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2020.08.17

WING

三菱重工航空エンジン、コロナ影響で今年度売上「半減」

昨年度売上1000億円達成も右肩上がりの成長に急ブレーキ

 三菱重工航空エンジンが2014年に発足して以降、まさに右肩上がりの成長を遂げてきた。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の危機が世界経済に襲いかかり、航空業界は打撃をもっとも大きく受ける産業の一つとなっており、同社の成長にも急ブレーキがかかってしまった。
 本紙の取材に応じた三菱重工航空エンジンの島内克幸社長は「昨年度、新会計基準で売上高1000億円を超えることに成功した」ことを明かしつつ、一方で今年度は「昨年度比ベースで売上は半減する」として、売上が大幅に落ち込む見通しを示した。
 「三菱重工全体でみても、我々の事業は売上の落ち込みが最も大きい」と話し、新型コロナ危機の影響を如実に受けている状況で、とりわけ「航空会社の飛行時間あたりに入ってくる、いわゆるサブスクリプションの様な形で得られる収入部分と、スペアパーツ販売による収入落ち込みのインパクトが大きい」との認識を示した。
 もちろん、新製部品の生産レートの低下も激しい。島内社長によれば、生産量が最も大きなTrentのケースでは、1ヵ月あたりの生産量が最大7割減少する。年度ベースでみても約6割減と、大幅な減産になってしまう見通しだ。
 さらに、同じくTrentのブレードは、最も大きな影響を受ける月には約7割減、年度でみても5割減と予測。Trent燃焼器は最大で1ヵ月あたり約5割減、年度ベースでみると約4割減少する。
 また、旺盛な需要に沸いていたA320neo搭載用エンジンであるPW1100G-JMエンジンの燃焼器の場合、直近では生産量が約5割減少。年度ベースでみると約2割減少する見通しにあるなど、このプログラムへの影響も小さなものではない。ただ一方で同エンジンに関しては、「燃焼器の補用部品が結構出荷されており、他のプログラムと比較すれば、生産量の減少幅は小幅なものに留まっている」ともコメントした。
 全体としては「これまでまさにフルレートで製造してきたが、しばらくは抱えた完成品在庫を消化するために一時的に生産量を抑えなければならない」とし、三菱重工航空エンジンにとって、かつてない大幅な減産に踏み切らざるを得ない事情を明かした。
 
 エンジン需要回復、単通路機は2023年予測
 広胴機は早くて24年、26年でも回復しない可能性も

 
 来年度以降の需要回復の見通しについて島内社長は、「現時点で予測することは難しい」としながらも、「いずれにしろ旅客需要の回復よりは、エンジンの新製需要の回復は遅れるだろう」とし、「航空会社の財政状態が大きく傷ついているなか、新たな機材を購入する財務的な余力がない。そうなれば自ずと新製エンジンの取得が遅れることになるため、旅客需要よりも遅れて回復するだろう」と分析した。
 「単通路機のA320neoに搭載するPW1100G-JMエンジンの回復が、旅客需要の回復よりもやや遅れる。広胴機に搭載するエンジンの需要は、PW1100G-JMエンジン需要よりもさらに遅れて回復することになるだろう」と指摘し、「単通路機に搭載するPW1100G‐JM需要は早ければ2023年には回復するかもしれないが、回復が遅くなるケースでは2026年くらいにまでずれ込む可能性がある」とした。
 その一方で「広胴機に至っては、かなりこれから需要が冷え込んでいくのではないだろうか」と不安を口にし、「その需要の回復は早くても2024年、回復が遅れるワーストシナリオのケースでは2026年でも回復していないかもしれない」と話し、とりわけ広胴機需要がいつ回復してくるのか、今後の見通しがかなり厳しい状況にあるとした。

 緊急対策は3本柱
 内製化とMRO事業拡大など

 今年度の売上の落ち込みはもとより、航空業界の先行きに不透明感が漂っていることから、三菱重工航空エンジンとしては、緊急対策に乗り出す。(1)外部流出費用の削減・先送りと、(2)内外作のバランス補正、そして(3)MRO事業拡大にリソース活用という3本柱だ。
 このうち外部流出費用の削減・先送りでは、「コロナ禍前に手配したリードタイムの長い素材など、現状の減産計画にあわせて納期の先送りなどに取り組んだ」とし、可能な限り在庫を増やさない取り組みを加速した。
 また、内外作のバランス補正では、これまでは増産基調にあったことからかなり多くのアウトソースを行っていたが、コロナ危機による減産によって「社内リソースにだいぶ余裕が出てくるということ、それから長崎の新工場の立ち上げということもあって、内製力を強化していくことにした」ことを明かした。
 新たに内製化するのは、「ブレード、ケースなどの部品について、内製取り込みを図ることを検討している」としており、「国内のサプライヤー・パートナーに委託している部品を内製化するつもりはない」ことに言及。内製化する多くは、現在、海外サプライヤーに発注しているところであることを明かした。「例えば、Trentのケースなどは海外に委託していたが、これを国内に取り込もうとしている」として、名誘で生産することを検討していることに触れた。
 ちなみにPW1100G-JMエンジンでは、ケースの生産の増産部分を内製化する。大幅な減産が見込まれているとはいえ、基本的にPW1100G-JMエンジンの生産量はかなり多い。同エンジンのケース部分はこれまで海外メーカーに対する委託と、国内パートナーへの委託で生産しており、内製していなかった。ただ、同エンジンのケース部についても「外注分をゼロにすることはない」としており、長崎工場で内製化する生産量はおおよそ月産20台分に留まるとした。

 PW1100GのMROは来年第2四半期から
 第6工場拡張工事は先送り検討
 スペースジェットエンジン、国内組立初号機を出荷
 ANA向けエンジンモジュール・部品も搬入
 業務プロセス刷新で3つのシステム同時導入
 8月1日から稼動開始

※写真=右肩上がりに成長してきた三菱重工航空エンジン。新型コロナ危機というまさかの事態に急ブレーキ。写真はPW1100G-JMエンジンを搭載したANA機