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第156回「日本が危ない」人材活かせぬ政治が没落の始まりか
政争は防衛省幹部の人事へ
懸念される防衛3文書改定
防衛費増額をめぐり、首相、岸田文雄がさっそく仕掛けてきた。防衛事務次官、島田和久を交代させる人事を決めたのだった。防衛相、岸信夫や、島田が首相秘書官として仕えた元首相、安倍晋三が抵抗したにもかかわらずだ。なぜ岸田は早めに仕掛けたのか。
島田交代の表向きの理由は在任2年となったため。退任を告げた官房副長官、栗生俊一は「総理には3度留任をお願いしたが、翻意していただけなかった」と説明した。事務次官は通常2年務めるがルールがあるわけではない。国家安全保障局長の秋葉剛男のように外務次官を3年5ヵ月務めたケースもあれば、財務次官は1年交代が通例だ。
岸は体調不良から参院選後の内閣改造で退任することは既定路線となっている。年末にかけて国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の3文書の改定、防衛予算をめぐる財務省と防衛省の攻防が本格化するのを前に、事務方トップの防衛次官が交代するのは望ましくないと岸は粘ったが官邸は聞く耳を持たなかった。実弟でもある岸からこの話を聞いた安倍は激怒した。
6月16日、岸田は通常国会終了を受けて安倍の事務所に足を運んだ。この場で安倍は島田のことを持ち出した。
「今、次官を交代させることは国防のためにならない」
「明日の閣議で交代することが決まっちゃたんです」
人事権を持つのは岸田である。安倍は黙ってしまった。その直後、栗生から島田に電話が鳴った。
「引き続きこの界隈で仕事をしたいなら余計なことをしないほうがいい」
このセリフは週刊文春と週刊新潮に載った。元警察官僚の栗生ならではの恫喝と受け止められた。栗生をめぐっては、安倍を牽制するため、安倍後援会が主催した「桜を見る会」前日の夕食会にサントリーホールディングスが酒類を無償提供していた問題で、市民団体からの安倍らに対する政治資金規正法違反容疑での告発状を受理するよう検察サイドに働きかけていたとの情報も流れた。
2年交代の黒幕は首相か
なるべく消したい安倍カラー
岸田官邸では栗生(昭和56年入庁)や秋葉(57年)、政務秘書官で元経産次官の嶋田隆(57年)、首相補佐官で元国交次官の森昌文(56年)の4人の次官経験者の影響力が増しているが、防衛予算の増額をめぐっては安倍に主導権を握られたため、この「4人組」や財務省が意趣返しとばかり島田外しに動いているとの見方が広がった。