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ATR、日本市場は25年までに100機需要
ボルテリCEO、「需要大半を獲得したい」
ATRのステファノ・ボルテリ最高経営責任者(CEO)が来日して11月15日、都内で記者会見にのぞみ、日本のターボプロップ機市場について「2025年までに100機の可能性がある」ことを明らかにした。ボルテリCEOはこの100機の需要の「大半を獲りたい」としており、日本市場のマーケット拡大に意欲的だ。
ボルテリCEOが見据える日本国内のターボプロップ市場としては、日本エアコミューターや天草エアライン、そして北海道エアシステムなどと既存の地域航空会社はもちろん、あらたな顧客獲得を狙う。さらに、政府系の特別ミッションに対応した機体を開発していることから政府関係機関、さらにはフェデラルエクスプレスがローンチカスタマーとなってフレイターを開発中であることから、貨物航空会社の需要も取り込みたい考えだ。
とりわけ日本市場で注目されているのが短距離離着陸性能(STOL)を備えたATR42-600Sだ。
標準型のATR42-600型の必要滑走路長が1000メートルであることに対して、「S型」の必要滑走路長は800メートル。短い滑走路でも離着陸することが可能な性能を有することになるこの機体は、未だローンチされていないものの、社内や潜在顧客との間で検討を重ねているとし、ボルテリCEOはその実現に自身をみせている。
日本市場でなぜ注目されているのか。それは東京都が小笠原新空港建設の検討を進めているためだ。周知の通り、小笠原は世界遺産に登録され、世界的に高い注目度を有する。一方、小笠原住民は週一回の船舶輸送が基本的な本土へのアクセス手段で、病院通いや出産などで本土に赴くのも一苦労だ。
「ATR42-600S型が東京-小笠原間に就航すれば、2時間で移動することができる。1機で毎年3万5000人を輸送することが可能」と、その利便性を強調する。
前述したように、この機体はローンチされていないものの、ボルテリCEOは「25-30機ほどの需要があれば、ローンチすることは可能」との見解を示していて、比較的少数の機体需要でもローンチに漕ぎ着けることができることを明かした。
ATRとしてはATR42-600S型について、SAAB340型、Dash8-100/200型、ドルニエ328型、そしてDash7といった経年劣化した機体の更新需要を見込むことができるとしている。
次なるターボプロップ機登場は?
ハイブリッド化など研究進む
ATRが「-600」シリーズを顧客に初めて引き渡したのは2010年のこと。以来、オールニューの新型機を市場には送り出していない。ボルテリCEOは「ATR42/72-600型は常に改良を続けてきた機体だ」とコメント。ボルテリCEOが話すように、最先端のアビオニクスの搭載やパイロット支援システム「CLEARVISION」をオプションで搭載することができるようにするなど、改良を進めた。この「CLEARVISION」では、悪天候時の視界不良な運航環境であっても安全運航することを支援する。さらにはGeven社の最新座席を搭載することができるようにするなどのアップデートも図った。「いまはATR42/72型にリソースを投入している」と話すなど、新型機の開発に踏み込むことには慎重な姿勢だ。
ただ、一方で先ごろ、ニュージーランド航空との間で、将来のターボプロップ機のハイブリッド化や電動化、さらには空港インフラなどを含めた調査研究を行うことで合意した。こうしたハイブリッド機や電動ターボプロップがいつ実現するかについては言及を避けたが、こうした調査研究を進めていくことで、次世代のターボプロップ機は更に高効率かつ静かなプロダクトへと進化していくのかもしれない。
※写真=会見に臨んだATRのステファノ・ボルテリCEO
※写真=漫画家の松本零士氏(左)から絵画を贈られたボルテリCEO