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2024.05.13

WING

シリーズ~羅針盤第3回~中小企業が支える航空機製造業とその将来

アクセンチュア・清水健氏

  『羅針盤』の第1回で、航空機製造業を取り巻く事業環境とそれを自社の成長に繋げるための方法論の概要を論じた。日本の航空機製造業は「双通路機×構造部材」に偏重しているため、グローバルの成長を手放しでは享受できず、短期的には事業継続性やコスト競争力の担保が、長期的には事業構造の転換が必要であることを述べた。今回から複数回に亘って克服が必要な3つのチャレンジのうち2つ目として紹介した「熟練労働者や中小企業への依存度の高さ」について詳細に論じたい。今回は、中小企業を取り巻く事業環境とその対応策の概要を述べたい。
 まず、「中小企業」という言葉の定義をしておきたい。大前提として航空機製造業は他産業に比して中小企業の存在感が大きい。実際、世界には2万社を超える航空機製造業の会社が存在するが、そのほとんどが売上高1億米ドル以下の会社である。本稿で論じたいのはある程度規模のある「中小企業」ではなく、中小企業庁が定義するような「資本金3億円未満または従業員数が300人以下」の会社である。
 航空機製造業には、国の安全保障にも直結するため厳格なレギュレーションがあり、また他産業に比べて技術的なハードルが高く実績を重要視するため、新規参入や事業集約の壁が高い。また他の製造業に比べても量産数が少なく事業規模が必ずしも大きくなかったり、キャッシュコンバージョンサイクルが長かったりと、資金力や人的資源に限りのある中小企業にとって必ずしも魅力的な事業領域ではない。そのため、自動車産業など他の製造業が過去に捨て去った業界構造が、2020年代に入っても維持されている。加えて、そうしたコアとなる構造部材の加工や製造を担っているのは中小企業よりさらに規模が小さい小規模事業者である。小規模事業者は航空機製造業のコアであり、仮に彼らが何らかの形で事業を継続できないと機体の部品の製造ができなくなる。さらに、小規模事業者は機体の最終製品の品質そのものに影響する。2020年初頭のボーイング787の品質問題は、従業員数が20人に満たないTier2のサプライヤーの一社が引き起こした問題であったとされるのは記憶に新しい。
 昨今の航空機製造業を取り巻く事業環境は、これまで通りの小規模事業者の在り方を否応なしに変質させうる。大きなものは3つあり、①労働力の減少②新技術開発やランプアップ③最終OEM (Original Equipment Manufacturer、実際に航空機を組み立てるメーカー)によるサプライチェーン管理の強化である。順に論じていきたい。