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2020.08.07

WING

コロナ禍で米スコープクローズは緩和されるか?

経済後退で過去に緩和、リージョナル機戦略に影響か

 コロナ禍のなか世界の航空会社各社に対して出口の見えない危機が襲いかかっている。既にいくつもの航空会社が耐え切れず、各地で経営破たんが続いている。航空会社は思うように運航することすらできず、コロナ危機前には世界的なパイロット不足が声高に叫ばれてきたものの、いまやパイロットは余剰となっていることが現実だ。そうしたなか注目されることの一つが、米国の航空会社とパイロット組合の間に結ばれた労使協定「スコープ・クローズ」の動向だ。
 このスコープ・クローズは大手航空会社がコスト削減のために、地域航空路線をリージョナル航空会社に運航委託する際、委託運航することが可能なリージョナルジェット機に制限を設けるもの。主として座席数、運航機数、最大離陸重量といった3つの制限を課していることが特徴だ。
 米国には大手航空会社傘下の地域航空会社のほか、スカイウェスト、メサ、あるいはトランスステーツなどといった複数の独立系地域航空会社が存在。こうした独立系航空会社も、大手航空会社と契約を結ぶことで、大手ブランドで米国地域路線の運航を担っている。
 三菱航空機やエンブラエルといったリージョナルジェット機開発メーカーにとって、主戦場である米国市場のスコープ・クローズは、製品戦略を左右するもの。
 例えば、エンブラエルはスコープ・クローズ緩和の可能性があるとみるや否やE175-E2の納入スケジュールを、当初予定していた2020年から1年後ろだおしした2021年に変更(※現在は2023年に変更)。一方、三菱航空機は昨年、スペースジェットにブランドをリニューアルし、そのなかでスコープ・クローズをクリアすることができるM100のフィージビリティースターディを開始した。
 去る8月4日、日本航空協会主催のウェブセミナー「COVID-19が航空に与える影響と今後を考える」のなかで、パネルディスカッションを前に講演した三菱航空機営業部マーケティンググループリーダーの福原裕悟氏は、過去に2001年から2013年にかけてスコープ・クローズが段階的に緩和されてきた歴史的な経緯を説明。当時、米国航空会社は9.11同時多発テロの発生やリーマン・ショックなどに見まわれ、財政的に苦しい、あるいは利益率が低水準な時代だったとし、「スコープ・クローズを緩和して、リージョナル機の運航を従来以上にアウトソースすることでコスト低減し、経営を再建することが背景にあった」と分析した。一方、景気が回復してきた「2014年以降、スコープクローズは緩和されていない」という。
 現在、米国航空会社をコロナ危機が直撃しており、福原氏も「今後のスコープ・クローズの緩和にどう影響するのかということについて、注視することが必要」と話し、その動向をモニターしていくことに言及。「このスコープ・クローズの行く末が、弊社の製品戦略にも非常に大きく影響すると考えている」と話した。
 ただ、三菱航空機としては本紙の取材に対して、「スコープ・クローズの緩和については決定的な情報はなく、あくまでも事業環境の一つとして注視しているもの」と回答。「当社としては、・・・・・・・

※写真=コロナ禍にあって運航便数が激減し、エアラインの経営は悪化している。パイロット組合の力も相対的に弱くなっており、米国のスコープ・クローズ緩和の動向が注目される。緩和へと旗が振られれば、リージョナル機メーカーなどの製品戦略に影響する可能性も。写真はスペースジェット(提供:三菱航空機)