記事検索はこちらで→
2018.07.06

WING

ボーイング/エンブラエル、民間・防衛で合弁会社設立へ

 19年末に取引成立か、航空機業界地図の大変革

 ボーイングとエンブラエルが7月5日、民間航空機の合弁会社設立を含めた戦略的パートナーシップを構築することで合意した。これによりボーイングと新合弁会社は70席級のリージョナルジェットから、450席クラスの大型機までを製品ライナップとする、最強最大の機体メーカーへと成長していく。さらに両社は、防衛部門の製品とサービス分野においても、新たな合弁会社を設立することにも合意した。
 両社は今後数カ月間にわたって、戦略的パートナーシップの財務とオペレーション両面の詳細がまとめられ、取引の正式契約にむけて交渉を進めていく方針だ。ちなみに、この契約を履行するためには、取引に関して株主とブラジル政府を含む規制当局からの承認を得る必要があり、順調に承認を獲得できた場合、正式契約履行の1年から1年半後の2019年末までに取引は成立すると予想されるという。
 ボーイングのライバルである欧州エアバスは、カナダのボンバルディアと、Cシリーズの販売等で提携を進めており、その製品ラインナップを強化。エアバスはCシリーズを”A200″と称するとの一部報道もある。
 「米・ブラジル陣営」と「欧・カナダ陣営」に分かれて、リージョナルジェットや小型航空機メーカーを巻き込んで、業界地図が大きく変わりつつある様相だ。
 一方、こうした業界再編の動きに、取り残されてしまっているのが、日本の国産旅客機MRJといえよう。三菱航空機が開発を進めているMRJにとって、その最大のライバルはエンブラエル。エンブラエルはリージョナルジェットのマーケットリーダーでEジェットと、そのエンジンをギアド・ターボファンエンジンに換装したE2を武器に受注を伸ばした。一方、三菱航空機はMRJも新参者ながら奮闘をみせてはいるものの、5度に亘る開発遅延が影響して、なかなか受注を伸ばすことが難しい。

 

 MRJに垂れ込める暗雲、一層濃いものに

 

 三菱航空機はMRJプログラムのサポートをボーイングから得ている。ボーイングは現段階でMRJに対するサポートについて、取り止めるなどの動きを現段階ではしていないとはいえ、ボーイング・エンブラエルが合弁会社を設立するなど、蜜月関係を深めたことから、今後このサポートがどのようになっていくのか、その動きが注目されるところだ。
 もともと力のあるエンブラエルが、世界最大の航空機メーカーであるボーイングとガッチリと手を結んだことで、MRJの行末に垂れ込めていた暗雲は、より一層濃いものとなっている。

 

 新合弁会社・拠点はブラジルに
 ボーイングサプライチェーンに完全統合

 

 ボーイングとエンブラエルが民間航空機の新たな合弁会社設立に向けて交わした覚書によれば、新たな合弁会社の下でエンブラエルの民間航空機とサービス事業が、ボーイング民間航空機の開発・製造・マーケティング、さらにはライフサイクル・サービス業務などと、戦略的な提携を展開する。合弁会社はボーイングの包括的な設計、製造、民間旅客機のサポートのための中核的拠点の一角となり、ボーイングの広範囲な生産とサプライチェーンに完全に統合されるという。
 設立する合弁会社におけるボーイングの持ち株比率は80%で、残りの20%がエンブラエルとなる。これにより、ボーイングと合弁会社は、70席から450席以上までの民間旅客機と貨物機を市場に提供する。
 ちなみに合弁会社は、ブラジルを拠点とする経営陣が統括する。その新会社は、ボーイングの会長、社長兼CEOであるデニス・マレンバーグ氏の直轄組織となり、マレンバーグ会長に報告することになる。
 一方、防衛部門における合弁会社については、エンブラエルが開発したKC-390を含む防衛装備品とサービスの新規市場の開拓などを目指していく方針だ。
 ボーイングのマレンバーグ会長は「戦略的パートナーシップの構築によって、私たちは、両社のお客様や株主の皆様、社員、さらにはブラジルと米国にとって大きな価値を創出する理想的なポジショニングが可能となる」とし、「今回の提携は非常に重要で、本業を基盤とした成長への投資と株主の皆様への還元というボーイングの 長期戦略に明確に沿ったもの」であることを強調。「さまざまな戦略的な取り決めによって、成長計画の強化と加速を補完することになりる」と話した。
 一方、エンブラエルのCEO兼社長であるパウロ・セザール・デ・ソウザ・エ・シルバ氏は「ボーイングとの今回の合意は、航空宇宙業界で最も重要な戦略的パートナーシップになる」とコメント。「これにより、両社ともに世界市場におけるリーダーシップを強化することは間違いない。ボーイングとの事業提携は、ブラジルの航空宇宙産業に好循環を生むことが期待される。潜在的な需要と生産を高め、雇用を創出して収入や投資、輸出を拡大し、さらにはお客様、株主の皆様、 従業員への付加価値をもたらすだろう」と話した。