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2018.06.22

WING

新明和、”安定志向”から海外市場狙い”攻め”の姿勢

新規コンポーネント受注など海外メーカーと取引拡大狙う

 新明和工業の深井浩司取締役常務執行役員(航空機事業部長)が本紙の取材に応じて、このほど同社が策定した3カ年の新中期経営計画「Change for Growing, 2020」に基づき、航空機事業について、「これまでの新明和工業がどちらかといえば安定志向であったことに対して、これまで以上にマーケット状況をしっかりと把握しながら、必要な事に積極的に取り組む」との方針を示した。航空機セグメントとしては、同社のシンボルでもある飛行艇の新規受注獲得や民間航空機の国際共同開発における海外市場の更なる取り込みなどを軸に、2020年度の目標値として売上高410億円、営業利益32億円(営業利益率:7.8%)とすることを目指す。
 「残念ながら国内の防衛予算は正面装備、日米安保関係による海外からのFMS調達が強い。国内生産に対する予算がそれほど多く取ることができない。正面装備やFMS調達関連の個々の予算額も高くなっており、US-2型救難飛行艇(以下、飛行艇)調達機数が急に増えるということも難しいだろう」と話す。
 一方で「民間航空機は世界的にマーケットが拡大している」との認識を示し、「事業規模拡大のためにも、市場が大きいところを狙っていきたい。我々がとくに取り組まなければならないことは海外メーカーと協業すること」であることを強調した。
 新明和工業の航空機事業の売上比率をみても、海外向け民間航空機がおよそ7割、国内防衛省向けが3割(2016年度)になるなど、既に海外民間機事業が売上の大きな柱となっていることが分かる。新たに策定した中期計画では深井事業部長のリードの下、海外民間航空機機ビジネスを一層伸ばすべく、強く打って出る構えだ。

 

 海外メーカーと直接取引拡大狙う
 インド含めたアジア中心に進出検討

 

 新明和工業の民間航空機事業は従来、国内大手重工のサプライヤーなどの仕事が中心だった。例えば、787ドリームライナーでは三菱重工に対して主翼スパーを納入してきた実績を有する。これまでの実績が高く評価され、近年は、777Xでボーイング社からTier1(1次下請け)に認定されるなど、「これまで国内顧客との取引がメインだったが、グローバルに展開して更に外に向かっていく」と、これまで以上に海外メーカーとの取引拡大を目指す。
 深井事業部長は「海外サプライヤーやメーカーとの協業は、経験がないため、チャレンジングなことだとは捉えているが、そのための投資、あるいはアライアンスを組むという思想を社員が持って検討し、我々の活動領域の幅を広げていくことに挑戦していく」と、従来の民間航空機関連の事業に、一層の外向き指向を持ち込む方針だ。
 その上で「我々は品質を含めた高付加価値を提供していると自負しているが、価格競争力を含めたお客様に近い場所で事業を展開するメリット、さらにはお客様の販売戦略上重要な地域を把握することで、我々が進出できれば、お客様にとってもメリットに繋がる」と話すなど、海外への拠点展開を含めた外向き指向を打ち出している。
 「インドを含めたアジア地域は巨大なマーケットとしてボーイング、エアバスともに注目していることから、我々としても、具体的な検討を進めていくことが必要」と話した。

 

 エアバス・プログラムの更なる参画も視野

 

 民間航空機事業を強化するためにも、ボーイングのみならず新明和工業は現在もA380やA330、A340の複合材フェアリングを担当しており、これらの仕事はエアバスから直接受注しているもの。「経済産業省においても、日本企業とエアバスの結びつきに積極的だ。我々は、個別に取り組みを進めていたが、国の動きも横目でみながら、助成なども活用していきたい」と話すなど、エアバス関連プログラムへの更なる参画も虎視眈々と狙っている様相だ。

 

 巨大市場の単通路機市場の仕事受注狙う
 大量生産対応でものづくり変革が課題

 

 
 現在、今後さらに成長する市場として最も注目を集めているのが、単通路機だ。同機の新造航空機は今後20年間で3万3530機(日本航空機開発協会の予測)にも達するとみられている巨大な市場だ。ただ、日本の航空機産業全体に言えることとして、この単通路機市場は不得意分野。ボーイング、エアバスに限らず、単通路機の国際共同開発のワークシェアでは、ほとんど入り込むことができていない。
 深井事業部長は、「単通路機市場に参入しなければ、マーケットの伸びについていくことができない」ことに言及。「現在参画しているプログラムでは、月産十数機が最大の生産レートと見込んでいる。一方、単通路機ならば月産50-60機にも達する」との見方を示し、マーケットの伸びをキャッチアップしていくためにも、「更なるものづくりの大きな変革が必要」とコメント。「その大きな変革を如何に実現していくかということが生産技術的な課題と捉え社内で共有している」ことを明かした。
 ただ、「単通路機市場は、ボーイング、エアバスともにサプライヤー・マネジメントが確立しており、既にその市場でサプライヤーとなっているメーカーが存在することから、我々が勝っていくことができるか否かということは、非常にハードルが高いと認識している」とのコメント。「最初はセカンド・ソースとして、入っていければ」とし、「いきなり月産50-60機というところは無理でも、一部でも手掛けることができれば、そのなかで我々のクオリティ、プロダクション・マネージメントの内容を見ていただき、チャンスは広がる」との見方を示した。
 「とくにエアバスは、アジア地域におけるメジャー・サプライヤーを調査していると考えており、将来的にはそういう位置付けに我々としてもありたい」と、意欲を示した。
 新明和工業が生産レートの高い単通路機の国際共同開発でワークシェアを獲得していくためには、生産技術はもちろん、「フレキシブルな生産管理をするような体制が必要」だという。「月産20機以上を扱うような工場であれば、生産の山谷はほとんどないだろう。例え、補用品対応があったとしても、大きな波のなかの一部でしかない」との認識を示しながら、「一方で残念ながら甲南工場では、飛行艇は2、3年に一度しか扱わない部品があることや、P-1、C-2などでも年産5-7機程度など、小ロット生産の防衛省機向け製品も混在して一つの工場で扱っている」とし、「今現在、こうした小ロット生産部品とボーイング向けの部品が混在するというだけでも苦労している。とくにUS-2は数年に1回以下でしか生産しないが、構造物が多く、たまに来るその物量も多く、各プロセスを平準化しながら、ボトルネックを作らないように管理をすることに苦労している」ことを明かした。
 「さらに月産50-60機という製品が加わって、一日に2-3機デリバリーするようになれば、小ロット生産部品が入って来た際に対応しなければならない。果たして甲南工場で混在するかたちで生産することがいいのか、あるいは分けた方がいいのか議論をしなければならない」とし、「生産拠点や生産管理を分けて保有するのか、単通路の方が伸びて独立ラインとしても十分にペイすることができるかなど、将来予想をしなければ、ラインを独立させることはできない。判断が難しいものとなるだろう」と話した。「そうした検討がある程度決定してくれば、(大量生産への対応で)無人化・省人化を進めていくことが求められるだろう」としている。

 


 省人化に取り組んだ播磨分工場で777X生産
 「スマートファクトリー」のパイロット・プラントに

 

 新明和工業は777Xプログラム対応で播磨分工場を立ち上げた。深井事業部長は「この工場はフルオートではないが、かなり省人化が進んだ」とコメント。2016年10月に稼働を開始した同工場では、アルミ合金部品を取り扱う。「播磨分工場は777Xの量産に問題なく対応できる体制を整えることが最優先事項。安定化してくると、次なるステップへと進むことができる」との認識を示した。
 その播磨分工場の現況について、「宝塚分工場が組立工場として新たに立ち上がり、従業員自身が改善活動など、自発的に様々な取り組みを進めているように、播磨分工場でも新たにラインを立ち上げて、従業員自らが様々な取り組みを進めている。その意味で甲南工場とは異なるカラーや文化が醸成されているのではないだろうか」と、早くも独自の工場文化が花開きつつあることを明かした。
 その上で、「プロセス毎にチームを結成して、競争しあうなど、改善やトラブル対応など、楽しみながら取り組むことができている様相だ。そうした状況をみると、まだまだ伸び代がある工場なのだろう」とし、「現実のプロダクションレートからみると、期待したところにまだ達していないところが少しある。今後、取り組みを進めてくれるだろう。最初のトラブルがある程度クリアになれば、777Xの生産レートが上昇しても、十分に対応可能な工場となると思う」と、播磨分工場に対する期待値は高い。
 ちなみに、同工場では表面処理を自動化することを達成。「表面処理では液体が入っている槽がいくつかあって、一定時間浸し、次の槽に付けるという作業を繰り返す。甲南工場ではクレーンで移動しているが、播磨分工場では上にレールを設置して自動化している」ことを明かした。「(自動化したことは)省人という観点もあるが、自動制御をしているため時間などのぶれがなく、品質も安定化する」との認識を示した。さらに、「表面処理が完了すれば、次の工程は塗装作業。塗装作業もロボットで自動化することに成功した」としている。
 「機械加工もロボットを導入しているが、機械加工から表面処理、表面処理から塗装というように、マテハン部分は依然として人間による作業だ。機械加工の建屋と表面処理の建屋が分かれていて、運搬時、外に一度出なければならず、ここが自動化すればもっと楽になるのだが難しい」との見方を示した。
 生まれたばかりの播磨分工場ではあるが、既に更なる進化を見据えた取り組みもスタートしつつある。
 「未だ実現には至っていないが、弊社のIT関連の部署および播磨分工場のスタッフと議論を進めて、IoTなどを採り入れていかなければならない」との認識を示す。「甲南工場は国内・海外が混在し、システムが複雑になっており、IoTなどの取り組みを進めることが容易ではないが、播磨分工場をスマート工場のモデルケースとすべく、様々なIoT技術を導入したり、トライアルを実施したり、ビッグデータを活用して生産ができないか試行していきたい」と、IoTといった新技術を導入した新明和工業”スマートファクトリー”のパイロット・プラントとしていくことを目指す方針で、策定した新中期経営計画期間中には「取りかかりたい」としている。

 

 独自進化を続ける宝塚分工場
 組立作業更なる効率化へ新技術活用

 

 播磨分工場がスマートファクトリーのパイロット・プラントであることと同様、宝塚分工場も、そうした取り組みで負けていない。
 「現在はタブレット端末を活用し、各自の作業時間をモニタリングして、作業状況を色分けすることで生産進捗状況を管理している。宝塚分工場のアイデアで取り組みが進められており、私は彼らの取り組みを高く評価している」とした上で、「次なる取り組みとしては、モニタリングで蓄積したデータ、例えば、作業に遅延が発生した際に、どのようにアクションを起こすかなど、コンピュータで対応することができるのではないかと考えている」ことを明かした。
 「宝塚分工場は組立作業。一方の播磨分工場は部品製造作業だ。両工場で作業内容が異なり、管理する対象が異なる。宝塚分工場の組立作業は管理する対象が人。将来的には組立作業をロボット化することになるだろうが、今は人が中心。人の時間を管理して、ズレが生じた場合にどうするか。あるいは個々のスタッフの能力が今の時間割に加味されているのかなど、常に状況をフィードバックする仕組みを構築したい」とし、人の作業管理を自動化することを視野に入れている様相だ。
 一方で「播磨分工場は管理対象が設備。設備を如何に使い切って、そこで発生している不具合を洗い出すかが重要」と話す。
 また、「システムメーカーと話していると、IoTのなかでモノづくりを進めていると、モノの出来映えを予測することができるという。担当者、作業時の気温や水温、さらには湿度、また、どのような作業を実施したのかなどのビッグデータを取り揃えることで、検査に要する人員を半数以上減らすことが期待できそうだ」という。
 「それを航空機部品製造で実施して良いのかということは現段階では分からないが、実績を積み上げていけば、可能性としてはゼロではない。生産管理ということだけではなくて、品質管理もビッグデータを活用することができるかもしれない」と話した。

 

 
 グローバル機で前縁表面仕上げを自動化

 

 787型機の月産レート拡大、そして777X生産体制を整えたことによって、大型投資はとりあえず一段落。深井事業部長も「設備面では準備は完了した」と胸を撫で下ろす。
 民間航空機事業に対する大型投資を完了した新明和工業だが、更なる生産効率化に向けて、新たに投資することを決めたのは、ボンバルディアのグローバル7000/8000プログラムだ。
 「翼の前縁部分の表面仕上げ作業を現在は人が作業を実施しているが、全てロボットで自動化する」としており、そのロボットは「恐らく今秋には稼働することになるだろう」との見方を示した。これにより、「人の関与が抑えられる」としている。
 「工場は省人化していくことが潮流。既に仕上がったプロセスは可能な限り自動化していきたい。省人化した人員は、新しい事にチャンレンジすることに振り分けていきたい」としている。

 

 民間ビジネス機整備事業に勝機あり

 

 新明和工業が発表した新中期経営計画には、航空機セグメントで整備事業に参入することを盛り込んだ。新明和工業は現在、海上自衛隊のUS-2型救難飛行艇とU-36A型訓練支援機、航空自衛隊のU-4多用途支援機の整備を担当している。
 深井事業部長は新中期計画に盛り込んだ整備事業への参入について、「そのきっかけと位置付けているのは防衛省機。契約を獲得することができるか現段階で定かではないが、航空自衛隊が新たに導入する飛行点検機(セスナ・サイテーション・ラティテュード)の整備案件があることから、手を上げていきたい」と話す。
 「新明和工業はビジネスジェットのカテゴリーでは整備事業の経験を有している。防衛省の航空機整備は自衛隊における人のバランスからすれば、民間を活用していく方向になるだろう。そこに活路を見出していきたい」と話す。
防衛省機で幅を広げながら、今後民間ビジネスジェットの整備事業にチャンスを見出すことができるだろうとの見通しを示した。
 「関西の空港にもかなりの数のビジネスジェットが飛来しており、関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港が関西エアポートによって3空港一体で運営されるようになってきたため、各空港の性格が明確になっていくのではないか」との考えを明かした。
 「整備は色々な業種の中でも、安定して仕事をすることができる分野。これまで防衛省機のビジネスジェットでは二機種に限られていたが、扱うことができる機種をもう少し広げていきたい」としている。

 

 US-2飛行艇、製造コストダウンは困難
 単年度契約で初度費かけられず

 

 新明和工業が世界に誇る製品の代表的なものといえば、やはりUS-2だろう。世界に飛行艇を製造するメーカーは数あれども、US-2は外洋における離着水性能など、随所に秀でている。
 US-2製造の本拠地である甲南工場では現在、製造番号ベースで7-8号機(8号機は補正予算分)の生産が行われているところ。
 そうしたなかUSー2のコストダウンについては、「正直に言えば難しい。ほとんど初度費をかけることができないためだ」と、同機の製造のコストダウンを図ることは困難との見方を示した。
 そもそも一番の悩みの種は、「何機製造するのかということが分からないということが一番の心配の種」だといえよう。
 必要な機数と時期が確定すれば、新明和工業としても「必要製造機数を最も効率的に製造するための生産計画を立案して、必要なところに投資をすることができる。しかし、次にいつ要求があるのか分からないのであれば、防衛省に初度費をかけて良いと言って頂かない限り、初度費をかけることはできない」と説明。
 「我々としても効率的に製造しなければならないと考えていることから、組立方法を工夫するなどの取り組みを進めている。しかし、劇的にコストダウンを図ることができるようなレベルではない」としている。
 「当社からは、一年ずれても構わないので、少なくとも長期契約を防衛省・自衛隊に要求している。長期計画があれば、我々もサプライヤーとコストダウンなどについて、調整を図ることができるだろう。単年度で毎年の契約になると、当社のみならずサプライヤーも厳しいだろう」との見解を示した。

 


 整備、チーミング工夫で作業量減

 

 
 一方、整備作業についてはコストダウンへの取り組みを進めている。
 「これまで定期修理に入っている機体に対して、分解してみないとコストがどのくらい発生するのか分からないという問題があった」とのこと。そうしたなか「現在は作業の前後組み替えなど、チーミングの工夫に着手し、作業量を減らす取り組みを開始している」ことを明かした。そして「おおよそ4-5年計画で、作業量全体を落としていく。作業量としてはチャレンジ目標として2-3割落とすことを目指している」ことを明らかにした。

 

 インド輸出を目指すUS-2
 現地企業と覚書締結

 

 US-2といえば、最も注目されていることの一つがインドへの輸出が実現するか否かということだろう。今年4月には、インド企業のマヒンドラ・ディフェンスとの間で、仮にUS-2をインドに輸出することが決定した場合に、どのようなことが互いに実施することができるのか検討していく内容の覚書を締結した。
 「我々メーカーは、機体を製造・納入してから、サービスを提供することがミッション。インドでUS-2を運用することとなった場合、我々が新たに土地を購入して整備拠点を整備するということは防衛産業であることからもハードルが高い」との見方を示し、「インド企業でそういう能力を有するところと組むことができないかを検討。その候補としてマヒンドラ・ディフェンスがあった」と説明した。
 仮にUS-2の整備をマヒンドラ・ディフェンスが担当するとして、パーツ製造などを担う可能性があるか、という観点について、「その可能性はある」とコメント。「どのようなところを担当することができるのか、あるいは効率的なのか、ということをこれから協議していく」ことを明かした。
 その上で、「少なくともオフセットの義務、インドにお金を落とさなければならないのは30%」とし、「クルートレーニングなどソフト面を含めてのオフセットも検討したい」とコメント。
 「大前提として政府間協議でUS-2の移転が実現するということ。US-2輸出の話しが浮上してから既に6-7年の歳月が経過しており、民間側としては、いざと言う時のために準備を進めているというアピールの観点もある」としている。

 


 次期飛行艇開発を如何に考えるか

 

 US-2の開発が完了して、海上自衛隊の運用により、随所でその活躍を耳にする機会が多い。そうしたなかで次期飛行艇はどのようなものになるのか、気になるところだ。
 ただ、深井事業部長は「正直なところ、US-3ということの概念がまだ社内では固まっていない」とコメント。それというのも、「防衛省が考えている捜索救難ミッションという観点からすると、US-2がかなり完成形に近いと言うことができる」との認識を示した。「US-2を上回る性能が必要なのかという議論が自衛隊内にもあるようだ」としている。
 「我々としても、インド案件のみならず、フィリピンやインドネシアなどの島国も、インドが購入すれば欲しいということもあるかもしれない。その意味でも、US-2の製造基盤を継続したい」とし、「8号機を現在製造しているが、9号機以降も継続して購入していただき、一部が海外に輸出することができれば、US-2の全体母数が増加するので、在庫の確保や、整備もしやすくなる」とコメント。「新規開発を検討することと並行して、まずはここ10年、20年先までのUS-2の安定生産を希望している」と話した。その上で、「US-2を改良することで、より付加価値を高め、より良いものに作り上げていく方向があるのではないだろうか」と話した。

 

 US-2の改良に向けてBLC無しにSTOL性能確保
 波状況をリアルタイムにデジタル化も視野

 

 US-2はBLC(境界層制御)と呼ばれる動力式高揚力装置を搭載している。現在、新明和工業ではこのBLC装置無しにSTOL性能を確保することができないか、US-2改良の検討課題の一つとして研究開発を進めているという。
 「適用することができるか否か、現段階では分からない」とし、「もし仮に実現することができれば、BLC装置とコンプレッサーを外すことだけでも、数トンの軽量化を図ることができ、コストも下げることができるだろう」としている。
 さらに、「海面情報の可視化・デジタル化にも取組みたい」ともコメント。
 「パイロットも着水する際に、非常にワークロードが小さくなる。着水点を決めれば、その地点の海面の状況をデジタル化し、パイロットはそのポイントに向かって行ける。この装置を開発することができれば、早朝や夜間でも波の状況を把握することができるようになるため、US-2の活動時間が広がり、運用の幅が相当広がることが期待できる」と話した。

 

 消防飛行艇、「基礎情報は揃う」
 世界市場は150機、欧州が主戦場

 

 救難飛行艇のUS-2の派生として、消防飛行艇などへの転用も検討が進められているところ。新明和工業も今年2月、甲南工場においてUS-2に水タンクを取り付けた放水実験を実施するなど、国産の消防飛行艇開発に意欲をみせている。
 「これまで実施した研究で、基礎的な情報はほぼ入手した。あとは実設計した際に、仕様を明確にしていく。運用する部隊があって、そこから具体的なリクエストがあれば基本設計に入ることができるところまで準備はできている」ことを明かした。
 「消防飛行艇のマーケットをみてみると、世界中で運用中の機体は150機ほど」との見方を示しており、「主に欧州の地中海沿岸とカナダ」が主戦場になるとしている。その他、東南アジアで計3-4機ほどが運用中だ。
 「民間機のようにローンチカスタマーができるというよりは、おそらく共同開発のようになるのではないか」とし、インドネシア、インドなどの会社と共同で開発することや、欧州で100機くらいが運用されているため、エアバスなどと共同開発することなどが実現すれば良いのだが、残念ながら具体化の可能性はまだ低い」との見方を示した。

 


 社内の開発設計基盤を途切れさせるな!
 社内で若手中心にVTOL研究

 

 深井事業部長が話すように、US-2の次なる飛行艇の開発ではなく、US-2改へと進むのであれば、懸念されるのが新明和工業の航空機開発・設計基盤への影響だ。三菱重工業でさえ、国産旅客機MRJの開発に喘いでいることから、一度途切れた開発・設計基盤を取り戻すことの労力は計り知れない。
 深井事業部長も「新規開発を止めてしまうと、航空機設計技術が廃れてしまう。そこには危機感を抱いている」と話す。
 「航空機事業部では、飛行艇に拘らず研究を進めている。あくまで社内研究として若手を中心に約3年間、VTOL機の研究を進め、模型を製作して飛ばした」ことを明かした。
 「私が若手に指示したことは、飛行機の設計をゼロからやって欲しいということ。自分たちで目標を決定し、概念設計、模型制作、改善ポイントを発見して、それをフィードバックするなど、飛行機の設計のルーティーンを回し、将来、新しい航空機の製造に取り組むにあたっての体力作りのために取り組んでもらった」と、社内における航空機開発・設計基盤の喪失を防ぐために実施したことを明かした。
 「現在では、自動制御で飛行させて研究に使うことができないか、あるいは有人機として使うことができないかなど、可能性を模索しているところ」とし、「ビジネスになるかどうか、ということはもう少し検討したい」と、当初は教育目的で実施したことが、5年、10年先の新たな事業へと繋がる可能性を示唆した。
 「この中経計期間で、事業基盤を固め、いかに基本を築くかが勝負どころ。既存製品の収益を向上させるのと並行して、新しい事業についても見極め、挑戦していきたい。そうすれば、今は「夢」として語った幾つかの項目は、現実的なビジネスプランとして成長する可能性があるだろう」と話した。