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航空局概算、前年度ほぼ同規模の3993億円要求
航空業界の経営基盤強化措置は事項要求で検討
国土交通省航空局関係の2023(令和5)年度概算要求は、空港整備勘定として前年度比97億円増の3993億円と、ほぼ同規模の額を要求した。
予定する事業については、コロナ禍で傷んだ航空関連業界の経営基盤を強化するため、必要な措置などは事項要求として今後の予算編成過程で検討していくこととした。その上で空港では今後の需要回復を見据え、受入環境整備や運航再開などを支援する。さらに整備関係では、羽田空港で新たにJR東日本による空港アクセス鉄道関連の整備を開始して、開削トンネル工事などに着手する計画だ。また京浜急行電鉄の引上線整備や、第1ターミナルと第2ターミナルを接続する人工地盤整備を進めて、羽田空港の機能の拡充を図る。
23年度の要求額3993億円について歳入の部を見ると、航空機燃料税による収入は前年度比148億円増の463億円と、コロナ禍前と同水準になった。空港使用料による収入は1016億円増の1948億円としたが、これは旅客数が国内線でコロナ禍前の9割、国際線が5割まで戻ることを想定した数字。前年度予算では国内線が8割、国際線が2割で、かつ減免措置を行ったため、23年度要求額と大きく差が開いた。さらに雑収入等では214億円減の790億円、財政投融資では854億円減の791億円といった内訳になった。また一般会計(非公共予算)は25億円増の80億円とした。
■安全・安心と需要回復・増大への対応
訪日回復見据え空港の受入環境整備など支援
23年度に計画する事業は、「安全・安心な航空輸送と、需要回復・増大への対応」、「グリーン施策の推進」、「航空イノベーションの推進」といった3本柱からなる。そのうち安全・安心と需要増大への対応の一つとして、訪日旅客の本格的な受入再開を見据えた空港の受入環境整備や訪日誘客支援空港に対する運航再開支援を計画する。非公共予算として前年度より3億円増の7.4億円に加え、一般空港等の事業費として要求する940億円の内数によって行う。
受入環境整備の支援は各空港のターミナル事業者などを対象に、感染リスクの最小化と航空需要の回復・増大を両立する整備を支援する。例えば待合スペースの密集防止や、空調・換気設備の機能向上、衛生設備の非接触化などの整備を対象とするほか、待合スペースやバゲージハンドリングなど航空旅客の利便性を向上させる整備や、CIQ施設の整備なども支援する。
運航再開などの支援は、今後本格的に訪日旅客の受入れを再開した後、地方創生としても地方への誘客促進が重要になるため、国交省で認定した訪日誘客支援空港に対し、国際線の運航再開に向けた支援を行う。これまでの支援では国管理空港の国際線着陸料割引、コンセッション・地方管理空港の国際線着陸料補助、運航再開のためのカウンター設置や地上支援業務の経費支援などを行ってきたが、今後は地方空港の国際線ネットワークを早期回復・拡大させるため、支援の見直しを図っていく考えだ。
羽田アクセス線着工、新駅付近の開削など
第1・2タミつなぐ人工地盤、調査・設計へ
国際拠点空港の整備のうち、羽田空港での整備関連では前年度予算より65億円多い546億円を要求する。空港機能を拡充する整備では、JR東日本の羽田空港アクセス線整備のための基盤施設整備に本格着工する。この路線は2029年度の開業を予定していて、完成すれば東山手ルートで東京駅との間を約18分でつなぐことになる。羽田空港での工事は、新駅の整備を予定するP3駐車場付近での開削工事と、深度の深い都心寄りのシールドマシンによる掘削工事。23年度にはP3駐車場付近の躯体築造工事を開始するとともに、シールドマシンの整備を行うこととし、その起点となる発進立坑の整備を行う予定とする。
前年度から開始した京急の空港線引上線整備は、引き続き整備を続けてアクセス利便性の向上を図る。この引上線は2本で約300メートルを整備して、上下線の入替えをスムーズにする。そうすることで1時間当たりの電車の本数を片道約3本増やすことができる。22年7月末には工事のために必要な歩行者通路の切回し工事に着工しており、着実に整備を進めている。
同じく前年度から整備に着手した第1ターミナルと第2ターミナルを接続する人工地盤整備は、これまで概略の設計を行ってきたが、来年度からは地盤の調査や既存施設を移設するための基本的な設計などに取り組む。30年代前半に地盤の整備を終え、30年代中ごろには地盤の上に建つ施設の整備が完了する予定としている。第1・第2ターミナルを接続させることで国際線と国内線の乗継利便性を高める。旅客は乗継ぎのためにバスへ乗る必要があるが、第1・2ターミナルがつながることでバスに乗らなくても乗り継ぐことができるようになる。さらに国際線専用の第3ターミナルでは、羽田空港で最も長いC滑走路から離れた位置にあり、長距離飛行を行う場合はA滑走路をまたいでC滑走路へ向かう必要があるなどの課題がある。それを予定している第1・2ターミナルの拡張工事と併せることで国際線の一部便の駐機が可能となり、滑走路までのリードタイム短縮にも寄与することになる。
また、引き続き旧整備場地区の再編整備を進める。今後はかさ上げ工事などを行うなど、自然災害からの強化を図る。滑走路では耐震性強化に取り組むほか、空港島の護岸整備を推進するとともに、基本施設や航空保安施設などの更新・改良を行う。
成田空港、120億円でさらなる機能強化支援
成田空港の整備関係では前年度予算より20億円少ない156億円を要求する。そのうち空港整備勘定からの無利子貸付が120億円(前年度比34億円減)となっており、成田国際空港会社(NAA)が行うB滑走路延伸やC滑走路新設などの「さらなる機能強化」を引き続き支援する。
そのほか成田空港での主要な整備としては、空港庁舎の耐震対策を引き続き行い、通信施設の移設や、航空保安施設の更新などを行う。
またNAAによる会社事業として、23年度にはA滑走路北側で第8貨物ビルの整備を行う。
関空・伊丹と中部では保安施設など更新
関西空港・伊丹空港の整備については、前年度より1億円減の48億円で航空保安施設の更新を行う。また空港の機能強化を図るための検討を進める。さらに空港を運営する関西エアポートの事業として、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた脱炭素化事業の一環として、引き続き航空灯火のLED化事業を進める。そのほか国際線の増便に向けて、関西空港では第1ターミナルの改修を行うこととしている。
中部空港の整備関係の要求額は1億円増の10億円。航空保安施設の更新などに充てるほか、そのうち0.5億円を調査費として、現施設のフル活用を図るための検討を行う。また中部国際空港会社の事業としては、老朽化した防災システムなどの更新を行うほか、国際線の再開を見据えた第1ターミナルの改修などに取り組む。
一般空港で940億円、福岡新滑走路整備など
一般空港などの整備事業は、全体で44億円多い940億円を要求する。福岡空港では滑走路処理能力を向上させるため、引き続き滑走路増設事業を行う。23年度には用地造成、滑走路・誘導路・無線施設整備などを行う予定だ。総事業費としては約1643億円で、新滑走路の供用開始は2025(令和7)年3月末を予定している。
那覇空港では国際線ターミナル地域再編事業に引き続き取り組む。これは観光客の増加によって構内道路が混雑しているため、国内線ターミナル前面の高架道路を国際線ターミナル前面まで延伸して混雑の解消を図る。
新千歳空港では、誘導路複線化や滑走路端へのデアイシングエプロンの整備を継続することで、冬季の課題となっている降雪や結氷などによる欠航や遅延の緩和を図る。
そのほか一般空港などでは浸水・耐震対策、老朽化対策、滑走路端の安全区域整備などを継続して、空港の防災・減災、国土強靭化の推進を図る。
TIATへ無利子貸付10億円、コンセ空港は計143億円
空港運営会社などへの無利子貸付については前述のとおり、NAAに対して成田空港のさらなる機能強化を実施するために空港整備勘定120億円の貸付けを行う予定。そのほかにも羽田空港では、国際線施設を運営する東京国際空港ターミナル(TIAT)に対して10億円(3億円増)を貸し付けて、需要の回復に合わせて必要なバゲージハンドリングシステムなどターミナル整備事業を支援する。
コンセッション空港を対象とした無利子貸付は16億円増の143億円を要求する。これは国管理コンセッション空港を運営する事業者が対象で、滑走路や灯火など空港の機能を確保するために必要な施設の整備を支援するものとなる。
コンセ推進、新潟・大分・小松で手続きへ
空港の経営改革を推進するための予算については前年度と同額の2億円を要求する。これは民間によるコンセッション空港を実現し、地域の活性化を図るもの。
特に地元自治体の意向によりコンセッション導入への手続きを開始した新潟・大分・小松空港については今後、運営権者の公募手続きや、運営委託手法などの検討を進めていくこととしている。
航空路整備関連で274億円、管制の上下分離など
航空路整備事業では14億円減の274億円を求めて、航空路管制空域の上下分離や、静止衛星を用いた衛星航法システム(SBAS)による進入方式の導入を進める。
航空路管制空域の上下分離では、東日本空域の上下分離に必要な航空路管制卓や遠隔対空通信施設などを整備する計画。現在のところ、西日本では上下分離が進んでおり、すでに神戸管制部による低高度管制と、福岡管制部による高高度管制が実現している。今後25(令和7)年度以降に東日本の上下分離を実現する予定。低高度の管制は東京管制部が行い、高高度は西と同じ福岡管制部が完成を行うことになる。
SBASによる進入方式(LP/LPV)の導入については、視界不良時での着陸機会を増加させることができる。こちらも25年度以降の実用予定だ。23年度には静止衛星3機を利用したSBASの即位精度を向上させるため、地上監視局などの施設整備を行う予定としている。
そのほかの事業については次の通り。
▼空港周辺の騒音対策事業:11億円(4億円減)
▼離島の航空輸送確保:13億円(2億円減)
▼地方航空路線の維持・活性化(非公共):0.4億円(0.2億円増)
▼航空保安対策の強化:18億円(8億円減)
▼航空大学校における操縦士の着実な養成(非公共):32億円(7億円増)
▼民間と連携した操縦士・整備士の養成・確保の促進(非公共):0.7億円(0.1億円増)
▼安全監査体制等の強化(非公共):0.7億円(0.5億円増)
■航空分野のグリーン施策推進
運航分野の脱炭素化で3つのアプローチ
グリーン施策のうち、運航分野の脱炭素化では非公共予算として前年度と同じ0.5億円を要求する。また空港整備勘定では一般空港と航空路整備の内数として37億円増の84億円を求める。目標とする「2050年までの国際航空分野におけるカーボンニュートラルの達成や国内航空分野における2030年度までの単位輸送量当たりのCO2排出量16%改善」に向けて次の3つに取り組む。
1つは機材・装備品などへの新技術導入で、日本が持つ電動化・軽量化・水素燃料など優れた環境新技術を実用化させるため、産官学連携で戦略的に安全基準・国際標準などの整備に取り組む。2つ目は運航の改善で、運航全体の最適化を図るとともに、航空路・出発・到着・空港面の場面ごとに効率の良い改善策を推進する。また管制システムの高度化などを進めて運航の改善を図る。3つ目は持続可能な航空燃料(SAF)の導入を促進することで、25(令和7)年には廃食油由来などの国産SAFの一部商用化が見込まれる。そのため、サプライチェーンの構築や国際標準化などを急ぐとしてSAF官民協議会によって調査を行い、課題を明確化する。
空港分野では再エネ導入などを推進
空港分野の脱炭素化としては、非公共で1.7億円増の3億円とし、また空港整備勘定では羽田、一般空港の内数として9億円増の83億円を要求した。空港分野の目標は「2030年度までに、各空港で46%以上の削減(2013年度比)および再エネ等導入ポテンシャルの最大限活用により、空港全体でカーボンニュートラルの高みを目指す」としており、子の実現を目指した取り組みを推進する。
この取組みとしては、空港施設や空港車両からの二酸化炭素排出削減に向けて照明・灯火のLED化や空港車両のEV・FCV化を進める。また航空機からの排出削減に向けて、GPU利用の促進を図る。そのほか、空港の再エネ拠点化に向けて、太陽光発電などの設備導入を推進する。
■航空イノベーションの推進
空飛ぶクルマの社会実装へ環境整備
航空イノベーションの推進では、空飛ぶクルマの社会実装に向けた環境整備や、ドローンの友人地帯での目視外飛行(レベル4飛行)の活性化に向けた環境整備に取り組む。これには非公共予算として0.4億円増の1.3億円と、空港整備勘定から18億円減の12億円を要求する。
空飛ぶクルマについては、25年の大阪・関西万博での商用運航開始を目指して、操縦技能証明の基準、離着陸場の設備要件、交通管理などに関する環境整備など調査整備などを行う。ドローンのレベル4飛行の取組みでは、運航管理システム(UTMS)の導入や、衝突回避機能の安全基準の検討などを進める予定としている。
グラハン業務の効率化、AIや自動化検討
空港の地上支援業務に対する先端技術の導入に向けた取組みでは2億円を要求して、グランドハンドリングの生産性向上を実現するための実証調査を行う。AI技術を活用したグランドハンドリングの効率化や、自動化・効率化を推進し、さらには空港除雪の省力化・自動化も検討を進める。
そのほか航空機や次世代航空モビリティに対する安全性審査・実用化促進の的確な対応のため非公共予算から1億円を求める。不具合自称などへ的確な対応を行うこととしている。
※写真=羽田空港ではアクセスを向上させるアクセス線の整備に着手する予定だ