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2018.06.15

WING

エアバス、防衛事業で日本市場開拓へ、初のセミナーを日本開催

ジヌー社長兼グループ代表、「互いの理解深めパートナーシップを」

 欧州エアバスが、いよいよ日本における防衛ビジネスに本腰を入れ始めた。去る5月28-29日の二日間の日程で、「エアバス・ディフェンス・デー」と「エアバス・スペース・デー」を開催。昨年は第一回目の「スペース・デー」を開催したが、今回は初めて「ディフェンス・デー」も開催。「ディフェンス・デー」には約200名、「スペース・デー」に約300名が参集するなど、日本の防衛宇宙企業や官公庁・自衛隊関係者が、エアバスとのコラボレーション創出に向けて、高い関心を寄せていることがあらためて浮き彫りとなった。一方、エアバスとしても旅客機事業における成功体験を糧に、防衛宇宙分野でも日本市場開拓を狙う。
 両セミナーを主催したエアバス・ジャパンのステファン・ジヌー社長兼エアバス・グループ日本代表が本紙の取材に応じて、本邦初開催となった「エアバス・ディフェンス・デー」について、「日本からも防衛産業や官側の高官など、影響力の非常に強い方々がご講演下さった。深く感謝申し上げたい」と深謝。「出席者の反応は上々だ。エアバスと日本側が、防衛分野においても互いの理解を深めて、今後の可能性を模索することができたのではないだろうか」と、今後のコラボレーション創出に向けて、確かな手応えを感じたことを明かした。
 ジヌー社長は「我々は防衛分野でも日本企業とのパートナーシップを醸成していきたい。そのためにも、まずは互いの立場を熟知することが最優先だ」とコメント。「製品を販売することに限らず、共同開発の案件を模索していきたい」と話した。
 「開発段階から共同案件を創出することで、私たち(日本とエアバス)はパートナーシップを構築することができる」との認識を示した上で、「エアバスのフィロソフィーは、パートナーシップ。これまで長年培ってきた我々のそうしたフィロソフィーを通じて、日本とも防衛分野のパートナーシップを組みながら共に歩んでいきたい」としている。
 なお、ジヌー社長は引き続き、同様の防衛宇宙分野のセミナーを日本で開催していきたいとの意向を示しているほか、「エアバス・ディフェンス&スペースの担当者が二名体制で活動しているが、エアバス・ジャパンやエアバス・ヘリコプターズ・ジャパンの部隊全員が、この二名をサポートする」と話すなど、エアバス・グループの総力を上げて、日本との協力関係構築を模索していく考えを示した。
 とくに防衛分野については「市場アプローチに時間がかかる」との認識を示しつつ、「具体的に決まった案件などは現段階ではまだ無いものの、可能性を模索して互いのニーズを探りたい。現在でも2-3件は実を結びそうな案件が存在するが、年内に1件でも成立させたい」とし、「前例を創ることがとても重要で、その成功例を生み出すことが次に繋がる」と、日本の防衛市場に食い込んでいくことに自信をのぞかせた。

 日米同盟という巨壁への挑戦
 「我々はFMS調達を求めている訳ではない」

 民間機ビジネスで欧州企業のエアバスが日本市場で存在感を発揮するためには、”米国”という高い壁があったことは言うまでもない。日本市場は民間機ビジネスでも長らく米国製品一辺倒だった。ただ、エアバス陣営による草の根活動の甲斐あってか、航空自由化を機に民間機ビジネスの市場環境が徐々に変化。次々と新しいプレイヤーがエアライン事業に参加し、そこに更にLCC参入という追い風が吹くことによって、エアバス旅客機は一気に日本市場でブレイクを果たす。ついには大手フル・サービス・キャリアも中大型エアバス機の導入に踏み切った。
 そうした環境の変化をもたらすきっかけを作った立役者がジヌー社長だが、そのジヌー社長をもってしても、なお高い壁が”日米同盟”だ。言うまでもなく日米同盟は、まさに日本の安全保障の大きな柱。この強固な同盟は、エアバスの日本市場における防衛ビジネス参入の計り知れない巨大な壁といえよう。
 ジヌー社長も、「日米関係の重要性は、十二分に承知している」とコメント。「だからといって、日本と欧州、ひいては日本とエアバスが協力することができないということには繋がらないだろう」との持論を展開。
 「私達は米国型の協力とは異なり、我々がメインである必要はないと考えている。(共同開発で)日本がプライムとなるプロジェクトのなかに、私たちがサブとして加わることも良い」との見解を示した。その上で、「我々は日本側にいわゆるFMS調達を求めている訳ではなく、あくまでパートナーシップを構築したい」ことを強調した。
 日本の防衛産業関係者に話を聞くと、防衛予算は増加したものの、高額なFMS調達に予算が回り、国内の防衛産業は予算拡大の恩恵がないばかりか、国内調達が減少していると嘆く関係者も少なくない。また、航空自衛隊が導入したF-35は三菱重工がFACOで最終組立を担うも、肝心のシステム関連などで大半がブラックボックスばかりとなっており、国内メーカーは何か問題があっても迅速な対応ができないなど、オペレーション上の問題を指摘する声も聞こえてくる。
 ジヌー社長は「FMS調達は外交・政治的な問題も孕んでいることであろうことから、我々は口を出すことはできない」と前置きした上で、「ただ、日本の産業のメリットを考えれば、当然、FMSではなくて真のパートナーシップをベースとすることが望ましいのではないか」との見解を示した。
 「エアバスは欧州企業としてパートナーシップをベースとした開発がDNAだ。当然、日本とも同様のパートナーシップ形式でタッグを組むことは、ごく自然な流れではないだろうか」と話した。

 高高度滞空型擬似衛星Zephyrなど提案
 日本企業と協力しペイロード検討も

 そうしたなかでエアバスが日本側への製品提案として、高高度滞空型擬似衛星「Zephyr」などを日本市場に提案していることも明かした。「Zephyr」は、ソーラー発電のみで滞空高度20キロメートルという高空から衛星や無人偵察機などでは困難な長時間常時監視・観測を実現する。
 ジヌー社長によれば、「現在では連続して14日間くらい滞空することができる。将来的には更に滞空時間を拡大することができるだろう」としており、「衛星と航空機を埋めることができる、手頃な製品。日本にもそうしたニーズがあるだろう」との認識を示した。ちなみに「Zephyr」は、連続30日以上滞空することができるように開発が進められている。
 「日本では2020年に東京オリンピック・パラリンピック大会が開催されるが、そうした国際的なビッグイベントの開催時など、幅広いエリアを監視することが可能だ。日本企業と協力して、各種ペイロードを搭載することを検討したいということを提案している」ことを明らかにした。
 また「この機体は監視ミッションに限らず、様々なミッション・サービスを提供することができる。例えば、通信を中継することもできるだろうし、過疎地における通信やインターネット接続などの確保にも使うことができる」と話し、監視・観測ミッションに限らず、多方面に展開することができることを強調した。

 日本の将来戦闘機開発、「価値ある提案を」

 日本国内の防衛産業で最も注目されている案件が、航空自衛隊のF-2後継機にあたる将来戦闘機開発だろう。国際共同開発が軸になるとみられるが、防衛装備庁は今年、3回目のRFIをメーカー各社に発したとみられる。
 ジヌー社長は「私たちは提案に向けた準備が整っている」とコメント。「あくまで日本が主導する国際共同開発プログラムであるということを前提に、エアバスとして何を提供することができるのか」を熟慮したものとなることを明かした。
 「最近の流れをみて、日本の将来戦闘機がどのような戦闘機になるのかというところを想像することができるようになってきているが、そのなかに私たちは価値ある提案をすることができる」と、自らの提案に自信をのぞかせた。
 「欧州ではトーネード、ラファール、ユーロファイターなどを開発・製造した。エアバスは戦闘機開発に対する知識や経験を十分に有している。そのため日本の将来戦闘機開発においても、多方面で貢献することができるだろう」と話した。
 ちなみに、ジヌー社長は欧州における将来構想にも言及。「欧州では将来航空戦力運用構想という構想があって、その考え方ではいわゆる戦闘機も存在するが、UAVの群れが同時に展開する。そのなかで戦闘機はコマンド・コントロールの役割を果たす。戦闘機のみならず、様々な機体などがネットワークを介して繋がることになる」とし、「このシステムでは衛星を介した高速データリンクが最も重要な役割を果たすことになり、連携したネットワーク環境のなかで、何倍も戦力を発揮することができるというコンセプト」であることを紹介した。

 サイバー防衛で日本企業に投資も視野

 また、エアバス・ディフェンス&スペースは、サイバーディフェンスにも強い。「大事な話しだと思う。日本企業とも協力することを模索している」ことを明かした。
 その上で、「エアバス・ジャパン内は、優秀なベンチャーやスタートアップに投資をするエアバス・ベンチャーの担当者1名が常駐している。既に昨年、日本の宇宙ベンチャーであるインフォステラ社への7億円の出資を行っているが、今年は日本市場で更に2-3件くらいの案件が生まれるだろう」との見通しを示し、サイバーディフェンス関係で日本企業への投資に踏み切る可能性を示唆した。

 宇宙セミナー、「日本から前向きなプレゼン多数」
 
 一方、今年で二回目の開催となった「スペース・デー」についてジヌー社長は、「昨年を1.5倍ほど上回る集客だった」としながら、「注目度が高く、こちらのセミナーも成功だった」と評価。こちらも「ディフェンス・デー」同様、エアバスと日本が共に何を実現していくことができるのか、ということを模索することが最大のテーマとなっているが、「日本側のプレゼンテーションは、我々との協力に関して、非常に前向きな中身のものだったように思う」と、感想を述べた。
 「つまり我々のプレゼンテーションを聴講しに会場を訪れただけではなく、本格的にエアバスと何を成し遂げることができるのか。あくまでWIN-WIN思考で、互いのベストを持ち込むことによって、共に何かできないかという雰囲気を感じることができた」ことを強調した。
 エアバスと日本は宇宙分野で、既に強い繋がりを築きつつある。例えば、アリアンスペースと三菱重工が、ロケットの打ち上げについて共同で商業衛星の打ち上げサービスを展開。
 さらに、今年は欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)による共同の国際水星探査計画「ベピコロンボ」というビッグプロジェクトが、打ち上がる。この計画に投入する探査機は、エアバスが設計製造したもの。
 今年10月にはフランス領ギアナから、エアバス・グループ傘下のアリアンスペースが提供するアリアン5によって打ち上げられるが、7年の歳月をかけて水星に到達し、2025年から水星を探査する。
 水星到達後、観測目的に合わせた「2つの周回探査機」を放出し、表面・内部の観測を行う「水星表面探査機(MPO)」と、磁場・磁気圏の観測を行う「水星磁気圏探査機(MMO)」)が観測ミッションを展開する。ちなみにJAXAは、日本の得意分野である磁場・磁気圏の観測を主目標とするMMO探査機の開発と水星周回軌道における運用を担当し、ESAが、打ち上げから惑星間空間の巡航、水星周回軌道への投入、MPOの開発と運用を担当する。
 ジヌー社長もこの「ベピコロンボ」計画について、「非常に大胆で、個人的に注目するプロジェクト」と強い関心を示しつつ、日本との協業について、「興味を抱いているのは、とくにテレコミュニケーション、地球観測、軌道サービスなど」とコメントした。
 その上で、「二回目のセミナーを通じて互いの距離がかなり接近した」としており、「防衛分野と同様、宇宙でも1つでも実績をつくりたい。可能性のある案件を実現させていきたい」との考えを明かした。

※写真=エアバス・ジャパン社長兼エアバス・グループ日本代表のステファン・ジヌー氏。民間機やヘリコプターの成功をベースに、防衛宇宙分野における日本市場開拓を目指す