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前原弘昭航空総隊司令官、全体一丸で防空を果たす
2万7000名の大組織、時代に応じて変わっていく面も
航空自衛隊航空総隊司令部が横田基地に移転して既に6年が経過した。在日米軍司令部および米空軍第5空軍司令部と向かい合うかたちで新設された司令部庁舎が周辺の米軍施設とも馴染んで、日米共同が隣人の様に自然な形で行われているのを象徴しているように感じられた。
航空総隊司令部(横田)を訪ね、航空総隊司令官を務める前原弘昭空将に、防空、弾道ミサイル防衛、統合運用、日米共同などについて聞いた。
前原空将は航空幕僚監部監理監察官から統合幕僚監部運用部長を経て、航空総隊副司令官に就任し、現職に至っている。航空総隊司令官として着任時に「全体一丸」という要望事項を掲げた。「航空総隊は約2万7000名の大組織で、かつ部隊が全国に散在していることから、一丸となることは容易ではありません。歴代の航空総隊司令官が槍の穂先、戦う組織として、精強化に尽力し、重視されて来た伝統を受け継いできましたが、航空自衛隊は時代に応じてそのありようが変わっているのも事実」と語る。
福江広明前航空総隊司令官のもとで、1年9ヵ月航空総隊副司令官を務め、「航空総隊の運営を理解した上で航空総隊司令官に就任したことは、ある意味で幸いだった」と語る。防空などの航空作戦については副司令官は文字どおり司令官を補佐し、代わりを務めるところもある。
「全体一丸」の要望を出した上で、前原司令官は、努めて部隊視察を行っているが、それは部隊の実情を知るためである。パイロット出身で航空団での勤務経験も多いことから、その実情はある程度判っている。しかし、レーダー・サイト、ミサイル・サイトといった分屯基地の勤務経験がないことから、これらの視察に、より力を入れている。「各サイトは離島や岬、山の上など不便な場所にあり、150名から200名という小規模な部隊で、若い隊員たちが、24時間365日昼夜を問わず頑張っており、その生活の実態に触れることができたことは、大変有意義だった」と語る。航空自衛隊と言えば都会的な印象を受けるが、陸上自衛隊と比較し不便な場所の部隊が多いのが実状だ。特に近年、女性隊員が7%以上を占めるようになり、町が遠く買い物をする店や美容院が近くにないなどの声を聞き、女性隊員を受け入れる上でまだまだ課題が多い。
航空総隊が計画し、各航空方面隊が実施する態勢へ
防空については、昨年7月より南西航空方面隊が発足し、4個航空方面隊編成となったが、各航空方面隊と航空総隊司令部との関係について「リジッドなものではなく、作戦運用のやり方はここ数年変化している」と語る(近年の周辺空域での中国、ロシアの航空活動の活発化、活動範囲の拡大などもあるのだろう)。方面隊単独で対処が難しい様相となり、他の方面から応援するなど航空総隊全体として対処する態勢を構築する必要があるとのことだ。「セントラライズド・プランニングとディセントラライズド・エグゼキューションという英語が端的な表現ですが、計画は全て航空総隊で策定し、実行は各航空方面隊が担う」と説明する。航空総隊が運用全体を実施するというのは、実は実状にそぐわないということだ。天候、気象を始め現地の状況は航空方面隊のほうが把握しやすく、実行は航空方面隊に任せることが、理にかなっているということだろう。
明日を考える航空総隊司令部
複数航空方面隊の連携等研究
航空総隊司令部の幕僚達に「明日以降のことを考えるのが航空総隊だ」と意識の持ち方、ベクトルを合わせるよう指導しているという。AWACS(早期警戒管制機)など数に限りのあるアセットの使い方など航空総隊司令部が明確に方針を示し、それに基づき各航空方面隊が戦うという姿が、「全体一丸」だという。一体となって機能しなければ十分な任務を遂行しうる組織たりえないということだ。
航空総隊司令官自身はその核心であることから、「もの言う司令官でなければならない」とも語る。特に各航空方面隊司令官とは月に1度はビデオテレビ会議で意見交換し、意図を伝え、航空総隊副司令官は週に1度ビデオテレビ会議を行っているという。方針徹底のため、4人の航空方面隊司令官と一同に会することが重要だが、直接顔を合わせるのは、せいぜい四半期に1回程度である。このため、ビデオテレビ会議を活用して方針徹底を図っている。
中国の活動拡大、太平洋側の警戒監視も強化を
29年度の緊急発進回数は28年度よりも減少したとはいえ、中国機の活発な活動は継続しており、また、重視すべき事案は減少していないというのが前原司令官の認識だ。中国機が宮古島と沖縄本島の間を通って太平洋に進出する頻度は、2016年に5件、2017年に18件、2018年は5月25日時点で既に7件と着実に増加しており、中国機の活動領域が広がっている。さらに「一部のメディアが報じているとおり中国が空母を4隻配備するようになる10年後、20年後には太平洋側での航空活動が一層活発になると予想される」と指摘する。「太平洋側の警戒監視を、よりしっかり行う必要性を感じている」と語る。南の方向に警戒監視能力を強化する防衛力整備が必要ということになる。
弾道ミサイル防衛は各アセットの強化進む
新型レーダー、ミサイルの導入、JADGE改修も
北朝鮮の弾道ミサイル発射、核実験はハイペースで繰り返されてきたが、昨年の11月以降はなりを潜めている。それまでの頻度と発射パターンやいろいろな飛翔体の発射などは大きな脅威となった。このため、弾道ミサイル防衛の強化が進められようとしている。弾道ミサイル防衛はどうしても迎撃ミサイルが注目されがちだが、警戒監視アセット、指揮統制(C2:Command and Control)アセットも非常に重要であると前原司令官は指摘した。そして、非常に高度でセントラライズなシステムにより、平時の破壊措置として弾道ミサイル防衛を実施できるようになっているとした。何を守るのかを、中央から指揮できる精緻な運用形態だともいう。平素の破壊措置として、防衛大臣の命令に従い迎撃指示を出すのが航空総隊司令官である。
警戒監視アセットについてはレーダーの改修が進んでおり、FPS-5、FPS-3改良型に続いてFPS-7をBMDにも活用するための改修もまもなく実用化の見通しという。迎撃ミサイルは今後、イージス艦にスタンダードミサイル3ブロック2Aが配備されると射撃範囲が拡大する。また、ペトリオットはPAC-3MSEという防護範囲拡大型ミサイルが導入される。指揮統制(C2)アセットはJADGEがメインだが、非常に重要であり、新しいアセットが加わる都度改修がなされているという。
ステルス機対応、F-35Aの能力把握が必要
F-35A経験者を幕僚に加え、能力発揮の方策検討
現在、周辺国のステルス機開発が進んでいるのをにらみ、空自もF-35Aを導入した。前原司令官は米空軍から「F-35Aに搭乗した経験のあるパイロットを司令部幕僚に加える必要がある」とアドバイスされたという。F-35Aの能力を知らなければ使いこなせないということで、それだけ能力が高く、作戦の様相を変えるゲームチェンジャーとなりうる装備だということだろう。司令官は資料等によりF-35Aの能力を把握しているものの搭乗経験がないことから、今後、司令部幕僚として性能確認などに当たっているパイロットを加える必要は感じているという。30年5月に三沢に米国から新たに5機のF-35Aが到着し、態勢を整えつつ、「要員養成をしながら、どのような運用をするのかを具体的につくりあげていく時期に来ているのは確かである」と語る。
米海兵隊のF-35Bと空自のF-35Aとの共同訓練も行われている。本当のステルス機はレーダーにどのように映るのかも確認していく必要もある。ステルスとアンチステルスはいたちごっこの関係にあり、空対空ミサイルの長射程化など別の観点からのステルス対応を図っていく動きにも注目しているという。
横田移転6年で日米連携急速に強まる
担当クラスも相手方と緊密連携可能に
平成24(2012)年3月に航空総隊司令部が横田基地に移転して6年が経過したが、前原司令官は「この6年間でここまで絆が強くなるとは予想していなかった。アメリカ側も同じように感じているだろう」と述べる。航空総隊司令部が府中基地にあったころ、防衛部長を務めていた前原司令官は、横田基地の第5空軍司令部の防衛部長と主に電話により調整を行っていたという。それが、「すぐ隣接している現在は、担当クラスまで容易にカウンターパートと行き来でき、連携が非常に密に行えるようになってきていると思う」と語る。いろいろなレベルでの密接な交流、連携により絆が強まったということだろう。
統合運用は運用テンポの相違認識が重要
陸上総隊の発足で陸自との連携強化に期待
陸上自衛隊、海上自衛隊との連携、統合運用については、前原司令官は統合幕僚監部運用部長として直接その任にあっただけに、統合の難しさもよく認識している。「陸海空自衛隊それぞれの特性があり、単純に一緒にすればうまくゆくというものではありません。作戦のテンポが違うことをよく知らねばならない」と統合運用の難しさを述べた。その中で、今年3月末に陸上総隊司令部が新編された。今までは陸自全体との調整を行う場合、5人の方面総監とそれぞれ行う必要があった。5人同時に会うことは無理だろうし、調整が複雑になる。陸上総隊ができたことで、陸上総隊司令官がカウンターパートとなり、より円滑な連携が可能となる。「新しい時代になると感じている。小林茂陸上総隊司令官、海自の山下万喜自衛艦隊司令官は防大の同期であり、3人で連携し、陸自との連携も部隊レベルでの運用研究などやっていけたらよいと思う」と期待を込めた。
※写真=前原弘昭航空総隊司令官