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2023.12.07

WING

第190回「日本が危ない」他人事では済まない南シナ海

緊張続くアジア太平洋情勢
なぜ実行しないブイ強制撤去

 

 11月に米中、日中と相次いで首脳会談が行われ、一見対話ムードが高まっているかのようにみえるが、アジア太平洋情勢は依然として緊迫している。ロシアによるウクライナ侵略、イスラム原理主義組織ハマスによるイスラエル襲撃はいずれも「抑止」に失敗した結果、起きた。アジア太平洋において第三の戦争を起こさせないためにも、「抑止」を強化する必要がある。
 11月22日の衆院予算委員会、首相、岸田文雄は尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)に中国当局が設置した大型ブイに関し、「ブイの撤去も含め、可能かつ有効な対応を関係省庁で連携して検討していく」と語り、撤去に踏み切る可能性に初めて言及した。
 日本政府がブイを発見したのは7月。にもかかわらず公表したのは9月に入ってからだった。しかも、9月の内閣改造で親中派の林芳正に代わって外相に就任した上川陽子は、ブイの撤去について国際法に関連規定がないとして慎重姿勢を示した。11月の首脳会談開催を優先し、中国と軋轢を生むのを避けたとの見方もある。
 政府方針に対して、閣内からも経済安全保障担当、高市早苗が「撤去すべき」と異論を唱えるなど日本政府の対応を疑問視する声が強まった。
 そもそもこのブイは何の目的で設置されたのか。7月2日、中国の作業船「向陽紅22」が現場海域で活動していたことが確認されている。この船が直径、高さともに10メートル程度の大型ブイを設置したとみられる。
 元防衛庁情報本部長の太田文雄はシンクタンク「国家基本問題研究所(国基研)」の「ろんだん」に、中国側の狙いについて「巨大ブイを設置した海域は、台湾に侵攻する中国艦船を仮に我が国潜水艦が攻撃するとすれば、その潜水艦の進路にあたる。そのためブイ設置の目的は、我が国潜水艦の動向をソナーで探知して、その情報を東部戦区司令部に送ることにあるのではなかろうか」とみている。
 上川は「国連海洋法条約には明文規定がない。個別具体的な状況に応じた検討が必要で、可否を一概に答えるのは困難だ」と答弁した。だが、太田は国連海洋法条約第246条2項で、沿岸国への事前申請を制度化しているが、中国は事前申請海域外での海洋調査活動、あるいは事前申請がない活動を情報本部長時代、年間二桁も行っていたとし、「外相はブイの強制撤去をしない理由を探しているとしか思えない」と批判した。

 

南シナ海でも同様の事案が
比国との対応差が一目瞭然

 

 似たようなケースはフィリピンでも起きた。9月26日にフィリピン沿岸警備隊は、フィリピン漁船の漁を妨害するため中国の海警局などによって設置された障害物を撤去したと発表した。日本との対応の違いは際立っている。

 

南シナ海では10月に日米で共同訓練を行った(提供:統合幕僚監部)

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