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財務省、防衛装備品の予定価格訓令にメス
次期防向け1兆円規模合理化要求も
財務省は10月24日、有識者が財政について議論する財政制度審議会財政制度分科会の会合を開催した。24日の会合では防衛予算を取り上げた。日本周辺の安全保障環境が騒がしくなるなか、高額装備品のFMS調達などで防衛予算が拡大し続けている一方、日本の債務残高は膨らみ続けていることから、その懐事情は厳しい。財務省としては拡大する防衛装備品調達にメスを入れ、効率化・合理化を促進したい考えだ。
次期中期防の策定に向けて議論の焦点となったのは、次期中期防や膨張する防衛関係費の水準をどのように捉えるのか、あるいは調達改革の強化や防備品調達のメリハリ付けなど。とくに防衛装備品の調達に関しては、従来の原価計算方式による予定価格訓令を事実上見直しすべきことを提言。さらに防衛装備庁設置によるコスト低減を評価しつつも、調達改革を永続的に取り組むべき重要課題として、現中期防で達成した7700億円を大きく上回る、年間2000億円程度(5年間で1兆円規模)の削減努力を行うことが求められることにも言及した。
財務省は防衛装備庁発足後、本格的に予算編成を行った2017・18年度においては、原価の精査などの新たな取り組みによって、年2000億円程度の合理化効果を出すことに成功したことに言及。次期中期防衛力整備計画期間においては、この水準は最低限達成したうえで、更なる上乗せを目指すべきとしている。
あわせて、島嶼防衛や弾道ミサイル防衛を重視する観点から、必要性が認められていても、優先順位が低いものについては、調達時期の先送りなど、メリハリを付けるべきとも指摘しており、既存の装備体系の徹底した合理化・効率化が不可欠ではないかと議論を投げかけた。
問題視された予定価格訓令とは?
防民合算の加工費レートにも疑問
予定価格訓令の問題は、近年、米国でF-35戦闘機の取得価格低減の取り組みとしてメーカー側に製造コスト低減をコミットさせるなどの新しい契約方式が効果を上げていることを踏まえたもの。防衛省においても量産は価格低減を前提に契約額を決定できるよう見直すべきではないかとしている。
特注品である防衛装備品は、適正価格を算定するため、予定価格訓令において、直材費や加工費等に一般管理・販売費や利潤などを掛け合わせる原価計算方式を採用している。実務上、契約額は原価計算方式による価格(及びそれに基づく予算額)に強く影響されていることになるが、そもそもこの価格は官側の見積もりに過ぎず、必ずしもこの額で契約しなければならないものではないと指摘している。
さらに、加工費は必ずしも防衛装備品の製造に要した費用のみで算定されるわけではなく、企業判断により防需と民需を合算した「加工費レート」によって算定されているケースがあるとの見方も示していて、こうした扱いは適当なのかとも疑問を投げかけた。
加えて必要な設備投資は官が初度費として支払っているほか、少量生産でもあるため、期間費用は小さく、期間工数は大きくなる傾向にあるものの、一方で民需は大量生産のための機械化と相まって、期間費用は大きく、期間工数は小さくなる傾向にあるとし、結果として期間費用の負担が防需に偏りがちとなり、民需の設備投資を防需が実質的に負担する構造となっているのではないかとしている。
その上で、民需の減少を防衛装備品の単価の上昇で賄う構造は不健全であり、納税者への説明責任や調達改革の観点から、現行制度の功罪を検証したうえで、とりわけ量産段階の装備品については価格逓減を前提に適切に契約額を決定できるよう、予定価格訓令及びその運用を見直すべきではないかと提言した。
※写真=次期防では年2000億円規模の合理化を最低限達成すべきことを要求
※写真=予定価格訓令の見直しも取り上げられた。米国ではF-35調達で取得価格低減の取り組みが進んでいる。写真は航空自衛隊のF-35。2018年10月14日の観閲式で撮影
※写真=島嶼防衛や弾道ミサイル防衛における統合運用の観点を踏まえた装備品調達を求めた(提供:米ミサイル防衛庁)