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2021.07.16

ウイングトラベル

●追悼 日本旅行業協会 坂巻伸昭会長

 『協調と共創』、観光で地域創生に取り組む

 日本旅行業協会(JATA)会長、東武トップツアーズ社長の坂巻伸昭氏が肺がんで亡くなった。62歳。あまりに早すぎる死に、旅行業界からも惜しむ言葉が相次ぐ。
 坂巻氏は千葉県出身。1982年に武蔵大学経済学部を卒業後、同年4月に東武鉄道入社。2008年4月に同社グループ事業部長、2010年7月に東武トラベル社長、2012年6月に東武鉄道取締役グループ事業部長、2013年8月より東武トラベル社長とトップツアー社長を兼任し、2015年4月1日に両社が合併して誕生した東武トップツアーズ社長に就任した。
 東武トップツアーズ社長とともに、2017年6月にはJATA副会長就任し、国内外で業界活動に尽力してきた。
 2020年3月23日に首相官邸で開かれた政府の「新型コロナウイルス対策本部」では、JATA副会長として旅行業界を代表して出席。各業界の代表とともに当時の安倍首相に観光関連産業の窮状を訴え、コロナ収束後の旅行需要の早期回復に向けた政府の取り組みを促す契機を作った。
 そして、2020年6月には田川博己氏の退任を受けて、JATA副会長から会長に就任した。コロナ禍の真っ只中にあり、旅行業界が未曾有の危機的状況にある中での船出だった。
 旅行・観光産業界は過去にも幾多の苦難を乗り越えてきたが、新型コロナウイルスによって海外、国内、訪日旅行の全分野が壊滅的な被害を受け、かつてない危機に直面する中でのJATA会長交替だった。心労はいかばかりであったろうか。
 坂巻氏はJATA会長就任のあいさつで、「旅行業はかつて経験したことのない厳しい局面にさらされている。このような時こそJATA設立時の原点に立ち返り、会員のために何ができるのかを常に意識した協会運営を進めたい」と語り、「共に歩む協調、共に創る『共創』をテーマに取り組んでいく」と抱負を語った。
 本当に優しい人なんだと思う。『協調と共創』という言葉を幾度も使った。東武トップツアーズ、JATAの役職員を含め、誰にでも慕われた。また、話が上手で、さすが武蔵大の落研に所属していただけあって、聞いているうちに話の面白さにどんどん引き込まれてしまう。JATAに対して厳しい意見を言う人もいるが、坂巻氏なら会員の総意をまとめ上げて協会運営をしていくだろうと期待していた。
 Go Toトラベルキャンペーンについても、「キャンペーンの成果を一過性のものにするのではなく、地域との連携をいかに高めるかが旅行業にとって大切なこと。一番疲弊しているのは地域経済で、旅行に対してかつてないキャンペーン予算が計上されたのは、旅行業が地域活性化に果たす役割が大きいことが評価されたもの。旅行業を通して地域に人を動かし、経済を動かすことを意識しながら実施することが大事」と、GoToトラベルにより地域貢献を果たしていくことの重要性を語っていた。
 Go Toトラベルで、旅行業界が一般から批判されたことを誰よりも憂いたのではないか。Go Toトラベルが地域経済を下支えし、地域に貢献したかをもっと世間一般に理解、浸透させたい。これは、旅行業界に残された課題だろう。
 JATA会長に就任してから病気の進行は早かったようで、10月下旬の「ツーリズムEXPOジャパン 旅の祭典 in 沖縄」でお会いした時は、病を押して出席されていた。それでも会長の職務を全うした。
 坂巻氏の持論は「旅行会社は狩猟民族で、儲かるところばかりの地域を見る。旅行会社は京都、沖縄など有名観光地の商品をつくれば、そんなに苦労しない。これでは旅行業が持続的、継続的なものにはならない。旅行会社は狩猟民族から農耕民族に変わるべき」と旅行会社の意識転換を自戒を込めて語っていた。観光で地域創生に取り組む坂巻氏らしい言葉だ。
 6月22日、JATA会長留任の最後の言葉を旅行業界へのメッセージとして引用する。
 「私にとって旅行業は素晴らしい価値観のあるものだから、皆さんと一緒に、次の旅行業をぜひ一緒に作り上げていきたい」。この言葉を噛み締めて、合掌。(編集統括 石原義郎)

 

※写真=昨年6月JATA総会で会長就任のあいさつをする坂巻氏