外での受注、採択にも力を入れ、引き続き、トップセールスや、官民で組織する「航空インフラ国際展開協議会」の取組等を通じた活動を推進して参ります。
交通管制部 河原畑徹部長
抜本的な航空路再編、いよいよ上下分離迫る
訪日外国人旅行者を6000万人受け入れるためには、管制容量の拡大が必要不可欠です。このため、航空路空域の上下分離及びターミナル空域の拡大・統合からなる国内管制空域の抜本的再編を段階的に進めて参ります。具体的には、昨年7月に首都圏空域の再編(東京進入管制区の拡大)を行ったのに続いて、令和2年度から令和3年度にかけて、西日本航空路空域の上下分離を行い、近距離及び空港周辺の上昇降下機に専念する「低高度」を神戸管制部、巡航機が中心となる「高高度」を福岡管制部に移行する予定です。
また、交通量増大に対応する基盤の一つとして、従来のシステムを統合した新たな航空管制システムの整備を進めており、今年度内に那覇空港の空港管制処理システム、福岡管制部の航空路管制処理システム、ATMセンターの航空交通管理処理システム等への移行を円滑に進めて参ります。
大規模自然災害対策本部 松永康男部長
過去の災害から学んだA2-BCPの構築へ
昨年も台風の襲来が相次ぎ、空港の施設等に特段の害は生じなかったものの、台風第15号の影響により成田空港のアクセス機能が途絶し、多数の旅客がターミナル内での滞留を余儀なくされました。このため、その後の台風第19号、台風第21号に刺激された記録的な大雨の際には、空港アクセス機能に支障が生じることを想定して航空機の運航に制限をかけたことにより、旅客の滞留を一定程度抑制することが出来ましたが、結果として旅客の利便性に一部で影響も出ました。一昨年の台風第21号による関西国際空港における被災・機能停止の例を見ても、航空機の運航の停止や制限が国民経済や国民生活に与える影響は甚大であり、大規模自然災害時にも航空ネットワークを可能な限り維持し続けることが重要です。
これらを踏まえ、国土交通省航空局では有識者委員会を設置し、昨年11月に「A2-BCPガイドライン(案)~自然災害に強い空港を目指して~」を公表しました。A2(Advanced / Airport)-BCPは、空港全体としての機能保持や早期復旧に向けた関係機関の役割分担等を明確化するもので、これにより全国の空港において全ての空港関係者が一体となり、訓練等を通じて真に実効性のあるA2-BCPを構築していくとともに、過去の自然災害から学び、その経験から得た知見を工夫し、新たな取り組みとして実行し、最大限の努力を継続して払っていくことにより、大規模自然災害に強い航空ネットワークの構築・維持を目指して参ります。
安全部 川上光男部長
飲酒、ドローン事案など取組み強化、一層の安全推進
航空行政として安全・保安の確保は何よりも優先すべき事項です。パイロットの飲酒、保安検査トラブル、空港でのドローンらしき物体の目撃情報による滑走路の閉鎖等の安全・保安を脅かす事案が度々発生しました。引き続き基準策定、監視・監督、啓発活動等の必要な取り組みを進めて参ります。
パイロットの飲酒に関する不適切事案については、昨年4月以降全ての航空運送事業者に対し検査機器によるアルコールチェックを義務付けたほか、航空法を改正し、飲酒に関する罰則強化を行いましたが、その後も引き続き飲酒事案が発生したことから、飲酒量の制限や出勤前検査による自己管理の徹底等の追加対策を講じたところです。国民の信頼を早急に回復するため、航空業界と連携しながら引き続き飲酒事案の再発防止に取り組んで参ります。
航空保安対策については、今年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けて、引き続き「テロに強い空港」を目指し、主要空港を中心にボディスキャナー等の高度な保安検査機器の導入を着実に推進するとともに、同大会終了後は、全国の空港において従来型の検査機器の更新時に高度な検査機器への入れ替えを促進して参ります。また、機内持込禁止品未検出等の一連の不適切事案への対策としては、危険物を確実に発見し、発見した危険物が適切に取り扱われるよう現場で徹底していくことが重要です。このため、国自らも保安検査現場の状況を確認し、それに基づく徹底した原因の分析を行い、その上で警察当局の協力も得て、再発防止に向けた対策をしっかりと講じて参ります。
ドローン等の無人航空機については、昨年は航空法等の改正により、飲酒時の操縦禁止等の飛行の方法に遵守事項を追加したほか、報告徴収や立入検査制度を新設し、飛行ルールの強化を行いました。一方で、機体の墜落や所在不明等の事案、航空法違反で検挙される事案が増加しており、関西国際空港においてはドローンらしき物体の目撃情報を受け、航空機の離着陸が制限され、多数の航空機が欠航・ダイバートや遅延する事案が相次ぎました。このような状況の中、昨年末の「小型無人機に関する関係府省庁連絡会議」においては、無人航空機の登録制度の導入及び空港へのドローン侵入対策の強化に関し、早期の制度化を目指すことが取りまとめられました。今後、関係省庁と連携して航空法改正を含め必要な措置を講じるとともに、主要空港における無人航空機検知システムの早期導入を図って参ります。また、利活用の観点からは、有人地帯での目視外飛行(レベル4)の実現に向けて、「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」において昨年11月に制度設計の基本方針の策定に係る中間とりまとめが行われました。今年度中に制度設計の基本方針を策定し、2022年度からのレベル4の実現に向けて、技術開発の状況等を踏まえ、引き続き機体の認証、操縦者等の技能、運航管理に関するルール等の必要な制度整備の検討を進めて参ります。
以上のほか、国産ジェット旅客機スペースジェット(旧MRJ)については、昨年3月から航空局のパイロットによる飛行試験が行われています。また、昨年の航空法改正では就航後の国産航空機の安全性確保のための仕組み・制度を創設しました。引き続き、佳境に入った型式証明に係る安全性審査を適切かつ円滑に進めるとともに、関係省令等の改正を含めた制度整備を進める等初号機納入に向けた準備を進めて参ります。
小型航空機の安全確保については、昨年の航空事故件数は過去最低水準まで減少しましたが、安全水準の維持向上を図っていくためには継続した安全対策の推進が必要です。このため、引き続き安全情報の収集分析を行いつつ「小型航空機等に係る安全推進委員会」における検討を通じて、簡易型飛行記録装置等の先進的技術の活用や操縦士等に対する指導監督強化、更に安全啓発動画等の安全情報の発信強化を進めて参ります。
航空機からの落下物については、昨年、部品等脱落防止措置及び被害者救済事項に関する省令改正が施行されました。本邦航空会社や外国航空会社は航空法に基づき提出される事業計画の中に部品等脱落防止措置等を規定することにより、落下物防止対策の実効性を担保することになりました。今後も関係者と協力し落下物防止対策を着実かつ強力に進めて参ります。
また、2020年の訪日外国人4000万人の目標達成に向け、ますます増大する我が国の航空需要に的確に対応していくため、操縦士・整備士の養成・確保も重要な課題です。外国人操縦士の在留資格の発給要件の緩和、私立大学等の操縦課程の学生向けの奨学金の創設、自衛隊出身操縦士の民間での活躍促進等を進めるとともに、独立行政法人航空大学校の養成定員を1.5倍化するなどの対策を実施しているほか、特定技能制度を活用した航空機整備に関する外国人材の確保も進めているところであり、引き続き関係者とも連携しつつ、操縦士・整備士の確保に向けた取り組みを進めて参ります。
飯嶋康弘次長
課題山積の航空分野、ONE TEAMで期待に応える
航空局が抱える課題は山積しております。これは、航空局が果たすべき役割がますます増大していることの表れであり、国民からの期待がそれだけ大きいということです。昨年は、ラグビーW杯で日本チームが大活躍し「ONE TEAM」という言葉が流行語となりましたが、航空局におきましても約7000人の全職員が一体となって、まさに「ONE TEAM」としてチーム力を発揮し、国民の期待に応えていけるよう頑張りましょう。
もちろんそのためにも、航空局の職場に働き方改革を徹底し、WLBを推進していくことが必要です。ワークスタイル改革として既に様々な取組みを進めておりますが、全ての職員が自信と誇りを持って生き生きと働けるよう、現場を抱える航空局としては各職場の事情に応じて、職場環境の改善に更に一層強力に取り組んで参りたいと存じます。また、文書管理等コンプライアンスの徹底もお願いいたします。
それでは、今年もしっかりと「日本の空の安全」と「航空機の円滑な運航」を確保し、常に国民目線に立った施策を推進していくとともに、全国の航空局職員が各々の業務を通じ今年が充実した1年となりますことを祈念して、年頭の御挨拶とさせていただきます。