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難燃性マグネシウム合金で高速鉄道車両の試作成功
航空宇宙でも注目、航空宇宙などへの横展開に期待も
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と新構造材料技術研究組合(ISMA)は、難燃性のマグネシウム合金を用いて、新幹線車両と同一断面サイズの高速鉄道車両部分構体の試作に成功した。難燃性マグネシウム合金は、鉄道のみならず、航空宇宙や自動車分野などでも注目の材料。こうした他分野における大型構造物の早期実用化も期待されているところ。なお、今回成功した試作品は、難燃性のマグネシウム合金のみを使った世界最大級の大型構造物となった。
新幹線などの高速鉄道車両構体には軽量なアルミニウム合金が使われている。しかしながら、高速化と省エネニーズが高まっていることを背景に、車両構体の軽量化ニーズが強まってきた。そこでアルミニウムよりも比重が30%以上小さいマグネシウムが注目されるようになってきた。
NEDOでは、ISMAの組合員である総合車両製作所、川崎重工業、三協立山、権田金属工業、住友電気工業、不二ライトメタル、大日本塗料、産業技術総合研究所、および再委託先である木ノ本伸線、ミリオン化学と共同で、難燃性のマグネシウム合金を用いて新幹線車両同一断面サイズの高速鉄道車両部分構体の試作に成功した。
試作に用いたマグネシウム合金は、これまで課題とされてきた難燃性・強度・加工性などについて改善した独自の開発成果とのこと。アルミニウムよりも比重が30%以上小さいマグネシウムを適用することで、車両構体の大幅な軽量化が見込まれるが、今回の試作によりその実現性が確認できた。
軽量マグネシウム合金展伸材はこれまでに、電子筐体や機械部品などの小型の部材に使用されているものの、マグネシウムの難燃性、耐食性、成形性などが比較的低いことから、大型の構造物への適用はほとんど例がなかった。
そこでNEDOは、2014年度からマグネシウム合金開発と大型構造物である高速鉄道車両構体への適用技術の確立を進めてきた。NEDO事業において、ISMAは強度や延性、加工のしやすさを改善した難燃性マグネシウム合金を開発し、2016年度には難燃性マグネシウム合金を使った車両構体の側構体部分パネルを試作。そして今回、より大きな現行の新幹線車両構体と同一断面サイズをもつ高速鉄道車両部分構体(高さ2.9m×幅3.2m×長さ1.0m)の試作に成功した。
NEDOは今回の構体は、難燃性マグネシウム合金を使った世界最大級の大型構造物であり、マグネシウム合金製高速鉄道車両構体の実用化に向けた大きな一歩となると評価。今後はさらに長尺の車両構体の試作や性能評価試験を進め、新幹線などの高速鉄道車両へのマグネシウム合金の本格適用を目指し、車両の軽量化、高速化、省エネ化に貢献することを目指す方針だ。
4つの要素技術で試作に成功
今回試作に成功した構体は、合金開発・素形材開発、加工・接合技術、防食技術、そして部分構体作作製・評価といった4つの要素技術により実現した。
難燃性を向上させたマグネシウム合金の開発に際しては、強度や延性の確保がキーポイントとなった。そこで難燃性に加え、現在利用されているアルミニウム合金と同等の強度・延性を持つマグネシウム合金と素形材の開発を行い、2017年度までに量産設備サイズでマグネシウム合金の素形材製造に成功。合金は大きく2種類、素形材は4種類を開発を進めた。具体的には、高い生産性を有するマグネシウム合金(アルミニウム合金A6N01を代替)と、高強度と延性のバランスを有するマグネシウム合金(アルミニウム合金A7N01を代替)を開発。高い生産性を有するマグネシウム合金では、押出性に優れ、複雑な中空素形材の押出成形が可能とし、ダブルスキン構造の中空素形材を、構体の屋根部分や側面部分に利用した。一方、高強度と延性のバランスを有するマグネシウム合金では、強度に優れた高強度押出材を構体の底面部分に利用。さらに、高強度圧延材 (薄板)を構体の底面部分に、高強度圧延材(中板・厚板)を構体の底面部分に利用した。
一般にマグネシウム材の難燃性の確保にはカルシウムの添加が有効だが、カルシウムの添加に伴い、粗大な晶出物が形成され、押出速度は低下する。そこでA6N01合金代替の合金開発では、化学成分の適正化と押出前ビレットの微視組織適正化により目標を達成し、ダブルスキン押出材を製造することに成功した。
また、高強度型合金では、シングルスキン押出材や圧延板材を製造するために、化学成分、プロセス条件、熱処理条件等を最適化し、A7N01合金と同等の強度・延性を有する素形材を開発した。
未成熟な加工・接合技術の開発に挑戦
化学的に不安定なMg、防食技術の開発
また、加工・接合技術の開発にも取り組んだ。マグネシウム合金の加工・接合技術は未成熟な分野であり、車両構体接合部の信頼性を確保する上で、技術の確立が不可欠。そこで加工・接合技術開発では総合車両製作所が担当し、摩擦攪拌接合法(FSW)を含む各種接合方法(MIG溶接、TIG溶接等)の基礎試験を今回開発した合金のすべてを対象に実施した。
NEDOによると、アルミニウム合金の接合法と異なる点の抽出、接合強度を基準にした最適な接合条件範囲の確定などの基礎的な接合技術を2016年度までに確立していたとのこと。また、MIG溶接における溶加材については、木ノ本伸線と共同で最適な溶加材の組成を選定したという。
マグネシウムは化学的に不安定で腐食しやすい特性があり、輸送機器のような耐久性が要求される用途では、防食技術の確立は特に重要な技術となっていた。
そこで大日本塗料が担当し、マグネシウム製大型構造物に施工するための常温硬化型塗料や上塗り塗装前の下地処理技術の開発を進め、2017年度までに試作部材へ適用。下地処理についてはミリオン化学と共同で開発した。
大型構造物試作技術の開発
アルミ合金と同等剛性と25%超の軽量化
大型構造物の試作技術を確立すべく、総合車両製作所と川崎重工業が中心となって、合金・素形材、加工・接合技術、防食技術を組み合わせて、これまでに高速車両構体の側構体部分パネルを試作。従来のアルミニウム合金部材と同等の剛性を有する条件で25%以上の軽量化が可能であることを確認した。
そしてマグネシウム合金部材に適した接合技術や組み立て技術の確立を通じて、現行の新幹線の車両構体と同一断面サイズのオールマグネシウム合金製高速鉄道車両部分構体の試作にも成功。大型構造物では、部材や接合部のわずかなひずみが組み立ての過程で致命的になることがあるが、部材の寸法精度向上、つなぎ部構造の工夫、組み立て技術の精緻化などにより、目標を達成することができたとしている。
※写真=試作した高速鉄道車両部分構体の外観写真(提供:NEDO)