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2018.07.12

WING

航空局、MRJ就航向け航空機検査制度見直し

ICAO標準や欧米基準と調和、制度面から産業支援

 航空局は2020年半ばにも国産旅客機MRJの運航がスタートすることに向けて、航空機検査制度を見直すことにした。航空局によれば、その見直しの基本的な視点としては、航空機の安全性確保、国産航空機の安全性確保、そして国 際民間航空機関(ICAO)標準への適合や欧米基準との調和といったもの。現行 制度の見直しに当たり、現行制度の下で実現している航空機の安全性と同等以上の水準を確保していくことを大前提とすることのほか、MRJの安全性を確保するために航空機メーカーが満たすべき基準を整備し、制度面から日本の航空機産業を支援すること、そして外国政府が行った認証や検査結果の積極的な活用や国内製造者の国際市場への参入及びシェアの拡大を図っていくために、新たに導入されたICAO標準への適合や欧米基準との調和を図ることを目指す。
 なお、航空局は今回とりまとめられた「見直しの方向性」を踏まえ、今年冬以降に最終とりまとめに係る審議を実施する方針だ。ちなみに航空局はこれまで、様々な環境変化などを踏まえながら今年3月以降、計7回に亘る航空機検査 制度小委員会を開催。MRJ設計国として日本が果たすべき責務などを含めて、現行制度の課題について対応を進めてきていた。

 

 
 CO2排出基準、ICAO新標準開始までに追加へ
 耐空性維持、不具合情報収集可能な仕組み構築

 

 見直しの方向性は「航空機のCO2排出量基準」、「国産旅客機の耐空性維持 に係る仕組み」、「装備品の整備・交換に係る制度」、「航空機の更新耐空証 明検査に係る制度」という、大きく分けて4つの方向性で検討が進められた。
 このうち「航空機のCO2排出量基準」については、昨年7月のICAO総会を通じて、航空機のCO2排出量基準が新たに策定され、2020年1月以降、航空機の種類ごとに順次、適用することになった。そこで見直しの方向性として、遅くともICAO標準の適用がスタートする2020年1月までに日本の航空機審査基準に追加することにした。
 また、「国産旅客機の耐空性維持に係る仕組み」に関しては、現状では国際 民間航空条約上の航空機の耐空性維持に係る設計国の責務を果たすため、欧米 では型式証明保有者(航空機の設計・製造者)等に不具合情報の収集・分析、当局への報告が義務づけられている。ただ一方で、日本では型式証明保有者等 が耐空性維持のために実施すべき活動が明確化されていないことが現状。また、航空機が損傷し、修理する際に必要となる「修理設計データ」(修理の計画)を設計国として承認する仕組みがない。
 そこで今回、日本が航空機の設計国の責務を果たすために、航空機メーカー を通じて航空機の不具合情報を運航者などから収集できる仕組みを構築することを目指すことにした。さらに、航空局、航空機メーカーおよび運航者の役割 分担も含め、国産旅客機に対する耐空性の維持活動に関する諸手続を検討していく。
 さらに修理設計データの取り扱いについて、欧米と同様、航空機の運航開始後に多数の修理設計データを速やかに承認できるよう、国が修理設計データを 承認できる仕組みや国に代わって航空機メーカーが承認できる仕組みも併せて明確化していく方針だ。加えて、修理設計データの承認に係る対象範囲や承認 基準について明確化する。

 

 全装備品・部品の製造・修理者が基準適合確認
 重要装備品以外も対象に

 

 装備品に対する安全規制については現状、欧米では国が能力を認めた認定事 業場等が安全性を保証した装備品でなければ、航空機への装備が認めていない。日本では、発動機、プロペラ等の航空機の安全確保のため重要な装備品以 外の装備品については、航空機使用者の責任において航空機に取り付けること を認めている。そのため欧米にも輸出・運航予定の国産旅客機において、「重要装備品」以外の装備品の基準適合性の確認に大きな疑念を抱かせる恐れがあるという。また装備品の製造者/修理事業者の安全確保上の責任が明確ではな く、装備品を取り付ける航空機使用者が全ての責任を負っている。
 そこで今後の見直しの方向性としては、航空機に装備される全ての装備品・ 部品に対して、製造または修理を実施した者により、基準への適合性が確認されるべきことを求めていく方針だ。

 

 予備品検査証明制度を見直しへ

 

 装備品安全規制のうち、国による「予備品証明検査」制度についても見直し に言及。現状では航空機の装備品が飛躍的に高度化・複合化し、国が短時間かつ簡易な検査のみにより装備品の安全性を総合的に判断することが困難になっ ているとのこと。そのため機材不具合等で「重要装備品」の交換が必要となっ た場合、国の「予備品証明」を受けるまでは航空機に取り付けることができず、運航便の遅延や欠航等が生じる恐れがある。また実態上、国の直接検査である予備品証明検査をその都度受検することとなっており、航空機使用者にとって、人的リソースやコスト等の面で負担となっているという。
 航空機使用者にとって負担となっているだけでなく、安全性の確保の面でも 十分とは言えないことの見方を示しており、航空局としては現行の形式的とも言える国による「予備品証明検査」の見直しに踏み切ることを検討する。

 

 エンジン整備、製造者指定マニュアルに沿って

 

 また、国によるエンジン等の整備方法の指定制度に関しては、日本では、エンジン、プロペラなどの重要装備品について、国が限界使用時間及び整備方法(=オーバーホール)を指定。一方でオーバーホールを前提として設計されていない発動機が多数出てきており、規制と実態が乖離した時代遅れの制度にな っているという。諸外国では、国が整備方法を指定せず、製造者の最新のマニュアルにしたがって整備することが求められているところ。
 そこで航空局としては、国が整備方法を指定するのではなく、欧米と同様に製造者が指定する最新のマニュアル等にしたがって整備する方式を採用することにした。

 

 連続式耐空証明や整備検査認定事業場活用促進へ

 

 更新耐空証明検査に関しては、現状では航空運送事業機の耐空証明の有効期間は、国土交通大臣が定めることになっている。高度な整備能力、体制等を有 する航空運送事業者が運航する航空機に対しては、有効期限を「当該事業者の 整備規程の適用を受けている期間」とする「連続式耐空証明」を与えていると ころ。ただ、「連続式耐空証明」を取得している航空機を除く航空運送事業機のうち、約3割は依然として1年毎の国による更新耐空証明検査を受検しており、民間の能力を活用して国の検査を省略する「航空機整備検査認定事業場」 制度の活用が十分に進んでいないと指摘した。
 そこで現行の「連続式耐空証明」及び「航空機整備検査認定事業場」制度の 活用促進が適切かつ現実的であるとの見方を示しており、「航空機整備検査認 定事業場」制度の活用を促進するほか、航空運送事業者に一層の能力向上のインセンティブを与えるため、認定事業場として一連の整備が継続的に実施され ている場合に耐空証明の有効期間を整備実態に即したものにする等の仕組みを検討していくことにした。

 

 航空機使用事業機及び個人所有機の耐空性の維持

 

 また、航空機使用事業機及び個人所有機の耐空性の維持については、航空運 送事業機と同様、「航空機整備検査認定事業場」制度の活用が進んでいないこ とが課題となっている。航空機使用者による日常の整備の適切な実施が担保できないことから、1年毎の更新耐空証明検査の際に検査・確認すべき点が多いこと、飛行検査を含む二重の実機検査、つまり社内実機検査と国の検査官が立会う実機検査を実施していることが使用者及び国の双方にとって大きな負担と なっている。
 ただ、航空機使用者の不適切な整備に起因するトラブル等も散見されるほか、小型機の事故も引き続き発生しており、航空機使用者に適切な整備の実施・耐空性の維持を義務づけることなく、国が1年に1度だけ、事後的にこれらを確認する現在の仕組みには限界がある。さらに、大きな自家用機使用団体等がなく、組織化されていない個人所有機に対しては、年1回の国による更新耐空 証明検査が、国からの安全情報の伝達、使用状況や安全性の実態の把握の好機 となっているという。
 そこで見直しの方向性として、航空機使用者に対して、適切な整備を通じて 航空機の耐空性維持を求める実効性のある仕組みを検討する。引き続き1年毎の更新耐空証明検査により、航空機使用者の整備の実施状況を確認することのほか、一定規模の航空機数を有し、組織的な整備体制を有する航空機使用事業者や官公庁が使用する航空機、認定事業場に日常整備等を全面的に委託している個人所有機等を対象として、任意に整備規程を設定し、それに基づく継続的な整備が実施されている場合に、耐空証明の有効期限を整備実態に即したものにする等の仕組みを検討していく。

※写真=MRJ就航に向けて航空機検査制度が見直しへ。今冬以降に最終取りまとめへ(提供:三菱航空機)