記事検索はこちらで→
2024.12.09

WING

尻に火が付く日本航空機産業、DX技術獲得急げ

 現状地位維持さえ危うい崖っぷち、Kプロに期待大

 欧米の航空機産業先進国を中心に航空機設計のデジタルプロセス連携が急速に進んでおり、航空機あるいはエンジンのライフサイクル全体をデジタル空間で再現し、一元的に管理するような構想が示されている。何も航空機産業だけに限った話ではないが、日本はDXの波に乗り遅れており、欧米OEMが主導する航空機産業では致命的なものとなりかねない状況だ。モデルベースで設計・解析・認証し、スマートファクトリーで航空機を製造する―――。こうしたDX技術を、日本の航空機産業が確立していくことが、喫緊の課題となっているのだ。
 尻に火が付いた日本の航空機産業は、経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program:Kプロ)」の一環として昨年、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「航空機の設計・製造・認証等のデジタル技術を用いた開発製造プロセス高度化技術の開発・実証」をスタートした。
 同事業を通じて、モデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)、シミュレーション技術などのデジタルトランスフォーメーション(DX)技術を活用し、民間航空機開発の前提となる設計・認証・生産を統合した革新的なプロセスの構築に取り組む方針だ。
 設計・認証・生産の各段階に関する情報を一元的に管理し、デジタル技術によって相互に連携する手法を開発することにより、日本の航空機産業の国際競争力向上、そしてグローバルサプライチェーンにおける生き残りを目指す。
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)航空技術部門の航空機DX技術実証(XANADU)プリプロジェクトの溝渕泰寛チーム長は「もしこれができないということになると、今の地位の確保さえ危うい。そういう危機的な状況にあるとも言える」と警鐘を鳴らす。
 そこでKプロでは2023年度から2027年度まで(予定)の期間を対象に、およそ150億円を投じて航空機の設計・製造・認証等のデジタル技術を用いた開発製造プロセス高度化技術の開発・実証に取り組むことになった。 同事業の代表機関はJAXAが務めていて、三菱重工業、川崎重工業、SUBARU、IHI、日本航空機開発協会(JADC)らを中心に取り組みを進めている。
 事業としては設計・認証・生産・統合の4フェーズで構成。このうち設計フェーズでは、航空機設計のDXに取り組むこととし、MBSEとモデルベースディベロップメント(MBD)の連携技術を基にした参照モデル(リファレンスモデル)を構築し、国内の航空機産業界全体で共有することを目指す。
 さらに認証フェーズでは、航空機の認証業務を効率化する手法を開発し、国際的な信頼性保証フレームワークとの連携を図り、実用性の高いガイドラインを作成することを目指す。
 生産フェーズでは、航空機開発と生産全体を対象としたデジタル先行製品品質計画(APQP: Advanced Product Quality Planning)、エンジニアリングチェーンを対象としたMBD/MBI(Model-Based Definition/Model-Based Instructions)連携、サプライチェーンを対象としたスマートサプライチェーンの研究開発にそれぞれ取り組む方針だ。
 そして統合フェーズにおいて、設計フェーズ、認証フェーズ、生産フェーズの各フェーズの実証試験を通じて複数組織間でのデータ連携のあり方を提案する。さらに先進デジタルスレッド技術を確立することにより、設計・認証・生産フェーズの各プロセスをシームレスにつなぎ統合するための手法を開発し、国際共同開発において適用可能なプラットフォームを構築する構え。
 溝渕チーム長は「この活動で目指しているのは、単なるデジタル化ではなくDX。共通プロセスを共有して繋がることによって、航空機開発の未来のチケットを獲得したい」との考えを明かした。

※この記事の概要
・ 設計DX、MBSE・MBD連携でリファレンスモデルなど

※画像=航空産業におけるDX技術獲得に向けて産学官が協力して研究が進む。日本の航空機産業の生き残りのためにも喫緊の課題だ(出典:NEDO資料より)