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2023.05.16

WING

第176回「日本が危ない」来る有事に目を逸らしてはならない

いかに領土を守り抜くのか
渦中の南西で起きた悲劇

 

 中国による台湾侵攻は「あるかないか」ではなく「いつあるか」の議論に移っている。日本ももちろん対岸の火事ではいられない。なかでも緊張感が高まっているのが台湾と目と鼻の先にある沖縄県与那国島、石垣島、宮古島などの先島諸島である。昨年末に国家安全保障戦略など戦略3文書が改定されたことを受けて、いかに有事が起きた時に我が国の領土を守り抜くかが問われている。
 陸上自衛隊石垣島駐屯地の開設式典が行われた4月2日、防衛相、浜田靖一をはじめ関係者が出席するなかに、宮古警備隊長伊與田雅一(一佐、防衛大学校36期)の姿もあった。陸自幹部やOBから「頑張れよ」と声をかけられた伊與田は「はい」と明るく返事をしていた。
 それから4日後の6日、第8師団所属のUH-60JA多用途ヘリコプターが、海岸地形に関する航空偵察をしている最中に突然レーダーから消え墜落した。ヘリには第8師団長だった坂本雄一(陸将、防大35期)をはじめ8師団の幹部が搭乗していた。その中に伊與田も含まれていた。石垣島での式典に参加した関係者は4日前に伊與田の元気な姿を見ていただけに言葉を失った。
 伊與田は2022年3月に警備隊長に着任した。ホームページには「いつ、いかなる任務にも即応し、『宮古の守護神』として強い部隊の錬成に日々精進する」との意気込みを書いていた。
 坂本も事故1週間前の3月末に第8師団長に着任し、陸将に昇格したばかりだった。坂本は3月31日の着任式で「厳しい安全保障環境のなかで戦い方そのものが変化している。変化や進化を意識して、挑戦することを心がけてほしい」と隊員に訓示した。
 陸自の階級で最高位となる陸将の死亡事故は初めて。坂本は防大35期の中で最も早い陸将への昇格だった。35期ではトップだった人物は週刊誌によるパワハラ騒動で昇格が見送られた。陸自関係者は「最近の防衛省はパワハラ、セクハラという言葉に神経質になっている。それがなければ別の人事が行われていたかもしれない。人生って本当にわからないもの」ともらした。

 

信頼性の高い多用途ヘリ
事故の原因はローターか

 

 第8師団は、有事が起きた際、機動的に展開する「機動師団」に位置づけられていて、南西諸島への展開も想定されていた。坂本は着任早々、宮古島を訪れ、作戦計画を立てるため8師団幹部らと共に上空から地形を確認していたのだろう。陸自関係者は「リスクを避けるためにはヘリを2機飛ばすべきだったが、地形に関する説明を警備隊長から聞きながら幕僚らと打ち合わせるため1機で飛行したのではないか。UH-60JAはエンジン2基のうち、1基が停止しても飛行可能で信頼性が高いことも1機にした要因だろう」と語る。

 

※写真=4月2日に開設記念式典を行った石垣駐屯地(提供:防衛省)

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