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2024.01.04

WING

羽田衝突事故、全乗員乗客脱出まで18分間でJAL機では何が?

 衝撃影響か開かれたコクピット扉、連絡用インターフォンも故障

 去る1月2日に羽田空港で発生した日本航空(JAL)516便(JA13JX)と海上保安庁のボンバルディア300型機(MA722A)の衝突・炎上事故。ランディングギアが接地した17時47分の直後、海上保安庁機と衝突した。全乗客乗員の脱出を確認し、最後にJALの機長が脱出して機外へ降り立った18時05分までの18分間に、どのような対応がなされていたのか。その内容が徐々に明らかになってきた。
 JAL516便のコクピットには、3名のパイロットがいた。左席の機長はA350の教官も務める超ベテランパイロットだ。一方、右席に座っていたのは767型機からA350への型式移行に向けてOJT中のパイロット。もちろん国家資格は取得済みだが、JALでは実際の定期便を使って業務実習を副操縦士へ昇格する要件に課しており、そのOJT中だった。
 右席のパイロットがOJTということで、社内規定に定められているように、すでに副操縦士の資格を得ているセーフティパイロットが3人目としてオブザーブシートに乗務していた。
 着陸時、操縦していたのは右席に座っていたOJT中の副操縦士。JAL516便は管制との交信で、C滑走路(34R)への着陸進入継続指示を受けた。この指示を復唱したJAL516便はC滑走路に着陸。コクピットでは3名のパイロットはいずれも海上保安庁機の滑走路進入を確認することができず、接地して一瞬、影のようなものが確認されたとことが報告されている。接地直後、機体は大きな衝撃を突然被ることになり、この衝撃が海上保安庁機との衝突で、約1000メートル滑走した地点で機体は完全に停止した。

 L2扉付近の客室乗務員が火災確認
 8つの旅客扉のうち3カ所使用判断

 機体が完全停止した際、コクピットでは当初、火災が発生した認識は無かったという。しかしながら客室乗務員からの報告で火災の発生を認識。緊急脱出の際のチェックリストに沿って手順通りにエンジンを切るなどの操作を全て終え、緊急脱出時に機外へ持ち出す必要のある搬出物を手に取って、機長は客室へと移動した。機長が客室へと移動した際、客室では既に旅客の脱出が行われていた。
 機体が完全停止した後、客室乗務員は旅客のパニックコントロールを開始。大声を張り上げながら旅客がパニックを起こすことがないよう努めた。その後、L2付近の客室乗務員が左エンジンからの出火を確認する。その報告を受けた機体前方にいた客室乗務員のチーフも左エンジンからの出火を確認し、コクピットに報告に向かった。この際、事故の衝撃のためか、何らかの理由でコクピットの扉が開いていたという。
 A350-900型機には計8つの旅客扉があって、客室乗務員は機外の状況をそれぞれ確認した。火災の発生状況、脱出シュートを開くスペースなどを考慮して、客室前方のL1およびL2、そしてL4を脱出に使用する判断を下す。
 脱出シュートを開く場合、手順通りならば客室乗務員は機長の最終判断を仰ぐことになる。客室前方の客室乗務員はL1およびL2扉を使った脱出を機長に進言し、機長の指示の下で、L1およびL2扉を使った脱出を開始した。
 一方、客室後方の客室乗務員は、R4扉の機外に炎が見えたため、R4の使用は断念。L4側は火災が確認されず、脱出シュートを開放するスペースにゆとりがあったことからL4扉を開放することを決めた。インターフォンシステムを使って機長にL4扉を使った脱出を進言しようと試みたものの、何らかの理由で故障してしまう。そのためインターフォンシステムを使用することができず、コクピットと連絡することができなかった。そこでコクピットとの連絡が途絶したことを想定した訓練プログラムに従って、客室乗務員自らの判断でL4の脱出シュートを開き、旅客の脱出を開始した。
 一部の扉が故障して作動しなかったとの報道もあったが、そのようなことは確認されておらず、客室乗務員の判断で3カ所の扉を使った脱出が行われることになった。

 取り残された旅客がいないか1列ずつ確認
 数名の旅客を確認も前方扉へ誘導

 緊急脱出時の全てのチェックリストの確認を終えた機長が客室に移動したところ、客室内はすでに煙が充満してきており、視界が悪化。客室後方を機長の視界に捉えることはできず、機長は客室後方の確認に向かおうとしたものの、脱出する旅客とのすれ違いなどで思うように後方へ向かう事はできなかった。旅客の流れが途切れるタイミングを見計らって取り残された旅客がいないか、1列ずつ確認して後方へと向かった。
1列ずつ確認しながら移動したところ、やはり数名の旅客が座席に残っていたとのことで、機長は前方の脱出口へと誘導。全旅客の脱出を確認後、客室乗務員、パイロットらが客室後方のL4から脱出した。
 脱出した旅客は、機体からやや離れた場所で集団待機していたが、火災が大きくなって爆発の危険等を考慮し、より安全な位置まで退避した。
 その後、退避していた旅客は複数台のリムジンバスでターミナルへと移動。怪我や体調などの確認が行われたほか、連絡先、今後の対応などが伝達され、それぞれ空港を後にした。

※写真=燃え尽きたJALのJA13JX