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2025.01.07

ウイングトラベル

【潮流】ChatGPTと考える旅行業界の未来

2025年はAI旅行エージェントが本格的に普及
旅行会社の新たな脅威か、合理的・効率的手段か

 

 2024年の訪日旅行市場は12月を残して2019年の3188万人を上回り、観光立国基本推進計画の目標を1年前倒しして過去最高を記録した。一方で、2024年の海外旅行市場は1-11月累計で19年比64%の1182万人で、コロナ前の6割台の回復にとどまっている。主要旅行会社の海外旅行取扱額は19年比69%と海外旅行者数とほぼ同じ歩みを見せているが、海外募集型企画旅行(パッケージツアー)は募集型企画旅行は19年比で取扱人数が21%、取扱額が30%の水準に低迷している。
 そうした中で、2025年は生成AIからAIエージェントの時代に本格的に入ると予測されている。とくにAIと親和性の高い旅行は「AI旅行エージェント」の普及が注目されている。
 ChatGPTは、AI旅行エージェントの普及により、従来型のパッケージツアーや旅行会社の役割は大きく変化する。とくに、パッケージツアーは個別化された旅行プランに対抗するため、高付加価値化や特化型ツアーへの進化が求められると指摘する。
 一方で、旅行会社(リアルエージェント)について、AIが提供できない「人間味」や「感情的価値」を旅行体験に取り入れることで、「旅行会社は新しい競争力を生み出すことが可能。旅行業界はAI技術を積極的に活用しつつ、人間らしいサービスを組み合わせる『ハイブリッドモデル』へと進化していくことで、2025年以降の激しい競争環境を乗り切ることができる」と旅行会社を評価する。ChatGPT4と一緒に旅行業界の未来を考えた。(本紙編集統括:石原義郎)

ChatGPTと考える旅行業界の未来
AIとサービスの『ハイブリッドモデル』へ

 2024年は「生成AI」がより身近になった年だった。ChatGPTに代表される生成AIが一般にも浸透し、B2BからB2Cの世界にまでOpenAIが利用され、進化を見せた。とくに旅行業界では旅行のプランニングなどの商品造成から顧客データ管理、スケジュール管理、クレーム対応など生成AIの役割が拡大している。
 そうした中で、2025年は「AIエージェント」が本格的に普及する年と言われている。対話型の生成AI(Generative AI)から自律型のAIエージェントに進化すると、旅行のプランの作成からコンサルテーションまでAIが自律的に役割を担う。AIが旅行の日程や交通手段、ホテルなどを含めた旅行の企画を提案することが可能になる。AIが旅行に関する大量のデータを分析し、ユーザーの好みや予算に基づいて最適なプランを生成することができる。

 

ユーザーのニーズ分析、好み聞く
旅行企画提案、カスタイマイズも

 

 そのステップは、まずユーザーのニーズを分析し、観光、休暇、ビジネスなどの旅行の目的を把握、希望の旅行期間、予算、好み、特定の目的地やアクティビティのリクエストを聞く。
 次に、データ収集と分析を行い、航空券、電車、バスなどの交通手段の情報、ホテルや宿泊施設の空き状況、レビュー、料金、レストランやアクティビティのオプション、天候や季節イベントの情報などを収集する。
 そして、行程の最適化を図るために、移動時間や待ち時間を最小化する効率的なルートの提案、希望の観光地やアクティビティのスケジュール組み込み、ユーザーの体力や時間配分を考慮したプランニングを行う。
 そして、旅行企画の提案とカスタマイズのために、ユーザーに複数のプランを提示し、好みに応じて修正する。例えば、航空や鉄道などの輸送機関が満席の場合などを考慮して、必要に応じて代替案を提供する。
 既に、スカイスキャナーやエクスペディアは安価なオプションを提示しているが、こうしたOTAのプラットフォームを介さなくても、AIエージェントが個々に適した旅行プランを練ってくれる。
 個人として、投資、趣味、旅行、就活など多様な分野の活動に対して、個人がエージェント(代理人)を持つ時代が来るのだろうか。サブスクリプションで、そうしたAIエージェントと契約、さらにはそれさえも無料化していくのかもしれない。
 例えば、ChatGPTを利用していても、それだけではAIエージェントにはなり得ない。フライトや宿泊施設検索のAPIと統合、カレンダーAPIと連携、天気予報、為替レートのAPIを取得し、自動化ツールを利用することで、「AI旅行エージェント」が構築できる。そのスクリプトもChatGPTが作ってくれる。これからは、それがもっと分かりやすく、簡単に構築できるようになるのだろう。

 

旅行会社のシェアさらに減少
顧客ニーズの高度化に対応

 

 AIエージェントの本格的な普及は、旅行業界にとって大きな脅威とはならないだろうか。ChatGPTはAIエージェントについて、「旅行会社にとって大きな変化をもたらし、一部では脅威と捉えられる側面もある。ただし、その一方で、旅行会社にとってAIエージェントは新たな機会を生み出し、競争力を高めるツールにもなり得る」と指摘する。
 AIエージェントがもたらす脅威としては、まず個人旅行の台頭がある。AIエージェントは、ユーザーが簡単にフライトやホテルの予約、旅行プランの作成を行うことができるため、旅行会社を介さない個人旅行が増加する可能性がある。とくに、従来旅行会社を利用していたユーザーが、AIエージェントによる自動化されたサポートに移行することで、旅行会社のシェアが減少することが予想される。
 また、価格競争も激化する。AIエージェントはリアルタイムで多数のプラットフォームから最安値のフライトや宿泊施設を比較し、提案できる。低価格を標榜する旅行会社にとっては、AIエージェントの普及は収益性を圧迫する要因となるかもしれない。
 さらに、AIエージェントの登場によって顧客ニーズが高度化する。AIエージェントはユーザーの好みや過去の履歴を学習してパーソナライズされた提案を行うため、従来の一律なパッケージツアーよりも魅力的な選択肢を提供できる場合がある。これにより、旅行会社のパッケージツアーが相対的に競争力を失う可能性がある。
 当然のことだが、AIエージェントは24時間対応で、問い合わせや予約変更に即座に対応する。これに対して、人的リソースに依存する旅行会社は対応速度や時間帯の制約で不利になる。

 

旅行会社の内部業務を効率化
顧客の付加価値体験を収益化

 

 こうしたこと脅威がある一方で、AIエージェントが旅行業界にもたらすメリットもある。AIエージェントは旅行会社の内部業務を効率化するために活用できる。例えば、問い合わせ対応、顧客データ分析、見積作成、予約管理などのタスクを自動化することで、人件費を削減しつつサービス品質を向上させることが可能だ。既に、生成AIでこれを活用している旅行会社も出ている。
 次に、パーソナライズされたサービスの提供が挙げられる。AIを活用することで、旅行会社も顧客一人ひとりに最適化されたプランを提供できる。例えば、AIエージェントを用いて、顧客の趣味嗜好に基づく提案や、旅行中のリアルタイムサポートを行うことが可能になる。
 また、新しい収益源の創出も期待できる。旅行会社はAIエージェントを顧客向けのサービスとして提供し、付加価値のある体験を収益化することが可能だ。例えば、旅行会社独自のAIエージェントを開発し、パッケージツアーやオプショナルツアーの提案に活用する。
 さらに、AIエージェントが収集する膨大な顧客データを分析することで、新たな旅行トレンドを把握したり、顧客ニーズに基づく商品開発が可能になり、旅行会社がAIエージェントを積極的に導入することで、他社との差別化を図り、AI未導入の競合他社より優位に立つことができる。

 

AIエージェントとOTAの関係
OTAありきから選択肢の一つに

 

 AIエージェントと旅行会社との関係もさることながら、AIエージェントとOTAとの関係もこれから注目される。旅行会社(リアル・エージェント)にとって、OTA(オンライントラベル・エージェント)は脅威の存在だったが、AIエージェントはOTAを凌駕しかねない可能性を持っている。
 OTAは自社プラットフォーム内にAIエージェントの機能を導入している。事例としては、エクスペディアやブッキングドットコムはAIチャットボットやAIプランナーを提供している。OTAはAIエージェントと提携して、旅行の予約、リアルタイムサポート、ポイント提供などのユーザー満足度を向上させている。
 ただ、個人のAIエージェント利用が進むと、OTAに直接アクセスする必要性がなくなる。AIエージェントがOTAや旅行会社の価格を比較して最安値を提示することで、OTAも選択肢の一つになる。OTAは収益源の手数料率や価格設定を見直す必要に迫られかもしれない。
 ChatGPTは、AIエージェントの普及によるOTAの生き残り戦略として、AIエージェントの自社開発、AIエージェントや他の旅行プラットフォームとの提携、相互利用、高付加価値旅行・テーマ型旅行などの組み込みなどを挙げている。これらは既に動き出している部分もある。
 ただ、これまでのように最初にOTAありきではなくて、ユーザーはまずAIエージェントに「相談」して、その次の行動として、旅行会社、OTA、輸送機関、宿泊施設、現地交通手段、アクティビティなどのプラットフォームにアクセスすることが考えられる。

 

AI活用で効率化と個別化を図る
旅行業界しかできないことを深堀り

 

 AIエージェントの登場は、旅行会社にとって脅威とはなるが、これを利用することで、新たなビジネスモデルを創出すると考えてほうがいいのではないか。個人が便利なように、旅行会社にとってもAIエージェントほど便利なものはない。
 旅行会社がリアルエージェントならではの付加価値を追求しつつ、AIを活用した効率化と個別化を図ることで、変化に対して柔軟に適応することができる。
 インターネットが世に出た時から流通が劇的に変化し、その流れからOTA、生成AI、そしてAIエージェントが登場し、また新たなイノベーションが起こる。その流れを利用しながらも、旅行業界がやるべきことは、業界でしかできないことを深堀りしていくことに尽きるのではないか。
 「旅行会社ならでは」「旅行会社だから」のキャッチフレーズは、「OTAや個人の旅行では無理なことが旅行会社ならできる」と謳っているとするなら、それをさらに深化させ、新たなものへと昇華することを期待する。それがパッケージツアーの新たな形、ひいては旅行業界の未来につながることを願う。