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2020.09.09

WING

YS-11量産初号機が大ピンチ、クラウドファンディング実施

コロナで機体保管する国立科学博物館の収入大幅減

 国立科学博物館が保管しているYS-11量産初号機公開プロジェクトで、クラウドファンディングを実施中だ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、YS-11量産初号機を保管する国立科学博物館の入館料収入が激減したことが影響した。
 YS-11量産初号機は、日本機械学会の「機械遺産」、日本航空協会の「重要航空遺産」に認定されるなど、日本航空業界および産業界の歴史の1ページにその名を刻んだ。2021年春にテーマパーク「ザ・ヒロサワ・シティ」(茨城県筑西市)で公開することを予定している。
 国立科学博物館はYS-11量産初号機の組立に全体で約8000万円を要すると試算しており、コロナの影響で激減した入館料収入を補填するかたちでクラウドファンディングを実施し、組立費用の一部に充当することを目指す。クラウドファンディングで集まった寄付は、機体の組立に必要な材料、什器類、人件費に充てるとし、その目標金額を3000万円に設定した。
 YS-11は試作2機を含む計182機を生産した。なかでも国立科学博物館が保管する機体は、1965年に旧運輸省航空局に納入され、1964年に初飛行した量産初号機(製造番号:2003)。羽田空港を拠点とし、国内全ての航空管制通信施設の機能を確認する飛行検査機として活躍し、1998年に引退するまでに累計2万時間以上飛行した。
 退役後は国立科学博物館に寄贈され、一時は羽田空港内で保存・一般公開が検討することが検討されていたものの、羽田空港の機能拡張や保安上の理由で羽田空港内における展示は叶わず、屋根付の建物を用意する「ザ・ヒロサワ・シティ」へと移設することが決まった。
 国立科学博物館は約20年に亘って常に飛行が可能なレベルで整備を続けてきており、今回の「ザ・ヒロサワ・シティ」への移設にあたって行われている機体の分解・組立でも、過去にYS-11の整備などに関わっていた航空会社整備士OBらの有志による特別チームを編成して作業にあたった。
 その分解・組立の過程では、部品の取り付け位置が設計図通りにいかずに変更していることが明らかになるなど、初号機製造当時に試行錯誤した様子も見受けられた。国立科学博物館としては、貴重な産業技術資料としての価値を減じないよう、可能な限り移管時の状態に近い形で保存・一般公開することを目指すとしている。
 国立科学博物館YS-11クラウドファンディング担当の豊田晃郎氏は「当館は6月1日の再開まで、約3ヵ月間に亘り休館することを余儀なくされた」とし、6月の開館以降も入場制限を実施して、現在でも20分毎に100名までのグループ分けを行なっているという。通常ならば、とくに夏休み期間中は連日大勢の来館者が訪れるところ、こうした入場制限措置を講じたことで入館者数は平時の10分の1にまで落ち込み、同館の入館料収入は激減していると窮状を訴えた。
 そうしたなか「ザ・ヒロサワ・シティ」におけるYS-11量産初号機公開プロジェクトは進んでいるものの、その費用を負担する国立科学博物館は苦しい。同機の組立には多額の費用を要することもあり、国立科学博物館の全体経営を圧迫しかねない状況にある様相だ。
 豊田氏は「この機体は戦後復興の象徴であり、全国の空港整備にも使われた」とし、その歴史的価値を強調。「一般公開することで、未来の子どもたち、国民の皆様に是非見て頂きたい」として、寄付を呼びかけた。
 なお、クラウドファンディングで寄付した人には、同機の組立映像の視聴権(全員)のほか、金額に応じて特製写真はがき、名前を量産初号機内に保存、組立プロジェクトの特製報告書、シリアルナンバー入りの特製スタッフワッペンのプレゼントや、さらには組立完成セレモニー招待、機体搭乗と操縦室見学ツアーに招待などといった様々な特典が用意されている。

〔YS-11量産初号機公開プロジェクトクラウドファンディングサイト〕
https://a-port.asahi.com/projects/kahaku_ys-11/

※写真=YS-11量産初号機の組立作業が進む。ただ、コロナの影響で機体を保管する国立科学博物館の収入が激減してピンチに(提供:国立科学博物館)